森の隠者と火の妖精に呪われた町8

『だけど、それ以上は知らないからね!』

『これ以上あの子の悪口を言う奴らに温情はないから!』

『僕たちの我慢に限界がきたら今度こそ火を取り上げるから!』

「ああ、それで構わない」


そこまでしてもかたくなに憎むというのなら、それはそれで彼らの選択だ。


『文句言いっこなしだからね!』

「ああ。だが確認だけさせてほしい。火を完全に取り上げたらもう戻すことはないのか?」


んー? と火の妖精たちは考え、輪になって話し合い始めた。

やがて結論が出たのか輪を解いた。

そして、渋々といった様子で言う。


『いいよ。今と同じ条件でまた使わせてあげる』

「本当か?」


うんと火の妖精たちは頷く。


『パーシファル・パーンにめんじてだからね』

『特別なんだからね』

『それを忘れないでね』

「ああ。ありがとう」


パーシファル・パーンは礼を言うと、人間に向き直る。


「聞いていた通りだ。これが、最後の火の妖精彼らの温情だ」


話を聞いてはいたのだろう。

ざわざわとした後、しんと静かになる。

怖々こわごわとお互いを見て、最後にはパーシファル・パーンに視線が集まる。


「火の妖精が協力してくれるから、ここにはいない者たちにも伝えてやってくれ」


これ以上パーシファル・パーンにできることはない。

火の妖精がここまで譲歩したのだから、あとは人間側が努力するしかない。


「火の妖精がここまで譲歩してくれたんだ。あとは人間側の努力次第だ」


人間たちがお互いを見てざわつく。


覚悟を決めた者、不安そうな者、途方に暮れた者、困惑している者、苛立たしげな者、項垂うなだれている者……。

実に様々だ。


あとは彼ら自身の問題だ。


「調停はここまでだ」


パーシファル・パーンは宣言した。

すがるように見てくる者もいるが、この先は彼にはどうすることもできない。

あとは己で向き合うしかない。


対照的なのが火の妖精だ。


『パーシファル・パーン、ありがとう』

『これでもうあの子の悪口を、ううん、火の妖精僕らの愛し子たちの悪口を聞かなくて済む』


その言葉を聞いていた人間の中ではっとした顔になった者たちがいた。

彼らは慌てて火の妖精に向き直る。


「火の妖精、今まで本当に済まなかった。ずっと悲しい思いをさせていたのだな」


町の住人の一人が謝る。


「ずっと大切な子の悪口を聞かせていたんだな。そりゃあ、怒るわ」


別の町の住人も言った。

それに周りの人間が頷く。


『わかればいいよ』

『火を取り上げなかったのはあの子のお陰なんだからちゃんと感謝してよね!』

「もちろん。よく考えたら、小さくても火はちゃんと使えていたんだよな」

「それがお前さんたちの愛し子のお陰だと知らなかったんだ。許しておくれよ」

『仕方ないなぁ』

『これっきりだからね』

「ああ、ありがとう」


友好的に交流を図る両者を見てほっとする。

彼らはもう大丈夫だろう。


「もしまた何かあれば呼ぶといい」


そう言い置いてきびすを返す。


気になるのはそれでも火の妖精を憎々しげににらんでいた者たちのことだ。わめき散らしていた男もその中にいた。


だがこれ以上はパーシファル・パーンにはどうにもできない。

彼らの心は彼らのものであり、その選択の結果は自分で引き受けなければならない。


頭を下げている町の住人もいるが流す。

妖精たちも手を振っていたり、気ままに少しの間並走したりしながら見送ってくれる。


一抹いちまつの不安を抱えながら、パーシファル・パーンは町を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る