3 ブランデン王国とモーム王国からの使者
ある日、
「聖女様。
「そうなの? 確か、両国は共にもうすぐ皇太子が立たれると聞いたわ」
オルビオン
オルビオンのすぐ
「立太子の時に、オルビオンから儀式の神官を
ノアは首を
アンナはうれしそうに微笑む。
「いいえ、私はきっと、竪琴の演奏の件だと思いますのよ。ノア様の竪琴はブランデン王国やモーム王国でも評判になっていると聞きます。きっと、立太子のお祝いに演奏を、というお話ではないでしょうか」
「それは光栄なことだけど……なんだかおそれおおいわ」
隣国の、しかも大国のお祝いの席で演奏となると、世界中にノアの名前が知れ渡るかもしれないほどのビックイベントだ。ノアの中では、天皇陛下の前で演奏したことが評判になって欧米ツアー
前世での
しかしアンナはノアの不安を笑い飛ばした。
「何もおそれることはありませんわ。今やノア様の竪琴は神の
「そうかなあ」
「先ほど、テオ大神官が大事そうに何かを
「えっ」
ノアは目を丸くした。
魔法の竪琴とは、オルビオンに古くから伝わる竪琴だという。
噂によれば、世界中で最も古い竪琴と言われているらしい。
それはそれは、良い音で鳴るのだという。
オルビオンで竪琴を弾く者なら誰もが、いつか見て
「ほら、ノア様、近く建国記念祭典がありますでしょう?」
「あ、ああ、そうだったわね」
先日、大神殿でのお
神がこのオルビオンの地を聖域と定め、聖領と成したことを祝う祭典で、その時に使う竪琴が世界で最も古いとされる竪琴――つまり魔法の竪琴なのだと。
「魔法の竪琴はいつも祭典で使われるのですが、今年はぜったいノア様が奏者ですもの。その前に、ブランデンとモーム、両大国のお城で立太子のお祝いの演奏をするんじゃないでしょうか?」
「そ、そうかしら?」
アンナは
「自慢の秘宝ですもの、お使者様方にお見せになったのではないでしょうか。ああ、ノア様が魔法の竪琴を演奏されたら、どんなに素晴らしい演奏になることでしょう!」
アンナは
ノアは適当に
(本当にそうなのかしら……?)
オルビオン聖領からすでに立太子儀式の神官を派遣したことからもわかるように、両国共に皇太子は決まっており、儀式は秒読み段階に入っているはず。そんな忙しいタイミングで、竪琴の演奏の件でわざわざ、しかも両国そろって使者を
もしくは、派遣された神官が気に入らなかったのだろうか。
それはない、とノアは思う。
派遣されたのはオルビオン聖領において「
しかもその中の二人、ブランデンへ派遣された五賢者筆頭グレゴリオ大神官はオルビオン教皇、つまりオルビオンの最高指導者長であり、もう一人モームへ派遣されたアレクサンドル大神官は教皇補佐、つまりオルビオン最高指導者のナンバー2。
どちらの国へも、これ以上出せないというくらい最高の人材を投入している。
その最高の中の最高の人材+五賢者の一人、という二人ペアが両国に遣わされており、残った五賢者のテオ大神官が留守を
ブランデン王国とモーム王国とオルビオン建国記念祭典が微妙にブッキングしそうな状況で、教皇をはじめとする五賢者大神官を優先的に派遣しているのだから、オルビオンが両国へ表する敬意は充分に伝わっているだろうし、文句のつけられようもないというものだ。
(じゃあ、なんのためにこんな時期に使者が)
アンナの言うように、竪琴の演奏の件なのだろうか。
まったく別件の、
もしかしたら、とくに何の意味もないのかもしれない。大神官を派遣したことへの、御礼の使者かもしれない。
けれど、どこかに
そして、そのノアの
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