30:アイスクリーム
二〇〇七年六月三〇日 土曜日
東京都 渋谷区 MKNホール ステージ
「んなっ!」
一瞬、我が目を疑った。
『はぁい、今日の大切なライブのオープニングアクトを務めてくれるのはぁ、
私たちが垂幕の奥でスタンバイをしていて、いざ本番という時の、前説。
ゆっくりと垂幕が上がりながら聞こえてきた子供っぽい喋り方。
「
「何で!」
ハンドマイクでにっこにこしながら史織はこっちを見た。私は瞬間的に
『このバンドはね、今日のために態々組んでくれたバンドなんだって!知ってる?ドラムとベースは
どどどぉ、っと歓声が上がる。殆どが
「な、何故ばれたし……」
どこから情報が漏れた?まさか顔見知りの犯行か?
だとするならば
ぐり、とステージの上手袖に目をやると、
『そんで、フロントの二人はなんとなんと、史織の娘!
「だれだぁ!バラしたの!」
ドラムセットの真ん前に歩み寄ると、夕衣も貴さんも寄ってきたので、私は声を張り上げた。
「オレじゃない!オレじゃねぇぞ!」
と、諒さん。
「おれでもねえズラ!なんでばれてんだよ!」
と、貴さん。
「わたしな訳ないでしょ!」
と、夕衣さん。目ん玉も飛び出さんばかりだ。
「くぅ……」
そうだ。このメンバーではありえない。だって私たち四人は史織を驚かせることをずっと楽しみにあれやこれやと計画を立ててここまでやってきたのだから。もしもこの中に犯人がいるのだとしたら、手加減なしで不破の奥義を叩き込んでやる。鎌鼬が頸動脈を襲うぞ!
『まぁまぁそんなことより張り切っていこう!ママ超たのしみ!』
くぅ、またしても史織にしてやられるとは思いも寄らない。さすがに十九年しか生きていない小娘と、四四年も生きてきた小娘(?)では色々と、レベルだかキャリアだかが違うのだろう。
もうこの際なんだっていい。
「おぉー!もう自棄だ!Rossweisseでっす!」
自分の立ち位置に戻ると、が、と顔を上げて客席を見回す。改めてというか、今初めて気付いたというか、多すぎることから意識的に目を背けていたというか、ともかく、現実を目の前にするとこれはもうライブなんてレベルじゃないことだけは辛うじて判る。
これはもはやコンサートだ。ざっと見ても千人以上はいるのではないだろうか。みんなsty-xのファンだということは判っているけれど、こんなに大勢の前で演奏なんてしたことがない。改めてsty-xの偉大さ、その偉大なバンドのリードギターを張っていた史織の偉大さを思い知らされる。
「史織の言う通り、私は史織の娘で柚机莉徒!で、友達の
夕衣をディーヴァだと言ってやろうかとも思ったけれど、どんな悪影響が出るか判ったもんじゃない。私は実は
色んなフラストレーションがごちゃまぜになってしまったので、それを発散させるように私はでっかい声で叫んだ。
「
緊張はしてない。ギターボーカルもギターソロもばっちりできた。夕衣もきっちりソロを弾いていたし、表情を見ても緊張した様子はなかった。やっぱり変なところでクソ度胸のある女だ。
「はいどうも、えーとRossweisseです。最初に史織さんが言ってくれたように、このバンドはね、おれと諒で考えて、前々から仲良くさせてもらってたこの二人、元々学生バンドはずっとやってた二人で、聞いてもらっての通り、ものすっげぇうまいでしょ、だから一緒にやってみない?って誘ったんだけどね。大正解だったね」
三曲終えてMCに入る。内容は全く打ち合わせてはいないけれど、基本的には諒さんと貴さんで喋ることになっている。まず最初のMCは貴さんが喋ってくれたので、私もそれに邪魔にならない程度に乗っかるようにした。
「最初は驚きましたけどね」
「まぁでもそんで、sty-xの姐さん達の復活を祝福しようじゃねぇか、ってなったんだよな」
ちん、とライドシンバルのエッジを軽くたたいて諒さんが笑った。
「今日まで史織にはナイショで通してきたと思ってたのに」
「なぁ、なんでバレたんだろうな」
本当にそれが謎だ。謎すぎる。
「そらsty-xのMCで語ってもらうとして、んじゃね、次の曲はsty-x復活を祝しまして、一曲カバーをやらせていただきますよ!」
「
曲名を紹介した瞬間、推定千人以上の客からうぉー!と声が上がった。Sprigganはsty-xの中でもかなりの有名曲だ。恐らくsty-xファンは、ここで私たちがSprigganを演奏してしまっても、sty-xが本番でSpirigganをやってくれることを判っているような気がする。sty-xのセットリストは私も知らないけれど。
sty-xには千織さんというキーボーディストがいる。けれど私達にはキーボーディストはいない。sty-xではコード弾きもメロディの差し込みも、ギターとシンセサイザーがしょっちゅう入れ替わるので、その辺はアレンジさせてもらっている。この楽曲は元々がヘヴィメタルライクなサウンドなので、ギター二本の私たちでも曲が破綻しないアレンジが上手くできた。
私がギターボーカルなので、私は殆どコード弾きに専念する。バッキングしながら歌うのは楽だし気持ち良い。ボーカルの香織さんはそもそも高音域のボーカリストではないため、唄も歌いやすい。コピー曲をやる場合、キー変更しないで良いのは竿物隊はとても気が楽になる。
