風の妖精の愛し子とキャラバンの仲間たち3

『どうしたんだい?』


ジーフは緩く首を振った。


「俺はそんな深い話をするつもりじゃなかったんだ」

『うん』


穏やかに風の妖精は話を促す。


「俺の他にも何人もの愛し子に会うんだろうな、って思ったんだ」

『そりゃあ、会うだろうね』

「俺のこともその中の一人になって忘れられていくのは寂しいな、って……」

『馬鹿だな、ジーフ』

「何だとっ!」

『馬鹿だよ、ジーフ。おいらがジーフを忘れるわけがない。おいらにとってジーフは愛し子の中でも特別だ』

「特、別……?」

『そうだよ。ジーフがおいらを選んでくれたんだ。そんなジーフが特別じゃないなんてあり得ない。いつまでもジーフがおいらの中では一番特別な愛し子だ』


ジーフは目を見開いた。そしてくしゃりと顔をゆがませる。


ジーフは誰かの一番になれたことはなかった。

キャラバンで生まれた子供はみんなキャラバンの子だが、親子はやはり親子なのだ。

一番は自分の子供であり、自分の親だ。

だから親のいないジーフは誰かの一番にはなれなかった。

でも、誰かの一番になりたかったのだ。


ぽんぽんと優しく風の妖精がジーフの頭をその小さな手ででる。


『ジーフはおいらの一番大切な愛し子だよ』


涙が出そうになり、慌てて目元をぬぐった。


「……うれしい。ありがとう。俺にとってもお前が一番だ」


風の妖精は顔いっぱいに笑みを浮かべた。

そのままぎゅっとジーフの頭に抱きつく。


『ほら、早く食べちゃいなよ』


頭に顔をうずめたまま風の妖精が促す。


「うん」


うつむき、食事を再開する。

ジーフが食べ終わるまで風の妖精はそのまま顔を上げることはなかった。




夕食が終わると子供たちは寝床に追いやられた。




テントで寝るときも子供は子供、大人は大人で別れる。

さすがに二歳児くらいまでは母親と一緒だが。

夜の間も交代で男たちは見張りに立つ。

ジーフも同じくらいの年頃の少年たちと同じテントで眠りにいた。


*


寝ているジーフの頭を撫で風の妖精は優しい微笑みを浮かべる。


『ジーフがおいらを選んでくれたんだ』


風の妖精は誇らしげだ。


それはまだジーフが赤ん坊だった頃の話だ。

自分たちの愛し子が生まれて風の妖精たちはかなり浮かれていた。

赤ん坊を入れておく籠の周りには愛し子ジーフを見ようとたくさんの風の妖精が集まっていた。

その中で、ジーフが手を伸ばして笑ったのが、今彼についている風の妖精なのだ。


それがどんなに嬉しかったことか。

ジーフはわかるだろうか?

ジーフが選んでくれたからこそ、今一緒にいられるのだ。


愛し子の生涯に付き添える妖精は一人だけと決められている。

ジーフが選んでくれなければ傍に寄り添うことはできなかった。

今一緒にいられる幸せはジーフがくれたものだ。


ずっとずっと傍にいる。

傍に、いられる。


『ずっと一緒だからね』


その言葉が届いたかのように、ジーフの口許が綻んだ。


*

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