第一章 異世界で結婚相談所?
1.
* * *
「はあ……今日も疲れたなぁ」
深夜の電車のホームでため息をつく。
腕時計は二十二時半を指している。今日も遅くまで残業だった。
春先でも夜は寒く、セールで買ったセットアップのパンツスーツでは生地が薄くて、思わず身震いをする。
ゲホゲホ、と咳き込み、ベンチに座り帰り道のコンビニで買った栄養ドリンクを一気に飲み干した。
高嶋有紗、二十七歳。
二十年前に、親戚の結婚式を見て憧れた少女は、婚活アドバイザーとウェディングプランナーの資格を取り、大手結婚相談所にて働くOLとなった。
「今日はイベントが立て込んでたなぁ……」
栄養ドリンクを飲み込み、独り言を呟く。
午前中は担当の相談者様と打ち合わせ。午後はランチ婚活イベントが二件、夜はエグゼクティブパーティ。
若者の恋愛離れ、結婚離れが世間では話題となっているが、自分の職場には無縁なことだった。
仕事は忙しいけど、やりがいはある。うまくカップルが成立した時などは、充実感で胸が満たされる。
主に土日がメインなので、なかなか友達とも遊ぶことができないことが玉に傷だが、それでも仕事には誇りを持っていた。
電車が到着し、乗り込み席に座ると、向かいの席には公の場だというのに、頬を寄せ合っていちゃくつ男女の姿があり、有紗は咳払いをして下を向いた。
長らく恋人どころか好きな相手さえもいない。
(まあでも、私にはゲームという癒しがある!)
スマホを取り出しアプリを起動した。
今流行りのRPG、ソウルオブトレジャー。
王道のRPGな勇者が魔物を倒すストーリーと、綺麗なキャラデザがお気に入りだった。
アプリサイトでもダウンロード数は常に一位で、電車の中でもよくプレイしている人を見かける。
(ギルドのケビンさんと、ガーネット王国のルビオ王子がカッコ良いのよね!)
特別イベントの限定キャラ絵を見て、にやけてしまうのを必死に堪えながら画面をタップすることもよくある。
最寄り駅に到着したので、スマホをしまい電車から降りる。
駅から徒歩数分の家につき、真っ暗な部屋の電気をつける。くたくたに疲れていたので、鞄を投げ出しソファーに寝転がる。
明日は休みだ。
化粧を落とすのもお風呂に入るのも、もう明日でいいやと投げやりに伸びをする。
「なんだろ、熱かな…? 薬飲まなきゃ…」
顔が紅潮し、頭の中がぐるぐると回る。平衡感覚がなく、立ち上がれない。
喉からは咳が出て、胸が苦しい。
水を飲みたいと鞄の中を探すが、震える指ではペットボトルも掴めない。
体が熱い、割れるように頭は痛み、視界が暗くなる。
たすけて、とかすれる声で呟いたが、一人ぼっちの部屋には返答する相手はいない。
最後に目に映ったのは、開いたままだったスマホのゲーム画面だった。
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