21:ブレンドコーヒー

 二〇〇七年五月二六日 土曜日

 七本槍ななほんやり中央公園


「あー、夕衣ゆいちゃん!」

「あ、史織しおりさん、こんにちは」

 私に声をかけてきたのは史織さんだった。今日も可愛らしい格好をしている。莉徒りずsty-xステュクスのギタリストであることをカミングアウトした時から、史織さんはどんどん若返っているような気がする。それは服装にしてもお化粧にしてもそうだ。今までの史織さんは、確かに可愛らしい感じはあったけれど、可愛らしい莉徒のお母さん、というか、言ってしまえば可愛いおばちゃん、というイメージの方が強かった。最近は史織さんが洋服を買いに行く時には必ず莉徒が付き添って、絶対におばちゃん臭い洋服を買わせないのだそうだ。化粧品もどうやら一新させたらしく、基礎化粧品、化粧水は勿論、ファンデからシャドウからチークから果てはつけまつげ、エクステまで色々と買い揃えているらしい。そういうことが相まって、近頃の史織さんは本当に可愛い。

「うん、こんにちはぁ。これからスタジオなの?」

 にっこりにこにこ。もともと屈託という言葉が少しも似合わない人だけれど。くい、と小首を傾げて史織さんは言ってきた。

「あ、はい。史織さんは?」

真佐美まさみちゃんとデートなのだ」

「え、お母さんと?」

 最近はうちの母親ともとても仲良くしてくれている。母子ともに仲が良いのでわたしとしても非常にありがたい。学校のことやバンドのこと、様々なことに滞りがないのだ。

「うん。涼子りょうこちゃんのとこ行くんだぁ」

「あ、そうなんですね。宜しくお願いします、っていうのも変か……」

「だいじょぶ、史織がお願いされる方だから」

 苦笑しつつ言ったわたしに史織さんが意味不明な言葉を投げ返してきた。その言葉はどうもわたしにはうまくキャッチできなかったようだ。

「?」

「?」

 わたしの不思議顔に、史織さんも不思議顔を返してくる。お願いされる方ってどういう意味だろう。

「え、あ、そ、そうですね」

「あれえ?いま史織何か変なこと言った?」

 わたしの表情を読み取ったのか、史織さんがそんなことを訊いてくる。

「い、いえ、言ってないですよ」

 それほど重要な話でもないだろう。要はうちのお母さんと史織さんが涼子さんのお店に行くというだけの話だろうから。

「あれえ?そう言えば夕衣ちゃんって今何かバンドしてるの?」

「あ、はい、莉徒とたか……」

 しまった。わたしはPhoeni-xフィニクスのライブを終えてから、今バンドは何もしていないはずなのだ。莉徒とメンバーを探しているという状況で、ギターを持ってスタジオに行くというのは辻褄が合わない。