この曲はギターのソロとシンセのソロがあるのだけれど、シンセのソロをギターで弾こうとするととてつもない飛び弦と速弾きになるので、私が音を分解して再構築して、ギターでも弾けるようなアレンジに変えた。ジャーマンメタルっぽくなったけど、そもそもの原曲がシンセの音色もパイプオルガンみたいな音だし、ジャーマンのお手本!みたいなソロだから、全く違和感なく弾ける。前半の元々のギターソロは夕衣が弾いて、後半のシンセのソロだったアレンジを私が弾く。
隣で貴さんがヘッドバンキングをしながらベースを弾く。大体この手の曲はベースは簡単なことが多い。間奏等は特にギターの邪魔にならないようにルート音だけを弾いている場合が殆どだから、身体の動きに弾きがつられてしまうこともない。はずなのだけれど、夕衣のヘッドバンキングは正直言ってヘタクソ以外の何物でもない。ヘドバンというよりもシーソーでぎったんばっこんなってる感じ。でもすごい一生懸命だ。笑ってしまいそうになる。それもそもそも夕衣は動きのある演奏をしてこなかったから、夕衣の楽曲の傾向と弾き語りというスタイルでは動けないのも仕方がないことだけれど。
「サンキューありがと!」
曲が終わって私はが、と手を挙げた。おおおおお、と怒涛の様な歓声が轟く。こんなどこの馬の骨とも知れない小娘に声援を送ってくれるとは、sty-xのファンは暖かい人たちばかりだなぁ。史織の娘、-P.S.Y-の助力という好条件があったにしたって。
次はそのまま二曲続けなければならない。背後のベースドラムの脇に置いてある水を一口飲んで私は振り返った。
「そいじゃラスト!いきますよー!」
おぉぉ!と声が上がる。勢いはちっとも衰えていない。次の本命、sty-xのステージに備えて暖気は完全に終えた状態だ。面目躍如といったところだろう。
もう最後の曲だ。こんな大勢の前で演奏することがこんなに気持ちの良いことだったなんて知らなかった。前に中央公園の野外音楽堂でやったときも結構な人数はいたけれど、こんなに多くはなかった。なるほど大きな会場でやりたがるプロのミュージシャンの気持ちも何となくは判る気がした。
「最後、今日限りのオリジナルです!このバンドも今日一回きりです!最初で最後の一曲なんで、盛り上がって下さいね!」
もしかしてこのライブが映像で残されたとしたら、動画サイトなどに上がる可能性はあるけれど、ライブでは本当に、このステージこれっきりの曲だ。-P.S.Y-のブログでもばっちり宣伝していたようだし、もしかしたら-P.S.Y-の諒さんや貴さんのファンの人たちも多く来てくれているのかもしれない。
どろろろん、とフロアタムのロールからゆっくりとシャッフルビートっぽいドラムソロ。この辺は諒さんのフリーだ。私はゆっくり大きな手振りで手拍子を取ってお客さんを煽る。夕衣も貴さんもそれに合わせてくれた。こういう時におかしいのが、裏で手を叩く人。合わせるのが苦手なのか、リズム感がないのか、とことん裏でリズムを取る人なのかは判らないけれど、全体的な大きな動きの中で真逆にずれているのは面白い。
少しすると今度は貴さんがグリッサンドと共にイン。貴さんはサビのフレーズをゆっくり弾いているだけだけれど、ベースソロのようにも聞こえる。あぁ、楽しそうに弾いてるわ。
それからさらに夕衣のバッキングが入る。夕衣はエレアコやセミアコばかりを弾いてきたので、ロックギターのミュートカッティングなどは最初は苦手だった。それほど難しい技術ではないとはいえ、さすがは練習の虫だ。もうすでに自分の物にしていた。夕衣が本来一人でやってきた音楽にもきっと役立つはずだ。
ややあって諒さんのドラムが少しボリュームアップ。客の声援や手拍子も大きくなってくる。判り易いカウントまがいのきっかけフレーズを叩いてくれて、私たちが一斉にシャッフルビートを走らせる。
「バイバイロックンロール!」
私は声の限りに叫んでバッキングに集中する。夕衣がリフレクションをほぼ棒立ちで、フレットもガン見で弾いているのが笑える。単音弾きにはもう慣れているはずなのに、動きながらではまだ弾けないんだ。
それでもリフレクションが終わって私が歌いだせば、今度は夕衣がメインのバッキングをする。この曲のバッキングはさほど難しくはないので夕衣も動きだした。
私の後ろに貴さんがきて、それを見た夕衣も私の後ろに来る。私の真後ろだと客から見えないだろうから、ステージ右手側に寄っているのが判る。つまりは夕衣側だ。ちょっと、私も歌ってなかったら交ざりたいんだけど!と思ったら二人は私を挟むようにして前まで出てきた。夕衣がギターのヘッドをぶつけないように、マイクに顔を寄せる。お、もしかして歌うのか!と思ったらおー!おー!って声を上げただけだった。夕衣だから良いけど、貴さんにこんなに顔を近付けられたらさすがにちょっと避けるかもしれない。
気付いたらもうギターソロだ。この曲は八小節を二セットで、最初の八小節は私が弾いて、後半の八小節を夕衣が弾くことになっている。
サビ最後のロングトーンと同時にブースターを踏み込んで一弦一三フレットをチョーキング。よっしゃ、いい音!
