20 聖女は弱気になる
『大神殿の地下から竪琴を持ち出す?! 無理むり絶対無理!! あたしはすでにラデウムでお尋ね者なのよ?!』
数時間前そう叫んでいたノアは、今、ラデウム城壁のすぐ近くから、ラデウム西大門を睨んでいた。
助さん角さん、もといアルとレオを両脇に従えて。
(どうしてこんなことに)
とほほな気分だが、よくよく考えれば言い出しっぺは自分だ。
呪いを解く方法を一緒に考えよう、とか、言わなきゃよかったか?
そんな思いが頭をかすめる。
魔法の竪琴がラデウム大神殿の地下にあること、どうやらそれが異世界から流れてきた人物が作った、この世界最古の竪琴であること、それが呪いを解くかもしれないこと――その話の流れで「そうだ、大神殿へ行こう」とトントン拍子に話が進んだ。
すなわち、大神殿から魔法の竪琴を持ち出し、アルとレオの呪いを解く。
そういう話になった。即決だった。――四対一で。
『大神殿の地下に侵入とか、無理だし無謀だよ?! 地下の宝物には
というノアの叫びは、まったく聞き入れられなかった。四人は瞬く間に作戦を立て、必要な物を
(あたしは異世界ハッピーライフを取り戻せればそれでいいんですけど……)
呪いを解くのは根本的解決だが、そのために今ここでテオ大神官の追手に捕まっては元も子もない。
ほとぼりが冷めるまで、どこかに身を隠しているほうがよかっただろうか。
弱気になったノアは、後ろをそっと振り返る。
黒いローブ姿の長身と白いローブ姿の長身がノアに近付いてきた。
黒いローブ姿の長身がノアの隣に立つ。
「心配するな。盗むわけじゃない。少し借りるだけだ。おまえが魔法の竪琴を奏でて俺とアルの呪いが解けたらすぐに返す。だろ?」
「そうだけど」
白いローブ姿の長身もノアの隣に立った。
「それで呪いが解けたら、全部がうまく運ぶよ、ノア。オルビオンが戦場になることはない。――そうだろ、レオ」
「……ああ。そうだな」
(呪いが解けて宣戦布告の根拠が無くなったら、オルビオンへの外交政策を違う方向から考え直す必要がある。お互い、いったん仕切り直しになるよね)
(もし万が一ここで呪いが解けた場合、今回の宣戦布告の根拠は無くなる。いったんは宣戦布告を取り下げる形になるだろう。それはブランデンもモームも同じだ)
互いに腹の底でそんなことを考えつつ、あいまいに笑ってごまかす。
「ねえ、でも、でもさ、魔法の竪琴で呪いが解けるって決まったわけじゃないでしょ?」
「なんだ、言い出したのはおまえだぞ」
「そ、そうだけど……」
「こわいんだね、ノア。大丈夫。僕がついているから」
アルは端麗な顔で微笑み、ノアの手を握ってフォローする。
レオはムッとしたように言った。
「ここまできたら怖いも何もないだろう。こんなところでうじうじしていないで早く検問を通って連絡するぞ。トレス殿とマルコスがしびれを切らす」
トレスとマルコスはさまざまなシチュエーションに備えるため、馬と荷物(大半は皇太子たちの着替えだが)を見張るため、ラデウムの城壁の外で待機している。
うまくラデウムの中に入れたら、エルメスで連絡することになっていた。
「そ、そうね……トレスさんやマルコスさんを心配させたらいけないわね」
ノアは大きく息を吐いた。もうこうなったらヤケクソだ。
「はあ、仕方ない。行きますよっ、スケさんカクさん」
「え?」「は?」
「……なんでもない、行きましょ」
ノアは西大門へ伸びる道を歩き出す。
手はずは打ち合わせ済みだ。あとはうまくいくかどうか。
大門の下にはラデウムに入るため、検問に並ぶ人々の列ができていた。
ローブに身を包み、フードを
無事に判を押してもらって、旅券を受け取る。ノアは内心ガッツポーズ。
(よしっ、ここまではイイ感じ)
――しかし。
「そこの三人、止まれ!」
神官兵に呼び止められた。
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