たかくん?」

「は?」

 聞かれてた。口が滑ったとはまさにこのことだ。

「今たか、って……」

「り、莉徒と背の高いはっちゃんと、美朝みあさちゃんと、彩霞あやかさんの後輩の子と!新しく、バンドするかもっていうんで!」

 慌てふためいて私はセルフフォローに走る。つ、通用するだろうか。史織さんは能天気に構えていて意外と鋭いところがある。

「何ではっちゃんだけ形容詞つきなの?」

「き、きっと胸が大きいからです」

 わたしも莉徒も史織さんも胸のサイズは似たり寄ったりだ。強引なハンドリングで会話を捻じ曲げにかかる。ウィンカーなど出している暇がない。

「あー、羨ましいよね。あれ、そういえば真佐美ちゃんって結構胸あるよね」

 よし、成功した。

「えぇ、娘のわたしには全くありませんが」

 会話の誘導が上手くいったのでわたしはそのままノリで史織さんにそう言う。

「言葉のとげ……」

「そうでした?」

 ぺろりと舌を出してわたしは笑った。しかしそれにしても史織さんもわたしのお母さんには胸があって、わたしには胸がないことを判っていたのだ。意外と見られてるんだ……。

「いいじゃん、史織だってないんだから!」

 まったくフォローになっていないことを口走る。ふと貴さんの顔が浮かんだので、そのまま突いて出た疑問を口にしてみる。

「史織さんの旦那さんは小さいのが好きなんですか?」

「そうだよぉ」

 えっへんとでも言いたげに史織さんは胸を張った。うーん、やっぱりないな、史織さんも。

「そ、それは幸せですね……」

英介えいすけくんは違うの?」

「あいつは胸だけならはっちゃんが好きです」

 でも、だとしてもそれはきっとさほど大きな問題ではない。

「そうかぁあいつめぇ」

「あはは」

 英介はそれでももしかしたら我慢をしているのかもしれないけれど、私の胸を見てため息をつくようなことはしないし。

「でも前は莉徒ちゃんとも付き合ってたんでしょ?」

「みたいですね」

 お互いにその頃のことはあまり話したがらないけれど。

「莉徒ちゃんと付き合って、夕衣ちゃんとも付き合ってるんだから、きっと好きなんだよ」

「ん?」

 一瞬理解し損ねたが、今回はすぐに判った。

「貧乳」

「まっすぐすぎる……」

 どストレート。ど真ん中一五〇キロメートルオーバーと言ったところだろうか。

「え、そぉ?」

「俺は違うけど、世の中には小さい胸を愛する男がきっといる、俺が女を選ぶ基準は胸の大きさじゃねぇ、って言ってました」

 それもまだわたしと付き合う前の話だけれど。

「そうかぁ。じゃあ今度から触らせちゃダメだよ!」

 涼子さんと同じことを言って史織さんは笑った。

「今度からも何も、触らせたことないです……」

「えぇっ!鬼女おにおんな!」

 彩霞さんには『きじょ』、って呼ばれたけれど、史織さんは『おにおんな』と言った。

「あ、い、いや、そういう意味じゃなくて……」

「どういう意味?」

 ん?と小首を傾げる。あぁ、可愛い。

「い、いやちょっと大きな声では……。ていうか言わないとダメですか……?」

「うん」

「即答……」

 友達のお母さんに話すようなことではないと思うのだけれど。

「はやく!」

 言いながら史織さんは私に耳を寄せる。こうなっては仕方がない。私は小さな声で史織さんに耳打ちした。

「ま、まだしたことないんです……」

「えぇっ!鬼嫁!」

「嫁じゃない……」

 一般的に十九歳の未経験が遅いのかそうではないのかはわたしには判らないし、調べると変に意識してしまいそうで調べてもいない。

「そっかぉ。でも初めてって怖いもんね。ちゃんと英介君に優しくしてね、ってお願いしないとダメだよ」

「ちょ、声大きい!」

「あ、ご、ごめんね」

 英介にそんなに可愛らしく、優しくしてね、なんて言えない。間違いなく。わたしにはそういう属性はない。

「そ、それじゃ時間なんで、し、失礼しますね」

 これ以上話していると話が変な方向にずんどこ進んで行ってしまいそうで、わたしは会話を打ち切ろうとそう言った。

「あ、うん、夕衣ちゃん頑張れ!」

「ぐ、具体的にはどう……?」

 史織さんと少し離れると、そう私の背に史織さんが声をかけた。

「ちょー痛いけど我慢!」

「やっぱり……」

 相性が良いと痛くないなんてきっと嘘なんだ……。

「じゃあねぇ」

「あはは、はは……」

 乾いた笑いを何とか返してわたしはスタジオに向かった。


 同日 喫茶店vultureヴォルチャー


 諒さん達との練習を終えて、わたしは莉徒と二人でvultureに来ていた。

「そう言えば今日、夕衣ちゃんのお母さん、来てくれたわよ」

「あ、史織さんと行くって言ってたみたいで」

 昼間は奥様達のお茶会の場になる、なんていう話も聞いたことがあるので、きっとお母さんでもこのお店に入り辛いということはないだろうけれど、史織さんと一緒ならもっと安心だ。それに史織さんと一緒に、涼子さんとも仲良くなってほしい。

「夕衣ママは普通に若いよねー」

「うん。若くて女性らしくて素敵」

 確かに、あくまでも常識の範囲内でうちの母親は若いと思う。きっと涼子さんや史織さんが異常なだけだ。

「涼子さんと史織さんに言われてもなぁ」

「いいじゃない、大人っぽくて」

「安心できる若さ」

 確かに誇るべき若さをうちのお母さんも保っているから、わたしも少し安心はできるのだけれど。

「でもお話していてテンポも歯切れも良いし、楽しかったわ。毎日でも待ってるから、って言っておいてね」

「判りました」

 涼子さんはお母さんのことを気に入ってくれたらしい。それは何よりだけれど、お母さんはどうだったのかな。まぁ涼子さんは大抵の人には好印象を残す人だし、その辺は全く心配してはいないのだけれど。

「そう言えば、訊きたいことがあるんですけど……」

 以前から聞きたいとは思っていたのだけれど、先週莉徒や彩霞さんに色々と言われて、今度是非聞いてみなければ、と思ったことがあった。

「私に?」

「はい」

「応えられることであれば何なりと」

 柔らかい微笑みで涼子さんは言ってくれた。

「えと、涼子さんって、貴さんと付き合ったのって働き出してから、って言ってましたよね」

「えぇ、そうね」

 だとすると、高校を卒業してから働き出したとしても、十八歳以上だということだ。今のわたしにかぶせることができる。そして涼子さんは貴さん以外の男性とは付き合っていない。

