火の妖精の愛し子と旅人の青年12

街道をグローリアは真っ直ぐ前を向いて歩いている。

そのかたわらにはまだ不機嫌そうな火の妖精がいる。

機嫌を直してなどとは言わない。

言えるわけがないし、言う必要もない。


"火"自体を悪だとされたのだ。火の妖精が怒り狂っていて当然だ。


「次の町はどんな町かしら?」


グローリアが呟いた時、後ろから走ってくる足音がした。

追いかけてきてまで文句を言う人間がいるのかとぎくりとしたグローリアの耳に聞こえてきたのはーー


「待ってください!」


リトのもので、グローリアは思わず立ち止まって振り向いた。

そういえば、リトのことはすっかり頭から抜け落ちていた。

すぐにリトが追いついてくる。


「もう、置いていかないでくださいよ」

「ご、ごめんなさい。すっかり忘れていたわ」


でも正直驚いている。

今までこんなふうに追いかけてきてくれる人なんていなかった。

執拗になじりに来た連中はいたが、リトは違うとその眼差しでわかる。


あそこでお別れでも全然おかしくはなかった。


「頭がいっぱいだったのでしょう。気にしてません」


微笑わらって言ってくれたのでほっとする。

だけどこれだけは言っておかなくてはならない。


「でも、わかったでしょう? 私と一緒にいたらさっきみたいに嫌な目にうわよ?」

「そんなふうに予防線を張らなくて大丈夫ですよ」

「え?」

「これからもよろしくお願いします」

「え、何で?」


思わず訊いてしまう。

だって嫌な思いをしたはずだ。

グローリアたちと一緒にいたくないと思っても不思議ではない。

こんなことが続くのは御免だと嫌がられてもおかしくないのだ。

リトは頬をいて微笑わらう。


「グローリアさんと一緒に行きたいから、ですかね。ご迷惑ですか?」


ずるいと思う。

そんな風に言われたら言える言葉は一つだけだ。


「いいえ。あなたがよければ私は構わないわ」

「ありがとうございます」

『本当に見る目があるな』


火の妖精が笑う。


「あの町の住人に見る目がなかったのでしょう」

『まあそうだな』


火の妖精がにやりと笑う。


『あの町の人間どもがグローリアに感謝すれば火も元通り使えるようになるが、さてどうかな』


グローリアはぎょっとする。


「もしかして、まだ何か仕掛けてきたの?」

たいしたことじゃない』

「その言い方、絶対大したことしたでしょう! 何したの!?」

『なに、お前への恨みが募れば募るほど扱える火が小さくなるだけだ。町を移ってもあの町の人間という事実は変わらないからな。そのまま適用される。な、大したことじゃないだろう?』

「またさらに恨みを買うじゃない!」


グローリアが怒鳴っても火の妖精は飄々ひょうひょうとした態度を崩さない。


「それは素晴らしいですね」


リトまでも火の妖精に同意する。


「素晴らしくなんてないわよ」

『まああの連中がお前への感謝の気持ちを持てば普通に火が扱えるようになる』


また火を普通に扱える日が来るかもしれないのはよいことだが、そんな日が訪れるのかは疑問だ。

隣でリトが穏やかに微笑わらう。


「きっと貴女に助けられた子供たちは貴女に感謝していると思いますよ」




***

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