貴さんがボリュームペダルを踏んで、ベースの音量をほんの僅かに下げる。貴さんはこういう他の楽器の見せ場では本当に他の楽器を邪魔しない、生かす弾き方をする。それは単に音量だけにとどまらず、フレーズでもギターとかぶりそうなところはルート音だけの弾きに変えたりと、ただギターを弾きまくるしか能がないばかなギタリストには絶対に判らない細やかな気遣いがあるのだ。
(くはー、気持ちいい!)
私は結局こっち側の人間なんだと実感する。例えばここ数年で頭角を現して、もはや女性ボーカリストのカリスマとも言われるようになった
変わっているということは強力な武器にもなるけれど、脆弱な弱点にもなりかねない。
変わっているだけではすぐに飽きられてしまう。ロックのスタンダードナンバーなんて、リフが回ってナンボの何の変哲もない曲が多い。そういった普遍的な何かの中で、突出した変わっている部分を出せなければ、きっとすぐにお手軽に跋扈している変わっているの中に埋もれて、スタンダード以下になってしまう。
(あぁ、もう終わっちゃうぅ)
半小節、ソロの締めで高速オルタネイトピッキングをかましてブースターをもう一度踏み込むと、音をトーンダウンさせる。その瞬間、今度は夕衣の高速オルタネイトピッキングが走り出す。曲自体はシャッフルリズムのハネたテンポだ。だからただ単にオルタネイトしただけでは雰囲気も何もなくなってしまう。けれど夕衣のオルタネイトはきっちりハネてる。凄く巧くなった!私も貴さんに合わせて、コードのロングトーンを弾きながらバンバン頭を振る。あぁもう明日絶対首動かない。夕衣は大胆にもモニタースピーカーに片足を乗せて細かいフレーズを弾きまくる。
(くぅ~、やっぱりこいつ何やらせても巧い!)
その形相と言ったら余裕の欠片もなく、必死そのものだけれど。
夕衣とは出会ってから一年とちょっとだけれど、一生の親友でいたいし、生涯のライバルであって欲しい。今のところこいつには彼氏がいるからそこだけは負けているかもしれないけれど、ギターでは絶対負けない。でもずっとお互いを認め合える仲でいたい。
そんなことを考えながら夕衣を見ているともうソロも終わりに近付いてきた。私は再びマイクに近付く。
あっという間のBメロに大サビ。歌い終わってふとステージを見ると、みんなが手拍子をしてくれていて、一瞬泣きそうになってしまった。後はアウトロだ。ソロではないけれどリフレクションを弾くためにまたブースターを踏み込む。夕衣もコード弾きだけれどブースターを踏み込んで、貴さんもボリュームペダルを踏んだ。唄も単音弾きのソロもないので竿物隊はここでラストスパートだ。それに負けじと諒さんも音圧を上げてくる。
「……!」
(いや)
音圧と言うか、何だこれは。存在感というかプレッシャーがハンパじゃない。背中をどん、と物理的に押されたみたいに、思わず一歩前に足が出てしまっていた。
(……これ、本気だ)
ぞわり、と全身に鳥肌が立つ感覚。本気の谷崎諒のドラムだ。気を抜くとブーストしてる私の音でさえもあっと言う間に食い散らかして行く。
(負ける、もんか!)
