火の妖精の愛し子と旅人の青年13

火の妖精と連れだって歩いて行ってしまったグローリアは、きっと先程のやりとりでいっぱいいっぱいでリトのことをすっかり忘れているのだろう。

まだ一緒に行動して日が浅いので仕方がない。

もしかしたらこのままお別れするつもりなのかもしれないともちらりと考える。

すぐに追いかけなければ見失ってしまうかもしれない。


それなのに、だ。


リトは呼び止められて、内心の不機嫌さを出さないように気をつけて振り向いた。

吟遊詩人は愛想の良さも売りなのだ。


「あの、本当にありがとうございました」

「いえ」


何故グローリアには暴言を吐き、リトにはお礼を言うのだろう。

やったことは同じ。

積極的に助けに動いたのはグローリアのほうだ。

リトは彼女が助けに動かなければ見捨てるつもりだった。

だから、感謝の言葉を受けるのはリトではなくグローリアこそが相応ふさわしい。


「是非お礼をさせてください。大したことはできませんけれど、せめて今日は泊まっていってください」


そんなことをすればグローリアたちを見失ってしまう。

それにーー


「子供たちを助けた彼女のことは追い出したのに?」


リトはぞっとするほど冷たい視線を彼らに向けた。

彼らはびくっとする。


「それは……彼女は、その、あなたとは違いますから」


リトは冷笑を浮かべ冷ややかに言う。もう愛想笑いはいらないだろう。ここ町には二度と来ない。


「火の妖精に愛されているから?」

「ええ。火は彼女を傷つけることはないでしょう。ですが、あなたは違う。それでも子供たちを助けていただいて本当に感謝しているんです」


彼女の傍に火の妖精が現れた。

彼女と言葉を交わし、彼女をかばった。

さすがに火の妖精が彼女を守護していると、馬鹿でなければわかるだろう。


「彼女だって、あれだけ燃え盛る炎の中に飛び込むのは怖いでしょう。それでも彼女は躊躇ためらいもなく子供たちのためにその中に飛び込みました。その感謝は彼女にこそ捧げるものです。彼女が飛び込まなければ、僕もそんなことはしませんでした」


リトはそれだけ言うと、では、と小さく会釈えしゃくをしてグローリアを追いかけた。

彼らはそれ以上は追いすがってこなかった。


焦る気持ちで足早に進んでいると、


「お兄ちゃん、待って!」


子供の声が聞こえてリトは足を止めた。

ぱたぱたと軽い足音がリトに追いつき、その前に回り込んできた。

見ると、先ほど助けた子供たちの中の年長の少年だった。


「怪我は大丈夫?」

「うん、これくらい」

「火傷は甘く見ちゃ駄目だよ」

「うん」

「それで、何か用?」

「助けてくれてありがとう。お姉ちゃんにもありがとうって伝えて」


ちゃんとわかってくれる人はいた。

グローリアにも伝えてあげないと。

きっと喜ぶだろう。

リトは優しく微笑わらう。


「うん。必ず伝えるよ」


後ろで少年の名であろう、名前を呼ぶ声が聞こえた。


「それだけ。じゃあね!」


少年はあっという間に駆け去る。

急いで追いかけないと。

リトは足取りも軽く早足でグローリアを追いかけた。




***

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る