森の隠者と火の妖精に呪われた町7

パーシファル・パーンは火の妖精に頷き、人間に向き合った。


「聞いていた通りだ。彼女に感謝すれば火はもとのように使えるようになる」


火の妖精が大きく頷く。

彼女に心からの感謝をすれば即座に火を戻すつもりなのだろう。


人間たちはざわざわと騒ぐ。

すぐには受け入れがたいのだろう。


だが顔つきの違う者もいる。

彼らはきっと大丈夫だろう。

いやもうすでに火が元通り使えるようになっているかもしれない。


できればそのまま周りにも波及させてもらいたいものだ。


火を使える人間が増えていけば説得力が増す。

そのまま負の連鎖と逆のことが起きればいいのだが。

そうすれば加速度的に火を使える者が増えるだろう。


人間は単純だ。

事態が好転するのが確信できれば、今までの思い込みを簡単に捨て去ることをしたりもする。

そうすれば火の妖精の愛し子をただ金色の虹彩の赤い瞳を持つというだけで罵る者も減るだろう。


今動揺して右往左往している者たちもその流れに乗れれば普通に火を扱えるようになるだろう。

問題は不満そうな顔をしている一部の者たちだろう。


「一つだけ忠告する。妖精の愛し子を侮辱するのは金輪際こんりんざいやめることだ。"金色の虹彩に赤い瞳は災いをもたらすーー"という迷信を信じることをやめることだ。そうでなければ、何度でも同じことが繰り返されるぞ」


先程よりもざわつきが大きい。

まさか気づいていないとは思わなかった。

そもそも今回のことだって火の妖精の愛し子を侮辱したことで起こったことだったはずだ。

それが伝わっていないことに溜め息を飲み込む。


忠告しておいて正解だった。

でなければ何度も繰り返され、そのたびにパーシファル・パーンは呼び出されただろう。


それこそ町が滅びるまで。


そんな事態はさすがに避けたい。

さらに見回す。

どうすればいいのかわからなくて途方に暮れた顔をしている者もいる。

わかっていても感情面でなかなか受け入れられないということだろう。


パーシファル・パーンは少し考える。

もう一押し必要だろうか。

パーシファル・パーンは火の妖精に視線を向ける。


「火の妖精、協力してやってくれ」

『協力?』


ぶすっとした声が返ってくる。


「そうだ。人間の前に姿を現して、使を教えてやってほしい」

『えー』

『どうしてそんなことしなくちゃいけないの?』

『あの子や私たちのことを悪く言うのに』


火の妖精たちは不満そうだ。


「だからだ。自分たちがどれだけの恩恵を受けているのかわからせてやってほしい」


パーシファル・パーンの言葉に渋々といった様子で火の妖精は次々に頷く。


『あんまり気が進まないけどいいよ』

『うん。これ以上あの子の悪口を言われないならば』

『本当はあの子の悪口を言うような人間とは口もききたくないんだけど、仕方ない』

「ありがとう。頼むな」


パーシファル・パーンの言葉に頷いた火の妖精だったが、すぐにきりっとした表情を見せる。

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