精一杯の負けん気を引っ張り出してすぐ隣にいる夕衣の肩に私の肩をぶつける。夕衣も判っていたようで私の顔を一瞬見てにやりと笑った。それでこそ我が相棒だ。
すっとぼけたにこやかな顔で、それでも諒さんのドラムに何ら気後れしていない貴さんのベースに、少し腹が立つ。
貴さんは多分加減してる。私はくるりと振り返って一瞬ロングトーンを弾くと、ピックを持ったままの右手の中指を立てて貴さんに見せた。貴さんはそれを見ると挑発的な笑顔になって私たちと同じ最前まで出てくる。どん、と肩をぶつけ合うとモニタースピーカーに足をかけ、そのままスラッピングベースに移する。うわ、
あと二小節。
水沢貴之、谷崎諒の、-P.S.Y-のリズム隊に負けてなんかやるもんか。
バンドは家族だって、私たちは家族だって二人は言ってくれたけれど、今この場は殆ど戦場だ。私は夕衣と一緒にギター一本を武器に、プロのリズム隊に戦いを挑んでるんだ。
言葉では言い表せないほどの、ものすごい高揚感と焦燥感。
収まらない鳥肌は焦燥からなのか高揚からなのか、判らないままだ。
きっとこんな経験二度とできないかもしれない。
ラスト一小節を殆ど無心で弾き終えて、だーん、と最後の締め。Aのコードからオクターブを上げてハイフレットへ移行するとそのままチョーキングからハーモニクス。
だんどんどん、だーん、と最後に全員揃って曲の、ライブの締め。私はすかさずマイクに向かって叫ぶ。
「サンキューありがと!Rossweisseでした!バイバイ!」
どぉ、と客席全体から震えが伝わってるくらいの歓声とスタンディングオベーション。ぞわわわ、と再び全身に鳥肌が立つ。普通のライブハウスではまず味わえない感動だ。
「おつかれ」
いつの間にか私と夕衣の背後に回っていた貴さんが私と夕衣の頭に手を乗せて、優しく言ってくれた。
「うわちょ、待って、泣きそう」
「……」
わーもう夕衣は泣いちゃってるよ。
「ありがとな、おれたちに付いて来てくれて」
「そ、そんな、なに言ってっ」
駄目だ。私ももう言葉が出ない。
「泣いててもいいから、とりあえず、お客様にスマイル!」
「はい!」
私はお客さん全員に感謝の気持ちで頭を下げると、目一杯の笑顔で顔を上げた。
「お疲れ様。転換で三十分は見るみたいだからちょっと休憩しなさい」
垂れ幕が下りて、舞台袖に移動した私達を美奈さんが出迎えてくれた。
「はぁい」
言われるがままに控え室に戻って、わたしと夕衣はぶっ倒れるようにソファーにもたれかかった。
「うぅ、限界……」
「わ、わたしも……」
緊張はしていなかったと思っていたのにこの脱力感。きっとい気付いていないだけで物凄く緊張はしてたんだ。だってこの疲れよう、半端ないもの。前にも諒さんとはバンドしたことはあったけれど、こんなに疲れはしなかった。きっと本気のプロとやるっていうのはこういうことなんだ。
「最後の最後でおれらに喧嘩売るからだよ」
実に嬉しそうに貴さんは言う。
「ちがいますぅー。諒さんが売ってきたんですぅー」
「おー、良く判ったじゃん」
夕衣が貴さんにそう応えてうえぇーと呻いた。夕衣も普段していない動きをしたからきっと明日は体中のそこかしこが痛くなるぞ。
「絶対負けたくないって思って莉徒見たら莉徒がにやってするから……」
「ええ!最初にニヤリってやったの夕衣じゃん!」
アイコンタクトを求めようと思って夕衣を見たら、夕衣がそう返してきたから燃え上がっちゃったのに自覚ナシかよー。
「でも大したもんだ。あれに飲まれねぇなんてな」
「半分わざとやってたでしょ」
アウトロだったら私も歌わなくて良いから、何の邪魔をすることなくギターを弾き倒せると思った矢先だったものなぁ。
「半分じゃねぇよ。ホンキの全開」
実にあっけらかんと諒さんは言う。
「学生バンド者にそれやるかー」
手加減ナシでやってくれたのは嬉しかったし、実際貴さんが手加減しているのを見抜いたときは少し腹も立ったけれど。流石に身の程知らずだったかもしれない。
「でも負けなかったじゃん」
「あなた方が平然としてられるのにこの始末ですが……」
そうかな。勝てはしなかったと思うけれど。勝ってもいけない気はするけど。バンドの音楽としては。
「でも負けてねぇじゃん」
「そう、思います?」
夕衣もきっと精一杯だったと思う。あそこで、もしもリフが夕衣でバッキングが私だったとしたら、きっと負けてたかもしれないけど。
「思う。それに行き過ぎなかったのも良かった」
「……」
つまりはそこが私たちの限界であって、限界まで、ここまで身体も気持ちも全身全霊で全てを酷使して、やっと本気の水沢貴之と谷崎諒に何とか追いつける程度なんだ。しかもたったの二小節ばかり。
「まだまだ精進が足りないなぁ」