「その、初めてしたのって、いつだったんですか?」

 あらあら、って恥ずかしそうに笑う涼子さんを想像していた。でも涼子さんはそうせずに、苦笑に似た、それでも柔らかい笑顔で、無言を返してきた。

 その仕草に心拍数が跳ね上がった。

 訊いてはいけないことを訊いてしまったのかもしれない。

「……」

「ま、夕衣ちゃんと莉徒ちゃんだからいっか」

 ふ、と短く息をを吐いて、涼子さんは笑顔になった。それでも、どこか、ほんの少し寂しげな笑顔だった。

「すごぉーく長い話になるけど、ちょっと付き合ってくれる?」

「え、は、はい」

 わたしがそう頷くと、涼子さんはカウンターを出て、入り口ドアを少しだけ明けると、表側に掛かっているプラスチックのプレートをくるり、と裏返した。それは今までは『営業中』と書かれていたプレートで、その裏側には当然『準備中』と書かれている。ドアを閉めると、かたん、とサムターンを回して窓のカーテンもすべて閉めた。そしてカウンター内に戻ってくると、涼子さんがいつも自分で飲んでいる用のブレンドコーヒーのデカンタを取り、私たちのカップにブレンドコーヒーを注ぎ足してくれた。

「今日は丁度良くお客さんもいないし、貸切。で、これはサービス」

「わ、ありがと、涼子さん」

 莉徒が言ってさっそくコーヒーに口をつける。多分わたしと一緒で、涼子さんのあまりに見慣れない行動に、口の中が乾いてしまったのだ。

「……え、ごめんなさい、何か話しにくいことですか?」

 わたしも頂いたコーヒーを一口飲んでから、恐る恐る涼子さんに問うた。

「絶対黙ってて、っていう話じゃないんだけど、でもあんまり吹聴するようなことじゃないから、一応は他言無用ね」

「は、はい」

 どんな話なのだろう。今、こんなに幸せそうに暮らしている涼子さんでも、過去には何かあったのだろうことは、判らなくもない。でもどんなことなのかは全く想像がつかなかった。

「前に少し話したと思うけれど、私と貴はね、知り合ったっていうだけなら中学生の頃なの」

「その時は付き合わなかったんですよね」

 それは以前聞いていて、わたしもはっきり覚えている。色々あってちゃんと恋人同士になったのは働き出してからだった、と。

「うん。中学校は別々だったんだけど、高校で同じクラスになれてね。それからはお互いに特別な気持ちがあって、っていうのは判ってはいたのね。そういう空気感の中に身を置いてたのが凄く心地良かったから」

 英介が告白してくれる前のわたしたちみたいな関係だろうか。でもあの頃のわたしは英介の気持ちには気付けなかったし、わたし自身、英介のことを異性として意識できていなかった。

「あとは告白のタイミングだけ、みたいなこと?」

「今思うとそうだったのかも」

 くす、と笑って涼子さんは言った。何となくお互いの気持ちが分かり合えているというのはとても素敵なことだ。

「素敵……」

「でもね、そう巧くはいかなかったの」

「……」

 莉徒は黙って涼子さんの言葉を待っているようだった。わたしもこの先の展開がどうなるかは想像もつかないので莉徒に倣う。

「高校三年の最後の夏休みにね、貴たちがライブをしたの」

「その頃のバンドが-P.S.Y-サイなんですよね」

 それでもただ黙っていると、なんだか空気が重たくなりそうだったので、わたしは邪魔にならない程度に相の手も入れた。涼子さんは努めて明るく振舞おうとしているけれど、多分あまり上手にできていないことを涼子さん自身が判っているような気がした。

「そ。今のはだから、復活、ってことみたいね。その-P.S.Y-がね、りょう君はその頃はもう学校を辞めちゃってたから、諒君とも久しぶりに会って、すっごく盛り上がったのね」

「いいなぁ」

 莉徒もわたしと同じ気持ちだったのかもしれない。

「二人って中学生の頃やんちゃだった、っていうのは話したでしょ」

「はい」

 それはもう何度も聞いているし、本人たちからも聞いている。

「でも三年生になるころにはね、一年生の頃から喧嘩も全然しないし、皆に優しかったから、結構な人気者だったの」

「判る気がします」

「あぁ見えて貴も実は人気あってね、私が一番近い位置にいた女だからって、悪戯されたりもしたのよ」

「そ、それはすごいな」

 でもその逆もあったのではないだろうか。今でさえこんなに可愛いのだから、高校時代の涼子さんなんて、きっと宇宙一の美少女だったに違いない。卒業アルバム見せてもらいたいな。

