火の妖精の愛し子と旅人の青年14

「そうかしら?」

「少なくとも一人は。グローリアさんに"ありがとう"って伝えてほしいと、助けた少年に頼まれました」

「そう」

『よかったな』


火の妖精がぐしゃりとグローリアの頭を撫でた。


「ええ」


グローリアは微笑わらった。

これで一人は普通に火が使える。

リトもにこにこと微笑わらっている。


「それで、これからどちらに?」

「どこに行こうかしら?」


いつだってただ道を歩いていた。

目的地などはない。

いつかはどこかの町に落ち着きたいとは思っているが、どこという希望はない。


「リトはどこか希望がある?」

「僕はいつも気の向くままに旅をしているので。特にどことは思いつきません」


どうしようかと二人で悩んでいると火の妖精が口を開いた。


『人間に嫌気が差したなら、妖精俺たちの故郷に行ってみるか?』

「「故郷」ですか?」


リトと声が重なる。


『ああ。サルフェイの森だ』

「「サルフェイの森……」」


またもや声が重なる。

リトと顔を見合わせる。考えていることは同じだった。

おずおずとグローリアは訊く。


「そこは、人が行っていい場所なの?」

『構わないだろう。グローリアは火の妖精俺たちの愛し子だし、リトはグローリアの連れで俺も気に入っているからな。それに、あそこにも一応人は住んでいるしな』


妖精の故郷に人が住んでいるとは驚きだ。

悪戯好き、気まぐれな妖精たちの中で普通に暮らせるものなのだろうか?


リトを見ると目を輝かせている。

きっと吟遊詩人としての血が騒ぐのだろう。

……もうこれで決まったようなものだ。

それは火の妖精もわかっているのだろう。


『それで、どうする?』


笑って訊かれる。

リトが期待に満ちた瞳を向けてくる。

グローリアは微笑わらった。

そして、告げる。

「行きましょう、サルフェイの森あなたたちの故郷へ。」



《終》

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