「だねぇ」
夕衣と顔を見合わせて苦笑する。
「や、別にお前らはプロんなろうとかそういうんじゃねんだからいいだろ」
「そういうことじゃないっす」
技術的なことではなく。どうせ音楽を真剣にやるのならば、という話だ。プロでもアマでも関係なく、持っていなくちゃいけない気持ちや概念はきっと共通してあるんだと思う。
「あ?」
「あ、多分、百パーセントの力を出すことが百の全力を出し切ることじゃない、ってことがわたし達にはまだできてないってこと、かな?」
「その通り」
「あぁ、なるほどな」
きっと貴さんも諒さんも百パーセント本気でやってくれた。でもそれは持てるパワー全てを使い切った訳ではない。例えば野球の投手などは、一試合を通して、自身の肩や腕、体力のことも考えながら投球するものだ。それで完全試合などを成し遂げたとしたら、それはその投手が百パーセントの実力を発揮できたからだと言える。でも私達が今日やったのは、後先考えず、一球入魂、その一球で腕も壊さんばかりのフルパワーでの投球だ。そんな力の使い方では当然一試合投げきることなど不可能だ。これでは百パーセントの実力を出せたとは言えない。
「でもほんっとに凄く良い経験だった」
「だね」
それが判っただけでも良かった。きっと私達と同じように学生バンドや社会人バンドをしている人達よりも、少しだけ何かを掴めた様な気がする。それこそ-P.S.Y-の力を借りずに、実力で
「またそのうちやろうぜ」
「うん、絶対」
二人が忙しい身なのは判っているから、当分はないかもしれないけれど。でも折角そんな言葉を言ってくれているんだから、きっとまたいつか、実現したい。
「家族ですからね」
「んだな。お前達とやれて楽しかったよ」
「ありがとな」
貴さんと諒さんが口々に言う。二人の優しい笑顔を見ているとまた目頭が熱くなってくる。
「ちょ、やめて、折角泣き止んだのに!」
「まったく莉徒は泣き虫だなぁ」
にへら、と貴さんは笑った。人前で泣いたのなんて何年ぶりだろう。男と別れた時でも泣かなかったこの柚机莉徒さんが。
「感動屋なの!」
まったく不覚以外の何物でもないわ!
「ちょ泣かないでよ莉徒ぅ」
「夕衣もすぐ泣くなぁ」
私のせいにするなんて夕衣はずるい。ステージで泣いてたのは夕衣が先だ。最初に夕衣が泣いたから私だってもらい泣きしちゃったのに。
「ばっかやろぉ、これで終わりって訳じゃねんだから泣くんじゃねぇよ」
「あっちのおじさんももらい泣きしてらぁ」
うひひ、とわざとらしく貴さんがはしゃいで言った。きっと貴さんも泣きそうなんだ。嬉しいな。私たちみたいな年端も行かない小娘が一緒にやっただけなのに、私たちでも本気で、真剣に取り組めばプロのミュージシャンを感動させることができるんだ。
「んもーメイクもぐちゃぐちゃ!折角可愛くしてもらったのに!」
鏡を見て私は叫んだ。もはや涙が黒くて滑稽以外の何物でもない。ああああああ、ほんっとに酷い顔だ。
「まだ時間あっから直してこいよ。そんなツラ、sty-xの姐さんたちに見せらんねぇぞ」
「判ってますよぉ」
顔を上げた夕衣の顔も酷い顔だ。夕衣は普段から殆ど化粧をしないけれど、今日はメイクさんに凄く可愛くしてもらってたのに、もったいない。
「お前も鼻声んなってんじゃねぇか」
「涙もろさなら負けない」
すん、と洟をすすって貴さんは目じりを手で押さえた。
「自慢になんないじゃん!」
「ちげぇねぇや」
もう泣いてるんだか笑ってるんだか、感動してるんだか呆れてるんだか、良く判らなくなっちゃったけれど、とにかく私たちRossweisseの控え室に笑い声が溢れた。
「
そう香織さんが叫ぶ。彼女たちの衣装は思ったより全然マイルドで、活動休止前の毒々しく、茶色いし黒いし金髪でツンツンでもじゃもじゃでトゲトゲな格好などではなかった。メイクも多少は派手にはしてあるけれど、当時のように顔を塗りたくったようなものではないので史織もきちんと史織だと判った。私たちが座っている席は中二階というか、二階というか、ともかく芸能人が座るようないわゆるVIP席だった。本当ならば最前列で見たいけれど、それは昔からの熱狂的なsty-xファンの方々に申し訳がないので、遠慮したけれど。
がん、と耳を持って行かれそうなほどの重低音とオーバードライブ。風を切るような音はシンセサイザーの成せる業だろう。Rossweisseでは無理だったけれど、
Storm Bringerはsty-xの中でも一、二を争う人気曲であり、ディスイズLAメタル、といった感じの名曲だ。私はこの曲がsty-xの中では一番好きだけれど、これを史織が創ったのかと思うと嫉妬を禁じ得ない。楽曲は昔よりも一音下げて演奏している。恐らくボーカルの香織さんもコーラスをやる千織さんも