「だからね、みんな凄く盛り上げてくれて、終わった後の打ち上げで貴が調子に乗って、吐くまで呑んじゃったのよ」

「ほほぅ」

「ま、まぁ判らないでもない気はします」

 わたしの仲間内ではそういう人はいないけれど、お酒が入ればそういう人だって少なからず出てくるだろうし、いつ自分がそうなってもおかしくないような気もする。

「で、私は当然、ずっと貴のそばにいて、面倒見てたの。皆が盛り上がってる中、二人だけで外に抜け出して」

「でもそれって涼子さん的には良かったんじゃないの?」

 少し涼子さんの口調が明るくなった。昔を思い出しながら話しているのだろう。

「そ。二人でいられたからね。で、すっかり回復して、お詫びに私のこと、きちんと家まで送るって言いだしたのね」

「貴さんらしいなぁ」

 本当に、昔から優しい人なんだなぁ、貴さんは。

「でしょ。それでもついさっきまで具合悪かったのに、それじゃ悪いから、って断ったんだけど聞かなくてね」

「……」

 涼子さんの苦笑が、ほんの少しだけ違う表情にも見えた。何だろう。自嘲、なのかな。

「もう少しで私の家、っていうところでね、キスされたの」

「うわぁお」

 と莉徒は一度ぱん、と手を叩いた。けれど、涼子さんの表情は、苦笑は、ちっとも明るくない。

「涼子さん的にそれってどうだったんですか?」

 莉徒もすぐに涼子さんの表情に気付いたのか、あまり明るい感じにはならなかった。

「私はね、今でこそこんなだけど、当時は内気で引っ込み思案だったの。で、いきなりそんなことされて、パニックになっちゃったのね、本当は嬉しい気持ちもあったのよ。ちゃんとファーストキスは貴にあげられた、って」

「……」

 苦し紛れ、だったのではないだろうか。わたしは、もしも急にそんなことをされたら、きっと無理矢理にでもそう思おうとするんじゃないだろうか。

「でもね、わ、って涙出てきちゃって、何にも言えなくなっちゃってね」

「た、貴さんは?」

 そこで男性側まで気が回るのが莉徒だ。

「そのまま崩れ落ちて、おれは何やったんだ、ってすごい勢いで何度も道路を殴り続けてね。見てられなくなっちゃって、私もばかだったから、そこから逃げちゃったの。もうどうしていいのか判らなくなっちゃって」

「え……」

「でも、判る、気がします……」

 莉徒が少し、非難じみた声を上げた。でもわたしは涼子さんの気持ちが、多分、ほんの少しだけ判る気がした。

 わたしがもしも、と考えたら、やっぱりわたしも何も考えられなくなってしまうだろうから。

「でね、やっぱり気まずくなって、卒業まで、ホントにゆっくり時間かけて、何とか表面上は普通に話せるくらいまでにはなったんだけど、もうその前みたいな甘い空気感は当然なくなっちゃってね」

「そのまま卒業しちゃった」

「そ」

 涼子さんを促すように莉徒が短く言う。

「社会人ってどのくらいだったんですか?」

「ん?」

 しまった、少し言葉が足りなかった。

「高校出て、何年くらいして貴さんとまた会えたんですか?」

 話の流れから、涼子さんが高校を出て就職したのは何となく判ったので、わたしはそう言った。

「三年くらいね。二一歳の時だから」

「三年……」

 思っていたよりも長い。となると、涼子さんが貴さんに惹かれ始めたのは、遅くとも高校一年生だ。だとすれば、六年もの間、お互いがお互いを想い合っていて、結ばれなかったことになる。

「私は都心の方で就職決めて、そのまま引っ越して一人暮らししちゃったの」

「都心なら通えたのに?」

 そうだ。通えたのに一人暮らしをした。そこまで、当時の涼子さんは現実から逃げたかったんだ。

「そ、逃げたの。夕香ゆうかもお姉ちゃんも、触れないようにはしてくれてたけど、やっぱり、聞いちゃいけない、触れちゃいけない、っていう空気がずっと残っててね。それに耐えきれなくて」

「涼子さん……」

 完全に涼子さんの微笑は自嘲に変わっていた。それでも笑顔というベースは崩さずに、涼子さんは話し続けてくれた。

「でね、一人で都心に出て、一年半くらいかな、過ぎた頃にね」

「え、ちょっと待って涼子さん」

「そ、それ、わたしたちが本当に聞いて良い話なんですか?」

 これは涼子さんが今まで歩んできた、言わば半生の話だ。水沢涼子という一人の女性の人生の礎になっている、とてつもなく大切な話だ。そんな話をわたしたちのような若輩者が、それこそ常連客で少し仲良くさせてもらっているだけのわたしたちが、聞いても良い話なのだろうか。

「えぇ、過ぎたこと、終わったことよ。変えようのない事実だもの。もちろん聞きたくないならこれでおしまいにするけれど、私は、特に夕衣ちゃんには聞いてもらいたいと思ってるわ」

 自嘲を微笑みに変えて、涼子さんは言った。強い笑顔だ。この笑顔をもたらしたのが、涼子さんの歩んできた半生の話なのならば、わたしは涼子さんの話を聞かなくちゃいけない。いや、聞くべきだ。

「……」

「どうする?」

 くい、と小首を傾げながら、涼子さんはいつもの可愛らしい笑顔で言ってくれた。

(そうか)

