火の妖精の愛し子と旅人の青年11

外に出て安全な場所まで離れると、子供たちの親や近所の人たち、そして建物の持ち主の男がやってきた。

親たちは子供たちを奪い返すかのような勢いで連れていく。

いや、まさにその通りだったのだろう。

子供たちはその剣幕にこそおびえていた。


「やっぱり金色の虹彩に赤いの人間は災いをもたらすんだな!」


吐き捨てるように言われた。

すーっと胸が冷えた。

いい加減うんざりする。


彼女が口を開く前に、隣にいたいつもグローリアの傍にいる火の妖精がすっと姿を現した。


『お前たちは愚かだな。自分たちは子供らを見捨てたくせに、子供らを助けた彼女のことをなじる。礼を言われるならともかく、詰られる理由など彼女にはないだろうが』


姿を現した火の妖精にどよめき、言われた辛辣な言葉にぐっと息を詰める。


事実だ。


グローリアとリト以外は誰も子供たちを助けに動かなかった。

あれだけの炎が上がっていれば無理もないかもしれないが。


「だが、彼女さえいなければ!」

『こんなことは起こらなかったとでも? 愚かな。そんなだから、恨みの矛先を向けられる相手がたまたま町に現れたからと、店に放火されるのだ』


火の妖精がすいっと視線を向けた男は蒼白になり、


「俺は知らねぇぞ!」


言い捨て逃げていく。

それを何人かの住人が追いかけていった。


「疫病神め」


吐き捨てるように言われた言葉に、胸が冷えるより先に隣の気配が剣呑けんのんとしたことにひやりとする。


『そうか、お前は、いやお前たちは火の妖精俺たちが司るものが災いだと言うのか』


火の妖精ながら、その声は凍えるようなものであった。

誰もが息を呑み、何も言えずに動向をうかがっている中、グローリアはとっさに声を上げた。


「待って!」

『止めるな。その者たちは火の妖精俺たちが司るものを災いと言ったのだ。俺たちをいらぬものだと!』

「それでも、それでも人間には火が必要なのよ」

『お前は優しすぎる! 不当に非難されたのはお前もなんだぞ!』

「それはそうだけど。でも幼い子供たちもいるもの。火のない生活はそういう弱い者からむしばんでいくわ」

『……お前にめんじよう。だが、許すわけではない。小さな火は扱えるようにはしよう』

「ありがとう。あなたたちは優しいわね」

『優しいのはお前だ。もうこの町には用はないだろう?』

「ええ。行きましょう」


グローリアはきびすを返した。

その背に声をかける者は、誰もいなかった。




***

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