二コーラス目が終わり、ついにギターソロだ。私は昔の動画は何度も見たけれど、生で見るのはこれが初めてだ。先ほど美奈子さんに手渡されたオペラグラスで史織の手元をガン見する。
「あ、まちがえた!」
入りのオルタネイトで、アップとダウンを間違えて入ったのだろうか。判り易いシンコペーションだから、あんまり間違えないはずだけど……。一音だけ間延びした音になった瞬間にハンマリングとプリングのような指使いが一瞬だけ見て取れたけれど、音階を間違えた訳ではないので、メロディ的には何ら不自然には聞こえない。そのまま何事もなかったかのように史織はライトハンドに移行する。うわ、巧い。やっぱり史織のギターの腕は異常だ。香織さんや他のメンバーも昔よりも下手になったと言うけれど、恐らくそんなことはないはずだ。昔の史織のプレイが記憶の中で美化されているだけであって、恐らく史織の腕は言うほど落ちていないと思う。
「やー、どこ間違えたんだか全然判んねぇぞ」
私は判る。でもあれはきっと、本人の中で、やっちゃった、程度のもので致命的なものではない。ライトハンドもこの曲はさほど難しいものではないから、練習すれば私でもできるくらいの運指だけれど、あんなに綺麗に鳴らすとなると相当練習しなければならないだろう。問題は最後の速弾きフレーズだ。あれは昔の動画でも何本かは失敗している動画があった。
「……」
オペラグラスを睨みつけるようにして史織の左手に集中する。
「うっわ、失敗しない……。つーか昔より巧い気がする」
それに音が綺麗だ。ハムノイズを拾いにくいEX-Ⅴだとしても、フィンガーノイズもかなり少ないし、歪みもアンプ直だからあまり余計な音もしない。史織の技術が高い何よりの証拠だ。
「でも昔よりちょっと遅くねぇか?」
「うん、それはあるかもだけど、速弾きは慣れたスピードから遅くなるとやりにくくなるよ。若干なら早くなる方が私はやれる」
私は諒さんにそう答える。特にライブの時などは演奏が走りがちだ。だから、いつもの練習よりも早いという場合はあまり珍しくない。それに慣れてしまってはいけないから、時折クリック練習をして正しいリズムに感覚をリセットさせるのだけれど、逆にいつもよりも遅いということは私の体験上の話になるけれど、少ない。ないことはない。だからこそ、やりにくくなる。少し遅い、というテンポはゆっくり弾けるテンポとは違う。
「なるほどなぁ。しっかしすげぇバンド力だよ、十八年ぶりのライブだとはとても思えねぇ」
貴さんが嘆息混じりに言う。sty-xは最近の流行りのバンドのように、リズム隊が余計なフィル・インをやたらと入れたりするような煩ささがない。だから、ライブでもどっしりと安定したリズムで曲が展開する。そうなるとギターやボーカルは安心して遊べるのだ。もちろん許される範囲での遊び心だから、結果、その遊びは意外性を残しつつも、しっかりとまとまることになる。
「……ですね」
貴さんをして、バンド力が高いという言葉が出るというのは相当だ。貴さんと諒さんは
「まぁ史織さん意外はみんなステージには立ってたからな」
「とはいえこの五人は十八年ぶりだぜ。やっぱ流石だわ。すげえ!」
曲が終わり、諒さんが拍手する。私も惜しみなく拍手を送る。流石に長年女性ロックバンドの女王と言われてきたバンドは格が違う。
「sty-xでいす!いえいえー!ひっさしぶりー!」
どどどどぉ、と歓声が沸き起こる。この比率から言うと完全に男性ファンの方が多いだろう。隣で諒さんと貴さんもうぉー!と吠えている。
「いやー、年取ったね!十八年ぶりよ、十八年!まぁあたしの場合二期ラストから数えたら九年だけどさ、こいつ、覚えてる?初代のギター、
ピスピスってやってる場合か四四歳。
「おー!史織さーん!」
客よりも隣のおじさんたちが喧しい。
「今だから言うけどさ、こいつ、さっきのオープニングアクトのギタボの娘さ、ナンマイキにもカッコ良かったでしょ!みんなも見たでしょ?あの子妊娠したから辞めたのよ!」
えへへ、と頭をかいて史織は笑う。あの毒々しい、どぎついメイクをしていないせいで、昔よりも若く見えるのではないだろうか。インタビューを受ける時などはあまりフェイスペイントのようなメイクはしていなかったと思うけれど、昔からのファンはみんな史織が異様な若さを保ってるって判ったのかな。
「デキ婚デキ婚」
「や、ちょ、千織ちゃんやめてよー」
そう言う千織さんもちょっとおかしいくらい若い。史織ほどとは行かなくても、この人も充分化物級の童顔だ。
「でさぁ、あたしらもう四四とか四五とかんなる訳よ。なのにこいつらの可愛さったら何?何食ったらこうなれんのよ」
