風の妖精の愛し子とキャラバンの仲間たち2

そうやってばたばたと慌ただしく過ごしている間にあっという間に日が暮れた。

外に獣けと調理用と兼ねた火をく。


女性たちががやがやとおしゃべりしながら調理をしており、時折つまみ食いをしようとした子供を叱る声がする。

その間に男たちは交代で見張りに立ち、明日の行程を確認したりしている。


夜、一ヶ所に留まっている時が一番賊に襲われやすい。

夜闇にまぎれることができるし、女子供のテントにもぐり込めれば人質にするのも容易だ。

場所さえ特定できれば動いている昼間よりよほど襲撃しやすく成功率も高くなる。


火を焚いているので居場所の特定は簡単だ。

だが獣避けも兼ねている火を消すという選択肢は取れない。

だからこそ男たちが交代で周囲を警戒しているのだ。


密かにそこに風の妖精たちが加わっていることには誰も気づいていない。

風の妖精自分たちの愛し子がいるのだから守るのは当然だ。

風の妖精自分たちの愛し子が大切にしているキャラバンの皆を守るのも当然だ。




やがて夕食の準備が整い、それぞれに配られた。

もちろん見張りに立っている男たちの分は別に取り分けてある。

各々好きな場所に座り、神に祈りを捧げて食べ始める。


ジーフも火から少し離れたところに座り食べている。

年の近い少年たちと食べる時もあるが、今日は一人だ。

風の妖精はふわりとジーフの前に浮いていた。


『おいしいかい、ジーフ?』

「うん。お前も食べられるといいのに」

風の妖精おいらには必要ないからね。たくさん食べて大きくなれ』

「お前だって小さいのに」


ジーフは笑って言う。


『おいらは妖精だからね、ジーフとは違う』


言い方が年長者のそれだ。


「一緒に大きくなれたらいいのにな」


ジーフの覚えている限り、ずっと風の妖精は同じ姿だ。

風の妖精が飛び上がってジーフの頭をでる。

そうやってこの風の妖精は時々年上ぶる。


「俺よりちっちゃいくせにな」

『妖精は人間とは違うからね。ゆっくり大きくなるんだよ。おいらのほうがずっとジーフより年上なんだからね!』

「はいはい」


適当に頷くと小さな手で頭をぱこぱこ叩かれた。


「ごめんごめんて」

『ほら、早く食べちゃいなよ』

「うん」


ジーフはさじを口に運びながら話を続ける。


「お前は、俺があっという間に大きくなってじいさんになってもきっとそのままなんだよな」


ぽかりとまた風の妖精がジーフの頭を叩く。


『おいらだってもう少し大きくなってるよ!』

「いや、そういう意味じゃなくてさ、俺が死んでもお前はずっとずっと長く生きるんだろう?」

『そうだね。長い長い時をって、ある日、ふっと世界に溶けてかえるんだよ』


それは人間など及びもしない長い永い時を生きるものの持つ静かさだった。


思わずジーフは息を飲む。

何も言えない。


それは人間が触れてはならぬもの。

たとえ愛し子であろうともそれは許されない。


そんなふうに感じるほど静謐せいひつおかしがたい何かだ。


風の妖精が首を傾げる。


『ジーフ?』


名を呼ばれて、無意識に詰めていた息を吐く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る