水の妖精の愛し子の巣立ち1

森の中にその家はあった。

その家には父母娘の三人家族が住んでいる。


その娘の名前はシェナという。

父親の茶色の髪と、母親の青い瞳を受け継いだ十代半ばの少女だ。

ただし光彩だけは違う。

母親は青目に一段濃い青の光彩だが、シェナは青目に金色の光彩だ。

彼女は水の妖精の愛し子だった。






家から少し離れたところに泉がある。

そこに毎日行くのがシェナの日課だ。

そこに一番の友人がいるのだ。






『シェナ、いらっしゃい!』


ぽーんと泉から飛び出てきたのはシェナの顔と同じくらいの大きさの水の妖精だ。

水しぶきが上がるが、水滴がシェナを濡らすことはない。


「いつも元気ね」


シェナは微笑わらう。


『シェナが来てくれたからね』


にこにこにこにこと水の妖精も笑顔だ。


「毎日会っているのに」

『だから私は毎日幸せよ』

「あなたが幸せなら私も嬉しいわ」

『シェナが喜んでくれるのなら私は幸せよ』

「ふふ、幸せの相乗効果ね。素敵だわ」

『ええ、素敵』


二人で顔を見合わせ、くすくすと笑い合う。


シェナは泉のふちに座った。

水の妖精はふわりと漂い、シェナが話しやすい高さでふわふわと浮いている。

二人のいつもの定位置だ。


シェナは泉に視線を向ける。

他の水の妖精たちが来ることもあるが、今日はいない。


『シェナは毎日ここに来てくれるから私は嬉しいけど、シェナは退屈じゃない?』

「何で? 大好きなお友達に会いに来ているのに退屈するはずないじゃない」

『シェナ!』


水の妖精はシェナの頬に抱きつき頬ずりしてくる。


『私も大好きよ!』

「ふふ、嬉しいわ」

シェナもにこにこと微笑わらう。




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