 わたしが聞かなければいけない話、ではない。これは水沢涼子が、わたしに、髪奈夕衣という女に、話して聞かせたい話なのだ。

 だとすれば。

「聞きます。聞かせてください」

「おっけ。さっき夕衣ちゃん、私の初体験がいつだったのかって訊いたよね」

 そのまま、明るい調子で涼子さんは言ってくれた。

「は、はい」

「そのね、就職してから約一年半後、かな。そのくらいの時」

「……え?」

 時間の計算が合わない。

 まさか涼子さんに限って、貴さんと結ばれなかったからって、その時だって想っていたはずの貴さんを他所に別の男に走るなんてことは絶対にない。そう、思いたい。

「だ、だってさっき三年て……」

「貴じゃないの」

「!」

 ショックだったのかは自分でも良く判らない。涼子さんと貴さんはお互いが初めて付き合った恋人同士だったはずなのに。努めて明るく言った涼子さんの表情はそれでも、何か諦めというか、後悔というか、ともかく決して晴れやかな笑顔などではなかった。私は二の句も告げられず、ただ涼子さんの言葉を待ってしまった。

「……」

「こう言うと貴はもの凄く怒るからね、だから私の初体験は二二歳ってことにしてあるの」

 それでも貴さんの名を口に出すときは、少し涼子さんの表情は穏やかになる気がする。わたしの願望がそう見せているだけなのかもしれないのだけれど。

「してある……?」

「そ、本当の、はじめて」

「……なんで、ですか?」

 涼子さんの言葉に、ほんの一瞬だけ声が湿りそうになる。だってそんな涼子さんが、進んで他の男に身体を開くなんで絶対にありえない。だから、もう、考えうる限りの、最悪の想像しかできない。

「強姦されたの。暴行受けて」

「!」

 さらり、と涼子さんは言って、やっぱり寂しそうな笑顔をした。

「え、うそ……」

 莉徒もかろうじて声を出すのがやっとのような、そんな感じだった。

「本当よ。何もかもが嫌になって、何度か自殺未遂もしたわ。度胸も勇気もなくて結局できなかったけれどね」

 こんなに毎日を素敵に過ごしている涼子さんに、こんなにも真っ暗な過去があったなんて想像もつかなかった。それでも、苦笑でも自嘲でも、笑顔でいる涼子さんの強い優しさの裏に、こんなにも酷い現実があったなんて。

「一人で泣いて泣いて、悩んで苦しんで、時間をかけて、ゆっくり回復していったのね。外に出るのが怖くて、男の人の顔を思い浮かべるだけでも吐いたわ」

 今、そのことを口に出すのは平気なのだろうか。そんな、きっとできることなら消し去ってしまいたいほどの過去のはずなのに。

「でも、それもゆっくり、少しずつ回復していったの。直接的に何かしたとか、そういう訳じゃないんだけれどね、貴や、諒君や、ただし君、私にとっては本当に優しかった男の人のおかげでね」

 涼子さんにとって、絶望をもたらした男性という生き物の中で、唯一、希望を与えてくれた存在なのかもしれない。大好きだった人、大好きだった仲間達。大好きだった時間。きっと今でも涼子さんが大切にしてきたものたちが涼子さんを手助けしてくれたのかな。

「それから私はこの街に戻ってきたの」

 水沢貴之がいる街に、ということだ。どんな気持ちだったのかは、想像すらできない。

「さっきも言ったけれど、態々吹聴することじゃないからね、でも本当に大切な友達にだけは、全部打ち明けたのよ。だから、貴に伝わるのも本当は時間の問題だって判ってた。でも、知られたくなかったのよね」

「ですよね……」

 その時だって涼子さんは貴さんを想っていたのだから。自分がそんな目に遭ってしまったのだとしたら、好きな人だけには知られたくない。きっとそう思う。

「その頃、ちょうど同窓会があって、その何日か前に、偶然貴と再会したの」

「……」

 どんな気持ちで相対したのだろう。傷を負ってしまった自分が、本当に大好きな人の前に立つというのは。

「その時の貴は事情は知らなかっただろうけれど、私が無理してたのは見抜かれてたみたい。でもね、なぁんにも変わらず、以前の、高校生の時みたいにね、私に接してくれたの」

「貴さんらしい」

 少し安心する。やっぱり貴さんって凄く素敵な人だ。

「でしょ。でもね、その頃貴も業界人をしててね、もの凄く疲れた顔をしてて、貴も無理してたのね」

「あ、少し聞きました。昔業界人だったことがあるって」

 お互いがお互いに無理をしていることが判ってしまったんだ。想い合っているが故に。

「うん。でね、その日はそのまま別れて、同窓会の日ね、私と貴の雰囲気を見てなのか、もう時効だと思ったのか、今からでも、と思ったのか、ただ単純に酔っぱらってたからなのか、夕香やみんながね、昔の話を持ち出して、やれまた付き合っちゃえだとか、いろんなこと言いだしてね」

