風の妖精の愛し子とキャラバンの仲間たち9


タニトが一人の少年をジーフの前に連れてきたのは、それから数日してからのこと。


「クルフ?」


どうしてクルフをここに? と目でタニトに問う。


「クルフ、何か言いたいことがあるんじゃないか?」


びくっと肩を揺らしたクルフはそれでもジーフの前に来た。視線は地面をさ迷い、ジーフを見ない。


「クルフ?」

呼びかけるとクルフは顔を上げてまくし立てる。


「わざとじゃないんだ。ただちょっとぶつかっちゃったら崩れちゃったんだ」


クルフは必死だ。

それは伝わってくる。

怒られたくない、その気持ちはジーフにもわかる。

が、もやもやする。

だって、それは、クルフの身勝手な理由だ。

ジーフには関係ない。


「クルフ」


タニトが厳しい声で名を呼び、クルフの言い訳を遮る。

クルフはびくんと肩を揺らした。


「一番いけないことは、自分の罪を他人になすりつけることだ。自分でやったことの責任は自分で取らなければならない」


いつにない厳しい顔でタニトが言う。

クルフは項垂うなだれる。


「ごめん、なさい……」


なおもタニトは厳しい態度でクルフに言う。


「お前は真面目だから思い詰めちまったのかもしれないが、犯人にされかけたジーフの気持ちを考えたか?」


はっとしたようにクルフはジーフを見た。

本当に今の今までジーフのことなど何も考えていなかったようだ。


「ごめん、ジーフ。本当にごめん」


謝るクルフを複雑な気持ちで見る。

謝られたなら許さなければならないのだろう。


だけどーー


みんなにお前がやったんじゃないかと疑われたのはつらかった。

いつも悪戯ばかりしているからだとはわかっていた。


わかっていたけど、つらかった。

タニトが信じてくれて凄く嬉しかった。

タニトだけが信じてくれた。

ただ一人、タニトだけが。


『そんな謝罪一つで簡単に許されるとは思うなよ?』


風の妖精がジーフを守るように前に立ち、低い声でクルフに言う。

クルフはびくっとする。

風の妖精がそこまで怒ってくれて、かえってジーフは気持ちが軽くなった。


「ごめん、すぐには許すことはできない」


本当にジーフは悲しくてつらかったのだ。

その気持ちは簡単にはなくならない。

クルフの顔がくしゃりと泣きそうに歪む。


「でも、いつかは許したいと思う」


その言葉に安心したのかクルフが泣き出す。


「……ありがとう。ありがとう、ジーフ」


くしゃりとタニトがジーフの頭を撫でた。

えらいぞと言われているようで、ジーフは泣きそうになりながら微笑わらった。




クルフが名乗り出て謝罪したことからこの一件はしまいになった。

ジーフの疑いも晴れてみんなから謝罪された。




その一件があって以来、ジーフは少し大人になった。




*




成人を機にジーフはキャラバンを離れた。

もちろん風の妖精は一緒だ。

風の妖精は相変わらず小さいままだ。

キャラバンの仲間とは会おうと思えば会える。

風の妖精に聞けば居場所はわかるから。

だからジーフは気の向くまま自由に旅することができる。


帰る場所はきちんとあるのだからーー。

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