水の妖精の愛し子の巣立ち2
二人でいつも通り飽きることなくお喋りをしていると
『シェナは町に行きたいと思わないの?』
不意に水の妖精が訊いてきた。
父に連れられて、あるいは家族で森を抜けた先にある町に行くことはある。
でも一人で行ったことはない。
「どうして?」
シェナは今の暮らしで満足している。
だからどうして水の妖精がそんなことを訊くのかわからなかった。
『んー? 人は人の中で暮らしたいものかしらって』
「別に、そんな気持ちはないわ」
『でも毎日家とこことの往復だとつまらなくない?』
「え、つまらなくないわ。貴女たちがいるもの」
『でも、それでいいの?』
「どういうこと?」
首を傾げる。
水の妖精はもどかしげな顔で口を開くが、言葉にはならなかった。
結局水の妖精は力なく首を横に振る。
「どうしたの?」
『何でもないわ』
シェナは首を傾げた。
それからにっこりと
「私はどこにも行かないわ」
シェナは心の中で呟く。
どこにも行きたくない。
貴女のいないところには。
また水の妖精がもどかしそうな顔になる。
時々彼女はそんな表情をする。
シェナは今の生活に何の不満もないのだ。
だからそんな顔をしなくていい。
シェナは今のままで十分幸せなのだから。
*
今日は雨だ。
雨の日には泉には行けない。
代わりに、
『シェナ!』
水の妖精が遊びに来てくれる。
「待ってたわ」
シェナも笑顔で迎え入れる。
水の妖精はシェナの頬に頬擦りする。
全身でシェナに会えた喜びを表現してくれる。
「こうして雨の日も会えて嬉しい。来てくれてありがとう」
雨の日以外に水の妖精がこうして遊びに来てくれることはない。
『だって会いたかったのだもの』
「嬉しいわ。私も会いたかった」
『嬉しい!』
水の妖精はくるくると空中で踊るように回る。
それをシェナは楽しそうに見ていた。
『シェナは何をしていたの?』
シェナの前でぴたりと止まった水の妖精が訊く。
「私? 私は籠を編んでいたのよ」
ほら、と指す先には編みかけの蔓の籠がある。
『邪魔しちゃった?』
「いいえ」
『よかった。あ、続きをしていいわよ』
「ええ」
シェナは座って編みかけの籠を手に取る。
ふよふよと水の妖精は近づき、手元をのぞき込む。
シェナは
その間にぽつぽつと会話を交わす。
時折笑い声が上がった。
それがいつもの雨の日の過ごし方だった。
*
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