 あれは単純に酔ってたんだろうなぁ、と独り呟くように涼子さんは笑った。

「その後かな、やっぱり貴に伝わっちゃってね」

「ま、まぁそうですよね」

 きっと誰かが貴さんに真実を伝えた。それが誰かなんてきっと全く関係はなくて、涼子さんと貴さんを大切に思っているが故の気持ちの表れなのだろうから。

「うん。でもね、やっぱり貴はそのまま私のこと、受け止めて、受け入れてくれたの」

「ですよね。じゃないと今がないですもんね」

 やっと笑顔になれてわたしは言った。

「うん、ま、そうなんだけど」

「ま、まだ何かあるんですか……」

「ちょっと莉徒」

 涼子さんの言い方でまだ続くのか、とでも思ったのか莉徒が口を開く。涼子さんの人生に関わる話なのになんてことを。

「や、違くて、もう早く幸せになってよ涼子さん!って思っちゃうよ」

「それは確かに」

 どうやらわたしの勘違いだったらしいけれど、確かに莉徒の言う通りだ。

「今が幸せなんだから大丈夫よ」

 ぴんと人差し指を立てて、涼子スマイル。でも、そのスマイルはいつもの涼子スマイルよりもやっぱりどこか寂しげだった。

「あ、そっか、ハッピーエンドは約束されてるんだ」

 莉徒は涼子さんに乗っかるように幾分声を高くして言った。

「そういうこと。でね、いざ付き合ったらまた大変だったの」

「あー、なるほど」

 ぽんと手を打ち合わせて莉徒はうなずいた。何がなるほどなのかわたしにはさっぱり判らない。

「莉徒?」

「エッチのことでしょ?」

「そ」

 そういうことか。だから、涼子さんはきっと身を削ってまでこの話をしてくれているんだ。

「わたしはね、やっぱりそれがトラウマになっちゃってね。付き合い始めてから丸半年、なぁんにもなかったのね、そういうこと」

「貴さんの気遣い」

 半年、か。わたしはまだ好きな人と身体を重ねる喜びを知らない。それに男と女では事情も違う。だからその半年が長いのかどうかは、実際には推し量ることはできない。

「うん」

「英介の半年とは訳が違うな……」

「同じだと思うわよ」

 そう言った莉徒に涼子さんが返す。フォローだろうか。

「やぁ、目の前にいるといないとじゃ大違いでしょ」

「それはそうね」

 わたしと英介の場合は遠距離恋愛だったから、自制は効いたのかもしれないけれど、目の前にいたらそれはつらいことなのかもしれない。

「でもね、私は一刻も早く貴に抱かれたいって思ってたの」

 そうか、そこも違うんだ。わたしは今、迷っているけれど、涼子さんは明確に、貴さんに抱かれたいと思っていたんだ。

「……」

「上書きっていうんじゃないけど、ってこと?」

「そうね。その時の私は浄化、とまで思ってたわ」

 わたしは涼子さんの気持ちに同意して一度、大きくうなずいた。判る、と言ってはいけないけれど、でもそうでもしないと救われない、という気持ちは少しだけ判る気がしたのだ。

「だからね、半年して、初めてお泊りで出かけることになった時に、貴にそう言ったの」

「浄化って?」

「違う違う。流石にそこまでは言えなかったから、早く抱いて欲しいと思ってた、って」

 心にも体にも消えない傷を負ってしまった涼子さんを気遣う貴さんの心の負担を和らげるため、という気持ちもあったに違いない。優しすぎる貴さんのことだ。涼子さんの心の傷も、体の傷も気遣って、半年間何もしなかったということは、涼子さんから言い出さなければ、ずっと行動は起こさなかったのかもしれない。

「あ、そ、そっか」

「でもね、だめだったの」

「だめ?」

 貴さんが涼子さんを気遣って……いや、違う。涼子さんの懇願をきっと貴さんは蹴ることはできない。だから貴さんはきっと涼子さんを抱こう、って思ったんだ。それでもだめだったんだ。

 何故なら。

「トラウマ……」

「そ。私を抱いてくれてるのは貴だって、世界で一番愛している人だって判ってても、体がどうしようもなく震えて、怖くて、逃げちゃうのね」

「うわ……」

 莉徒の声は悲鳴に似た呟きだったのかもしれない。

「私は無理やりにでも、押さえつけてでもして欲しかったんだけど、貴はあの通り優しいからね、そんなことしてもらえなかった」

 お互いが優しいからこそ、傷つけ合って、距離を空けてしまって……。そういうことだろうか。

「それでまた更に一年、ってことですか」

「そ。厳密には半年くらいなのかな。その後も何度か試してみたけどやっぱりずっとだめで、最後には見ず知らずの男の人にぶつかっただけで吐いちゃうくらいまで、心の傷、って言うのかな、それがまた大きくなってきちゃって」

