風の妖精の愛し子とキャラバンの仲間たち5


ジーフは人のいない岩の陰に座り込んでいた。

立てた膝に顔をうずめている。

泣きはしない。

泣いたって、仕方ない。


「ジーフ」


びくっとして恐る恐る振り向いた。

そこにいたのは普段通りのタニトで……


「俺はやってない!」


ジーフは立ち上がって必死に訴えた。


「わかってる。お前は悪戯ばかりするが人を傷つけるようなことはしないからな」


一切の躊躇いもなく言ってもらってジーフは深く安堵した。体から力が抜ける。

へたり込んだジーフの頬に風の妖精が自分の頬を押しつける。

慰めてくれているのがわかる。

やれやれとタニトは苦笑する。


「これにりたならいたずらはほどほどにするんだな」

「……うん」


殊勝な態度で頷いたジーフにタニトは目を見開いた後で苦笑した。

ぐしゃぐしゃとジーフの頭を撫でる。

ジーフはされるがままだ。

いつもならやめろと騒ぐのに大人しい。

それだけ傷ついたということなのだろう。


「俺はお前を信じているからな。つらかったら俺のところに来い」

「……うん。ありがとう、タニト」


タニトの言葉は信じられる。


「一つ訊いていいか?」

「うん」

「大きな音がして行ってみたらあの状態だったって言ってたな?」

「……うん」


やはりタニトも疑っているのだろうか?


「その時、誰か見なかったのか?」


どうやら違ったようだ。


「ううん、見ていない。俺が行った時はもうあの状態だった」

「そうか」


タニトは顎に手を当てて何か考えているようだ。


「タニト……?」


不安になって名を呼ぶ。


「うん? ああ、大丈夫だ。大丈夫だから、心配するな」

「う、うん」


またぐしゃぐしゃとタニトがジーフの頭を撫でる。


「だから、誰に何を言われようと胸を張っておけ。お前がうつむく必要なんてないんだからな」

「……うん」


泣きそうになりながらジーフは頷いた。


「ありがとう、タニト」






風の妖精は怒っていた。

ジーフにいつもついている風の妖精だけではない。

その辺を通っている風の妖精たちまでもみな怒っていた。

風の妖精自分たちの愛し子を疑い傷つけたのだ。到底許せることではない。


誰も彼もが彼を犯人だとはなっから疑ってかかっていた。

タニト以外は誰もジーフの言葉を信じなかった。

ジーフは本当に何もしていないのに。

やったのは、他の人間だ。

ジーフを信じない人間も、ジーフに罪をなすりつけた人間も許しがたい。




その日から風の精霊はジーフとタニト以外には見えなくなった。



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