水の妖精の愛し子の巣立ち3
ごとごとと揺れる荷馬車の荷台にシェナは乗っていた。
御者席には両親が仲良く座っている。
これから家族で町に行くのだ。
荷台には母の織った布や父の作った木彫りの人形、シェナの編んだ蔓籠などが載っている。
これらを町に納品に行くのだ。
がたがたと揺れる荷台は正直乗り心地がよくない。
でも仕方ないのだ。町への道が舗装されているわけでもないのだから。
揺れる荷馬車の上では話すと舌を噛む恐れがあるので三人とも無言だ。
水の妖精にはああ言ったが、そもそもこの道を一人で行くのも難しい。
歩いてとなるとかなり時間がかかるし、シェナ一人では荷馬車が動かせない。
恐らく水の妖精はそれを知らないのだと思う。
だからあんなことを言うのだ。
今日は水の妖精はいない。
彼女に会うのはあの泉か、雨の日に彼女が家に遊びに来てくれる時だけだ。
一緒に町に行くことはないし、森の中に散策に行くこともない。
あの泉の周辺が行動範囲の彼女は外の世界を知らないのだろう。
ごとごとと揺られながらシェナはずっと景色を眺めている。
景色は流れていくがあっという間というほどでもないのでのんびりと眺めることができる。
代わり映えのない景色のようで少しずつ違う。
普段は家と泉の周辺しか行かないので、シェナにとっては新鮮で飽きの来ない景色なのだ。
ここに水の妖精がいたらきっと楽しいだろうな。
そう思いながら。
きっと彼女はシェナの見えていないことに気づき教えてくれたり、綺麗なものを見つけて教えてくれたりするだろう。
彼女のお喋りをただ聞いているだけでも楽しいだろう。
町に着いた。
商人たちが中継地としても使っているこの町はそれなりに大きい、らしい。
らしい、というのはシェナは町といえばこの町しか知らないからだ。
町の中でそう聞いたので恐らくはそうなのだろう。
両親に訊いたことはなかったが、両親もたぶんこの町しか知らないだろうから訊いても仕方ない。
荷台から下りてぐぐっと体を伸ばす。
揺れる荷馬車の荷台に乗っていたのであちこち固まっているし、痛い。
「シェナ大丈夫かい?」
「ええ、大丈夫よ」
心配そうに声をかけてきた父親に笑顔を向ける。
「つらいようなら休んでていいからね」
「大丈夫よ。私も運ぶわ」
「そう。じゃあ手伝ってちょうだい」
母の言葉に頷く。
「うん」
「無理はしなくていいから」
何だかんだでシェナに甘い父親はそんなことを言ってくれる。
「うん。ありがとう。でも大丈夫よ」
笑って言って荷台の上の蔓籠を抱える。
布を抱えた母とともに懇意にしている商会の扉をくぐった。
「こんにちはー」
「いらっしゃい。待ってたよ」
馴染みの店主が笑顔で迎えてくれる。
「お久しぶりです。今回もお願いします」
「はいよ」
母がカウンターに持っていた布を置く。
その横にシェナも蔓籠を置いた。
遅れて父も蔓籠と、そこに木彫りの人形を入れて運んでくる。
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