森の隠者と火の妖精に呪われた町5
村長が一人の肩に手を置く。
「この子たちは火が普通に使えるのです」
「そうなのか」
まさか普通に火が使える者がいるとは思わなかった。
ああ、だからこそ先程はきょとんとしていたのか。
自分たちが普通に火が使えるなら、大人たちが騒ぐ理由がわからなかったのだろう。
でもそうか。彼女に助けられたのなら恨む理由もない。感謝するのも当然か。
周りの大人たちの言葉には耳を貸さなかったのだろう。
もしかしたら、あの男たちが騒がなければ、普通に火を使える人間はもっと多かったかもしれないな。
どう考えても無駄に騒ぎ立てて憎しみを煽っていたようにしか思えなかった。
一度憎しみに火がついてしまえば、そう簡単には止まれない。
憎んで罵れば扱える火が小さくなり、それによってまた憎しみは深くなる。そしてそれによりますます扱える火が小さくなり……
連鎖はどこまでも続いていく。
どこかで自分たちで断ち切るしかない。
意を決したように一人の子供が口を開く。
「おねえちゃんもおにいちゃんもやさしかったよ」
「そうなんだな」
優しくパーシャル・パーンが頷くと他の子供たちも次々に口を開いた。
「あつくていたくてこわかったんだけど、たすけにきてくれた」
火の妖精が口々に言っていた"子供を助けた"というのはこのことか。
"おにいちゃん"というのがわからないが、彼女と一緒に子供たちを助けた者がいるのだろう。
口ぶりからすると彼女の連れかもしれない。
それにしても勇敢な女性のようだ。
いくら火の妖精の守護があるからと言っても燃え盛る炎の中に飛び込んでいくのには勇気がいっただろう。
それなのによくも罵れたものだ。
本当にこの町の人間は何をやっているのだろうか。
子供を助けてくれた恩人に対して、全ての火を取り上げられるのを防いでくれた恩人に対してあまりにも不当な扱いだ。
火の妖精たちが怒るのも無理はない。
全ての火を取り上げられなかったのを
そこまで考えてはっとする。
うっかりと妖精のほうに心を寄せすぎそうになったが
人間だけの味方ではいけない。
妖精だけの味方ではいけない。
双方に公平なことが調停する者の義務だ。
どちらかに心を寄せるのは許されない。
ふっと意識的に一つ呼吸をした。
調停はいよいよここからが本番だ。
「どうしたら人間に火を戻す?」
『簡単だよ。あの子に感謝すればいい』
『最初からちゃんとあの子に感謝していれば火は普通に使えたよ』
『僕たちが怒っているのは子供たちを助けたあの子に感謝もせずに侮辱したからだもの』
パーシファル・パーンは頷く。
「その彼女のことを知らない人間はどうすればいい?」
『同じことだよ』
『何であの子のことを知らない人間まで彼女のことを憎んで扱える火が小さくなったの?』
『僕たちはあの子のことを憎んだり罵ったりした人間から火を少しずつ取り上げているだけだよ』
つまり彼女のことを知らない人間にまで
もともとこの辺りの地域では"金色の虹彩に赤い瞳は災いをもたらすーー"という伝承が伝わっている。
扱える火が小さくなっている者が出ている。
どうやら災いをもたらす瞳を持つ人間が町を訪れたらしい。
今は火は普通に扱えているがいつ扱える火が小さくなるかわからない。
すべては災いをもたらす瞳を持つ人間が町を訪れたせい。
不安を
隣人が扱える火が小さくなれば次は自分かもしれない。
彼女さえ町に来なければこんなことにはならなかった。
と恨みが伝染していったのだろうのとは想像にかたくない。
だからこそ彼女を知らないはずの人間を含めた町全体に影響が出たのだ。
本来なら知ることなく影響を受けずに済んだ人間にまで。
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