風の妖精の愛し子とキャラバンの仲間たち8

「なぁ、もし他に犯人がいたらそいつにも今と同じような態度を取るのか?」

「どういう意味だ? やったのはジーフだろう?」

「だからもし違う奴がやったんだったらどうするんだ、って訊いているんだ」

「ジーフと同じだ。きちんと謝れば許す」


長の言葉だ。

それなら問答無用で追い出されることはないだろう。


「そうか」


ならやることは一つ。

犯人を見つける。


タニトだってキャラバンの仲間を糾弾したいわけではない。

ただジーフの疑いを晴らしてやりたいだけだ。


このままではジーフはキャラバンでの居場所を完全に失ってしまう。

キャラバンを追い出されるか、自ら出ていってしまうか。

そうなればジーフの人生は過酷なものになってしまう。

まだ十歳なのだ。

風の妖精の守護があるとはいえ、下手すれば野垂れ死んでしまうだろう。

そんなことにはさせたくない。


それと同時に風の妖精の不興を買って、このキャラバンもただでは済まないだろう。

今だって怒っている風の妖精によってそれなりに報復を受けている。

自分たちの愛し子が傷つけられて黙っているはずがないのだ。


今はまだジーフがここにいるから抑えられている。

ジーフがいるからまだ守られている。

それがジーフがいなくなるとなると、考えるだに恐ろしい。

取り返しのつかないことになる前に事態を収めなければならない。


誰も気づいていないようだからタニトがやらなければならない。

キャラバンのためにも。

犯人を見つけても反省して謝れば許すと明言したならば、追い出されたりすることはない。

それならば犯人を見つけ出して謝罪させればいい。

もちろんジーフにも。


あれからずっと調べていたのでタニトには誰がやったのかおおよその見当はついていた。

自分から名乗り出るかとも思ったが、待っていても名乗り出ることはなかった。

ならば、こちらから動くしかない。

明日にでも話してみよう。

タニトはそう心の中で決めた。




その大人の話し合いを風の妖精たちは姿を現すことなく聞いていた。




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