風の妖精の愛し子とキャラバンの仲間たち1
荒野には乾いた風が吹いている。
あちこちに簡易的なテントが建てられている。
その作りを見ただけで彼らが定住していないことがわかる。
そう、彼らは荒野に点在している町から町へと移動するキャラバンの一行だった。
乾いた風が土ぼこりを上げている。
そんな中でも小さな子供たちは声を上げて駆け回っている。
大人たちは忙しそうに立ち回っており、年長の子供たちはそれを手伝っている。
日が暮れるまでに全てを終わらせなければならないのだ。
休んでいる暇はない。
大人も子供もみんな動き回っている。
広げられていた布が不自然な風で浮き上がり、近くにいた男性の上にばさりと落ちた。
視界を奪われた男性は、すぐにがばりと布を
目をいからせて怒鳴る。
「ジーフ、またお前か!」
怒鳴られた男の子ーージーフはけらけらと笑う。
その肩には小さな風の妖精が乗っており一緒に笑っている。
ジーフは砂色の髪に、風の妖精の愛し子の証である金色の虹彩に銀色の瞳を持っている。
肩に乗っている風の妖精はジーフが生まれた時からずっと一緒にいる妖精だ。
いつだって彼らは一緒だ。
ジーフが何をしている時でもずっと風の妖精はジーフの傍にいる。
寝る時も。
食事をする時も。
荷台で大人しく座って揺られている時も。
大人の手伝いをする時も。
他の子供たちと遊ぶ時も。
そして、いたずらする時も。
いや、いたずらする時は一緒になっていたずらをしている。
むしろ率先してやっている。
まだ小さい妖精だからだろうか、それとも風の妖精の性質なのだろうか、とにかく彼はいたずらが好きだ。
そしてジーフもまたいたずらが好きだ。
元々の性質なのか、いたずら好きな風の妖精がずっと傍にいるからかはわからない。
確実に風の妖精の影響は受けていると思うが。
この風の妖精は姿を隠しておらずキャラバンのみんなに見えている。
だからキャラバンのみんなはジーフが風の妖精の愛し子だと知っていた。
だが町に行った時はさっとジーフの髪に隠れてしまって出てこない。
あくまでも姿を見せるのはキャラバンのみんなの前だけだ。
恐らくキャラバンのみんなはジーフの家族と認められているのだろう。
血の繋がりの家族というものはジーフにはいなかった。
父はジーフが生まれる前に亡くなり、母はジーフを産んで間もなく亡くなった。
だがジーフは寂しくなかった。
ジーフにはキャラバンの仲間という家族がいたから。
キャラバンで生まれた子供は等しくキャラバンの子供だ。
みんなが慈しみ、厳しくも愛情深く育てていく。
誰の子でも関係ない。
そうやってジーフも育てられた。
だから彼は欠片だってみんなからの愛情を疑ったことはない。
だから屈託なく笑うことができるし、いたずらだってできるのだ。
「ったくこの忙しい時に! ほら、さっさとこの布持ってけ」
「はーい」
渡された布を持ってジーフはテントのほうに走っていく。
その背を見送って男性ーータニトはやれやれと息をつく。
だがその目にはしっかりと愛情があった。
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