 お互いの気遣いがストレスにまで上り詰めていってしまったのかもしれない。そして心的外傷のある涼子さんはどんどんと過去の暗い闇に引っ張られていって、自殺まで考えていた頃にまで引き戻されてしまったのだろうか。

「物凄く色々考えて、一回離れてみよう、とか、そのまま別れててもおかしくないくらい危ない橋を渡ったわ。その間に貴も二回倒れてるし」

「うわぁ」

 何だろう。当たり前なのに気付けなかった。涼子さんも貴さんも、とても素敵な人で、わたしは二人とも大好きだけれど、今までの憧れが盲目的だったと気付かされた。涼子さんも貴さんも人間なのに。辛い思いをすれば、傷ついて、落ち込んで、崩れ落ちることだってあったんだ。

「だからね、やっといろいろ乗り越えて、初めて貴の女になれた時は、本当に幸せだったわ。嬉しくてたまらなかった。貴もね、これが本当の初めてだからな、って何度もそう言い聞かせてくれて」

「……」

 自然に涙が出てきた。今私が聞いた話など、きっと涼子さんが要約したほんの一部だ。好きだったのに想いを伝えられないまま会えなかった三年間は、きっと誰にも想像など付かないほどつらく長い時間だったはずだ。

「ちょ、ちょっと夕衣ちゃん」

 ぽん、と涼子さんは私の頭に手を乗せて撫でてくれた。とても優しい気持ちになる。

 こんなにたおやかで優しい涼子さんでも、自殺まで考えたことがあるんだ。でも涼子さんがこんなに素敵な女性なのは、涼子さんがこんなにもつらいことを、大切な人と一緒に乗り越えてきたからなんだ。

