火の妖精の愛し子と旅人の青年12
街道をグローリアは真っ直ぐ前を向いて歩いている。
その
機嫌を直してなどとは言わない。
言えるわけがないし、言う必要もない。
"火"自体を悪だとされたのだ。火の妖精が怒り狂っていて当然だ。
「次の町はどんな町かしら?」
グローリアが呟いた時、後ろから走ってくる足音がした。
追いかけてきてまで文句を言う人間がいるのかとぎくりとしたグローリアの耳に聞こえてきたのはーー
「待ってください!」
リトのもので、グローリアは思わず立ち止まって振り向いた。
そういえば、リトのことはすっかり頭から抜け落ちていた。
すぐにリトが追いついてくる。
「もう、置いていかないでくださいよ」
「ご、ごめんなさい。すっかり忘れていたわ」
でも正直驚いている。
今までこんなふうに追いかけてきてくれる人なんていなかった。
執拗に
あそこでお別れでも全然おかしくはなかった。
「頭がいっぱいだったのでしょう。気にしてません」
だけどこれだけは言っておかなくてはならない。
「でも、わかったでしょう? 私と一緒にいたらさっきみたいに嫌な目に
「そんなふうに予防線を張らなくて大丈夫ですよ」
「え?」
「これからもよろしくお願いします」
「え、何で?」
思わず訊いてしまう。
だって嫌な思いをしたはずだ。
グローリアたちと一緒にいたくないと思っても不思議ではない。
こんなことが続くのは御免だと嫌がられてもおかしくないのだ。
リトは頬を
「グローリアさんと一緒に行きたいから、ですかね。ご迷惑ですか?」
ずるいと思う。
そんな風に言われたら言える言葉は一つだけだ。
「いいえ。あなたがよければ私は構わないわ」
「ありがとうございます」
『本当に見る目があるな』
火の妖精が笑う。
「あの町の住人に見る目がなかったのでしょう」
『まあそうだな』
火の妖精がにやりと笑う。
『あの町の人間どもがグローリアに感謝すれば火も元通り使えるようになるが、さてどうかな』
グローリアはぎょっとする。
「もしかして、まだ何か仕掛けてきたの?」
『
「その言い方、絶対大したことしたでしょう! 何したの!?」
『なに、お前への恨みが募れば募るほど扱える火が小さくなるだけだ。町を移ってもあの町の人間という事実は変わらないからな。そのまま適用される。な、大したことじゃないだろう?』
「またさらに恨みを買うじゃない!」
グローリアが怒鳴っても火の妖精は
「それは素晴らしいですね」
リトまでも火の妖精に同意する。
「素晴らしくなんてないわよ」
『まああの連中がお前への感謝の気持ちを持てば普通に火が扱えるようになる』
また火を普通に扱える日が来るかもしれないのはよいことだが、そんな日が訪れるのかは疑問だ。
隣でリトが穏やかに
「きっと貴女に助けられた子供たちは貴女に感謝していると思いますよ」
***
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます