森の隠者と火の妖精に呪われた町1

われて森の隠者パーシファル・パーンは森を抜けた。


そこは町まですぐそこの場所だった。

歩いて町に入る。


随分と活気のない町だった。

それに、気のせいか寒々しい。


すーっと風の妖精が寄ってくる。


『ふふ、この町の住民は火の妖精を怒らせたわ。自分たちの愛し子をののしられたら怒るのも当然よね』


風の妖精が楽しそうに告げて去っていく。


思わず溜め息をつく。

面倒な案件のようだ。

よりによって妖精の愛し子を罵るとは。火の妖精は相当怒っているに違いない。

役目だから仕方ないが気が重い。


活気のないのも寒々しいのも理由を聞けば納得できる。

火の妖精を怒らせたのならば、最悪町の住人から火を取り上げている。


とりあえず町の住民から話を聞かなければならないだろう。


案内するようにあちらこちらで妖精たちが手招いている。

小さな火の妖精がぴょんぴょんと跳ねながら話を聞いてほしそうにしているのを他の妖精が宥めていたりする光景も見えた。


妖精に導かれるまま向かった先にあったのは町長の家だった。

町長はパーシファル・パーンの姿を見るなりすがるように平伏した。


「森の隠者パーシファル・パーン! お願いです! 妖精から火を取り戻してください!」


火の使えない生活は相当堪こたえたのだろう。


だがわかっていない。

そもそも火は妖精からの借り物だ。

火だけではない。この世のあらゆるものがそうだ。

だからまた貸してもらえるよう願わなければならないものだ。


「……話を聞こう」

「で、では事情を知る者をすぐに集めますので、お待ちください!」

「広場かどこか広い場所はあるか? そこで話を聞く」

「わ、わかりました! ご案内します」


村長は人を集めるようにと指示を出してから自らパーシファル・パーンを案内する。


町の中心部に少しひらけた場所があり、何人かの人が集まっていた。今回の件の関係者なのだろう。中には子供もいた。


そして、妖精たちもまた集まっていた。


パーシファル・パーンは広場の中央で足を止め、周りを見回した。


「さて、話を聞こう」


そう言うと一人の男が前に出てきた。


「あいつのせいだ! 今こんなことになっているのはみんなあいつが悪い!」

男の言い草に火の妖精が発火しそうな怒りを見せた。


『誰のお陰でまだ火が使えると思っているのかしら?』

『もういっそのこと全部取り上げてしまう?』


パーシファル・パーンは溜め息を押し殺す。


「火の妖精、落ち着け。姿を現して、言いたいことがあれば伝えろ。そのままでは何も伝わらない」


パーシファル・パーンが促すと、火の妖精が人々に姿を見せた。

人々にどよめきと動揺が起きる。


まさか初めて見たわけではないだろうに。

……いや、その可能性もあるのか。


その火の妖精たちは怒っているのが明白な表情で町の住人たちを睥睨へいげいしている。

それに町の住人は明らかにひるんでいる。

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