「だって、うわ、何か、すご……」

 言いながら、わたしは流れる涙を拭った。

「ば、な、泣かないでよぉ、私まで……」

「ちょっと二人とも……」

 今までに見たこともないくらいの、とても優しい笑顔で涼子さんは莉徒の頭も撫でた。

「夕衣、ちゃんと聞いた?今の話」

「う、うん」

 二人とも涙声だ。なんだか可笑しくなってしまう。

「ま、私が言いたいのはね、人生何があるか判らないってこと。もたもたしていて、本当に好きな人に初めてを捧げられなかったら、きっと後悔するから」

「……わ、判りました」

 それこそ自殺を考えてしまうほどに。

 わたしの従姉、髪奈裕江かみなゆえは四年前に自ら命を絶った。涼子さんも裕江姉のことは知っていた。

 程度の問題ではなく、裕江姉の中では、自殺が成立してしまうほどの何かがあった。

 何か、少しでもどこかの天秤が間違った方へと傾いていたら、涼子さんだって、同じ道を選んでいたのかもしれないのだ。

「ま、今となってはそんな後悔も霞んじゃうくらい幸せだけれどね」

「でも、それでも残っちゃってる」

 だからわたしたちに、そんな辛いことでも、ずっと笑顔で話して聞かせてくれたんだ。

「そ。私の可愛い妹たちには、そんな風になってほしくないの」

 わたし達のことをそんな風に思ってくれていたんだ。ただちょっと仲良くさせてもらっているなんて、わたしの方から距離を空けてしまっていたことにも気付かされる。

「で、でも、もしもわたしが英介に初めてをあげて、別れちゃったとしたら、やっぱり後悔する、んじゃないですか?」

 涼子さんは、それでも貴さんに救ってもらえた。そして今も貴さんと幸せに暮らしている。でもわたしが英介とそうなれるかどうかなど、誰にも判らない。

「すると思うわよ。でもね、それは成長する、って言うのよ」

 そうだ。初めて身体を許した人と結婚して、死ぬまで添い遂げる人の方が稀有だ。わたしの隣にいる莉徒だってそうだったんだ。

「それが少しの時間でも、きとんと愛し合って、許した人なら、きっと私の後悔とは違うわ」

「そ、そっか……」

 そうでなければ、莉徒を、大切な親友を否定することにもつながってしまう。

「そんな訳で、このお話はおしまい」

 ぽん、と手を打って、涼子さんは再びカウンターから出てきた。

「まぁ私が言うのもアレだけどさ、後悔のないように、ってことかな。ある意味での、って限定にはなっちゃうけどね」

「そう、だね。莉徒は後悔しなかった?」

 どうしても訊いてみたかった。莉徒の初めての相手がどんな人だったかは知らないし、知る必要はない。わたしが知りたいのは莉徒自身の気持ちだ。

「後悔はしたよ。したけど、別に間違ってないって思ってる。誰も彼も別れること前提で誰かを好きになる訳じゃないでしょ」

「うん」

 莉徒は結果駄目だっただけだ。そして駄目ならまたやり直せば良い。ただそれだけのことなんだ。きっと涼子さんと貴さんも、幾度もやり直してきたんだ。

「そうね。お互いに思ってたのに、時間が空いちゃったからなのかもしれないけれど、私たちはね、お互いに依存するしかなかったのかも、って思う」

 恐らくドアのプレートを営業中に直して戻ってきたのだろう。そのまま涼子さんは一度締めたカーテンを開けてから、カウンターの中へと戻った。

「依存」

 涼子さんには貴さんしか、貴さんには涼子さんしかいなかった。そういうことだろうか。

「それだっていいんじゃないんですか?」

 莉徒がそう言ったけれど、わたしも莉徒の言葉に頷いた。

「私たちにとってはそれでも良かったのかもしれないわね。今はこうして、ちゃんと幸せになれてるから」

 幸せそうに涼子さんは言う。だとしたら、まだ訊きたいことはある。

「今はもう、その、抵抗とか、ないんですか?」

 女として求められることに。

「全くないわよ。むしろ求められることに喜びを感じるくらいだから」

「そっかぁ」

 そう言えば少し前にそんな話になったこともあったけれど、あの時の涼子さんときたら、少なくとも神に並んだと思うくらいに可愛らしかった。

「でもね、それは相手が貴だから。だから、もしもこの先貴と別れることになって、別の男の人と、ってなったら、きっと私は身体を開けない。だけどね、貴以外にありえないから、だから、ちょっと恥ずかしいけれどね、貴に抱かれるのは大好きよ」

 少なくともこの一瞬、涼子さんの可愛さは神に並んだ。

「だから前にも言ったじゃん。私はするの好き、って。そういう意味だよ」

「なるほど」

 いや、本当は判ってはいたけれど。莉徒は別に色魔な訳ではないし色欲が強い訳でもない。本人曰くだけど、うまく続かないだけだ。彼氏いない歴だってもう四年くらいになるらしい。だから、莉徒が言っているのは、女として、自分が好きになった人に抱かれる喜び、という意味でのことを言っていたのは、わたしだって判っている。

「何も考えないのは良くないけど、考えすぎちゃうのはもっと良くないわ、きっと」

「今あんたがあいつのこと好きで好きでしょうがないならなおさらね」

「う、うん」

 そ、そういうこと言うな……。

「やん、夕衣ちゃん顔が真っ赤よ」

「りょ、涼子さん!」

 自覚してます。顔が熱いです。

「あんただけが気を回してる訳じゃない、って判った?」

「あ、そうだね。貴さんも倒れるまで涼子さんのこと本気で気遣ったってこと、ですよね」

「そ。ああ見えてもね」

 貴さんのあの能天気さは、きっと貴さんの地ではないんだ。あれは貴さんの願望が現れているんじゃないだろうか。人を想うことに必死で、気遣わずにはいられない、心の暖かい、本当に優しい人なんだ。

「お話、有難うございました」

「いいえ。少しでも可愛い妹たちのお役にたてれば」

 涼子さんの妹分なんて本当に嬉しすぎる。こんなわたしたちを本当に思ってくれているんだ。だからわたしも、恩返しのつもりで、声高らかに言ってやるんだ。

「わたし、お母さんも史織さんも大好きだけど、やっぱりわたしの女としての最終目標は水沢涼子だわ!」

「あらあら」

「ハードル高いなぁ」

 涼子さんが何故こんな素敵な女性なのか、その氷山の一角でも知ってしまった今となっては、莉徒の言葉は確かにそうだ。

「高くないわよ、別に」

 くすくす、とやっといつも調子に戻って涼子さんは微笑んだ。

「ま、とにかく今は英介とのこと、頑張んなよ」

「具体的に、どう?」

 先ほど史織さんに言ったことを今度は娘の莉徒に問う。

「最初はすんごい痛いけど、我慢!」

「親子……」

 やっぱり似た者親子だ。これはこれでやっぱり幸せそうでとっても羨ましいな。わたしだってお母さんとは仲良しだからちっとも負けてないけれど。

「え、何で」

「史織さんにもそう言われた」

「史織はデキ婚の女だからアテにしちゃだめよ」

 た、確かにそんな話だった。あれはあれで意外だったけれど。だとするならば。

「莉徒もそうなる可能性が高いってことかぁ」

「ちがう!つーか何?友達の母親にそんな話してんの、あんたは」

 それはわたしだって異常だと思ったけれど、史織さんの押しの強さは莉徒が一番良く判っているはずだ。

「と、問い詰められたのよ」

「あぁ、なるほどね……」

 ほら、すぐ納得した。

「デキ婚だろうと何だろうとね、女っていうのは幸せになっちゃった者勝ちなのよ」

 ぴん、と人差し指を立てながら、一片の曇りもない涼子スマイルで涼子さんは言った。

「さすがは涼子さん」

「感服」


 21:ブレンドコーヒー 終り

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