「香織ちゃんも充分若いから大丈夫だよ」
確かにそうなのだけれど、香織さんはまだ安心できる若さなのだ。そう、夕衣母のように。千織さんや史織、涼子さんの若さはもはや事件だ。
「まぁあたしはちゃんと精神的に大人になれたから良かったわ」
「史織だって大人だよ!二人も子供産んでちゃんと育てたんだから!」
そういえば動画サイトに上がっていた動画ではMCの部分は上がっていなかった。昔からこんなMCだったのだろうか。フェイスペイントみたいな毒々しいメイクにトゲトゲピカピカのエナメルのようなライダース、茶色いし黒いし金髪でツンツンでもじゃもじゃでトゲトゲ、という格好でこんなMCをしていたら客はみんなずっこけるのではなかろうか。
「まぁまぁ、主婦の戯言はこの辺でやめといて、あたしらのライブ初めて見る人拍手!」
ちゃんと生で観るのはこれが初めてなので私は拍手をする。隣のおじさんたちも拍手しているけど完全に嘘だ。それでも結構な拍手が鳴っている。もしかしたら親子二代で聞いているファンもいるのかもしれない。だとしたらやっぱり凄いバンドだ。
「おぉー、たくさんいるね!ありがと!じゃあもう何度も観てるよ!って人!」
これにはかなりの、というよりも会場全体がなっているような拍手だ。隣のおじさん二人はやっぱりぱちぱちと手を叩いている。
「おぉー!すごいね!みんなお久!ただいまー!」
お帰りー!と隣のおじさんと開場全体がsty-xに返している。凄いな。香織さんはsty-xの二期からソロとしても活動していた人だし、ずっと毎年恒例の女性ロックバンドイベントも主催している人だから馴染みはあったのだろうけれど。
「やー、やっぱ香織さんはsty-xのボーカルが一番似合うな!」
「だなー!」
まるで昔に返ったかのようなはしゃぎっぷりで諒さんと貴さんが笑顔になっている。でも良く考えれば普段とあまり変わらない気がしないでもない。
「よーっしじゃあ次の曲行くよ!みんな気合入れてついてこいよ!」
再び会場全体がどどどどどぉ、と鳴った。
曲が終わり、二度目のMCだ。
「いーえー!みんな愛してるぅー」
ずっこけそうなくらい可愛い声で史織が叫んだ。さすがの諒さんと貴さんも苦笑している。
「あれ、そうそう史織さ、何で莉徒達が今日出るって知ってた訳?」
あ、そうだそうだ。私もそれを聞きたいと思ってたんだった。
「そうそう、今日本当はオープニングアクトで莉徒ちゃん達が出るの、史織ちゃんにはナイショにしてたはずだったんだよね」
ガンガンに本名晒されてるけど、と思ったけれどさっき私自分でめっちゃ本名名乗ってたんだったわ。
「おー、そうだそうだ。言っとくけど莉徒、オレたちじゃねぇかんな」
「判ってますよ。でもなんでだろ」
諒さんが慌てて弁明する。諒さんは香織さんとの打合せにまで立ち会ってくれたんだから、疑う余地はない。それは貴さんにしても同じことだ。
「あぁーそれね。莉徒ちゃんがうちのパパに言ってたんだよ」
「はぁ?」
ステージ上の香織さんと私の声がハッピーアイスクリーム。
「言ってねーし!言ってませんー!」
ステージに届けとばかりに声を張り上げたけど、お客さんのおぉ、とかとにかく訳の判らないどよめきにかき消されてしまった。
「ま、まぁ待て莉徒」
ぽんと諒さんに肩を叩かれて私は冷静になる。そうだ、まずはあの母親の話から聞こうじゃないか。
「えっそれどういうこと?」
「んっとね、莉徒がうちのパパに、今度
「あ……」
「お前……」
い、いや確かに言った。言ったけれど、それしか言っていない。それだけでここまで状況を読める訳がない。
「でもそれって、最初に諒さんと打ち合わせた次の日とかそんなもんだよ!あの時はまだバンド名だって決まってなかったし、全然最初の頃じゃん!」
そうだ。一緒にバンドを組んでライブに出るなどとは一言も言っていない。
「でもそれだけじゃ判んないでしょうよ。あんた鈍ちんなんだから」
ステージ上の香織さんが私と同じ疑問を抱いたのか、そう史織に言った。
「でね、貴くんのお嫁さんとか、諒くんのお嫁さんにちょっと聞いたの。ライブとか野外イベントとか、もしかしてレコーディングとかあるのかな、って。そしたらそんな予定はまったくないって言うし、貴くんと諒くんが今日のオープニングアクトで出てくれるのは決まってたでしょ、だからピーンときたんだぁ。女の感!」
「オ……」
「お?」
夕衣が怪訝な顔で私を見る。
も、申し訳ない気持ちでいっぱいだ……。
「オレだったかー!」
史織の説明を聞けば、なるほど、何と簡単なことだ。くそう迂闊すぎた。
「こりゃあペナルティだなぁ。香織さんまで呼びつけて打ち合わせさしといて逆にサプライズ喰らうなんて」
「史織さんの方が一枚上手だったね」
「ま、莉徒の母ちゃんだしなぁ」
口々に言うRossweisseの面々。いやでも、本当に返す言葉がございません。
「なぁるほど。莉徒ー!聞いてんな!なんか奢れよ!あたしに!」
うぅ、わ、判りましたぁ……。
「はは、言われてんじゃん」
「うぅ、すんません……」
「や、楽しかったらなんでもいいぜ」
「わたしも」
結果的に驚かそうと思っていた側が驚かされることにはなったけれど、確かに楽しかった。計画通りに企みが上手く行くのは楽しいけれど、こんな形で裏切られるのはもっと楽しい。
「それにしても母子二代でギタリストなんて凄いわね、あんたら」
やっぱりそう思うのかな。でも私は史織にはギターを習っていない。それこそカミングアウトから、幾度か史織がギターを弾いているのを目の当たりにして、何か盗めないか、と躍起になっただけで、あまり効果もなかった。
「血は争えなかったねー。sty-xの復活が決まるまで十八年間ずぅーっと隠してたんだけどね、それでも音楽に興味持って、バンド始めちゃうんだから、やっぱり史織の子だなぁ、って嬉しく思ったよー」
な、なるほど。恥ずかしいことを言うではないですか、お母様。でもそう、きっと、史織は自分がギタリストであることを隠していたにも関わらず、私がギターを始めたことに、きっと感動したのかもしれない。自分でギターを弾かなくなった分、私に何かを託していたのかもしれない。私はその十八年の期待に応えられているだろうか。
「なぁるほどね。ま、あたしらsty-xを手玉に取ろうなんてのが甘かったってことよね!」
一緒に騙されてた香織さんに言われたくないんですが。
「香織ちゃんも騙されてたじゃん」
「しー!言うなって!」
ほら。でもMCの運びも巧いなぁ。史織が喋り慣れていることもあるのだろうけれど、千織さんも所々で返事や合いの手をうるさくない程度に入れているし。真織さんと
「うーっし、んじゃそろそろラストスパートかけるかい?」
「おっけー!」
史織の声と共に全員がサムズアップした。息もぴったりだなぁ。
「
軽快なロックンロールナンバーのタイトルを叫ぶと、香織さんは客に拍手を煽った。
sty-xのステージが終わり、私は心地良い脱力感を伴いつつ、控室のソファーで休憩していた。目を閉じたら眠れるかもしれない。
無理かな。耳の奥にsty-xの音がずっと残ってる。
じんじんと、発熱したみたいに。
でも、多くは語れない。
けれどたくさんの物をもらった。勿論史織だけではなく、諒さんや貴さんからも。
sty-xのライブはすごいの一言では言い表せない内容だった。でも強いて言うのならば、すごいとしか言い表せない。
今までプロのライブやコンサートはもちろんたくさん見てきた。私が尊敬する
いつもどこかに共通して存在する、すごい何かがやはりあった。
心穏やかではいられず、でも弾む心も抑えきれず、その正体はいつも判らないままだ。
私には多分、それを一生追い求めて行く覚悟はある。
それこそプロのミュージシャンにならず、それを追いかけたい、と思う。
妻でもなく、母親でもなく、女ですらなかったギタリストSHIORIは、きっと彼女なりに何かを私に伝えてくれようとした。
私は多分、それを受け取ったんだと思う。
受け取れた、と思う。
十八年間、彼女が温めて、守り通してきた、ギタリストとしての気持ち。ミュージシャンとしての心の有りよう。
その瞬間に判った。
史織がバンドをできなかった時期、きっと史織はバンドをしたかったのだろうし、ギターを思い切り弾きたかったのだろう。それは今でも間違いなくそう思っている。
でも史織は私の母だ。
中学生になって私がバンドを始めた時のことを、史織はすごく嬉しかった、と言ってくれた。
やっぱり私の娘だ、と言ってくれたんだ。
そして、いつかこの日が来ることをきっと心待ちにしていたんだ。
バンドでギターを弾くということ。ステージに立つということ。それを続けるのがどれだけ難しいか、ということ。それ以上に、楽器を弾く楽しさ。ステージに立てた喜び。失敗した時の悔しさ。今まで判っていたつもりになっていたことを、たくさん教えてもらった気がした。
「莉徒?」
誰かが呼んでいるような気がしたけれど、なんだか凄く遠い。もう少し大きな声で呼んで。
「だめか?」
「しばらく寝かせとけよ。今日は色んなプレッシャーに打ち勝ってきたんだからな」
「だな。夕衣も莉徒も良くやったわ、こんなちっさい体で」
「えっへ……」
何か言ってるようだけどなに、全然聞こえな……。
30:アイスクリーム 終り
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