火の妖精の愛し子と旅人の青年10

『……わかった。お前は俺が絶対に守ってやる』

「もちろん。信じているわ」


それを疑ったことは一度もない。


「僕も一緒に行きますよ」


リトがそう申し出てくれる。


「えっ、危ないわよ!」

『わかった。お前も極力守ってやる』

「ありがとうございます!」

「待って!」

「時間がありません」

『そうだな。言い合っている間にどんどん燃えるぞ』

「わかったわよ! でも必ずリトも守ってよ!」

『グローリアが優先だな』

「グローリアさんが優先で」


火の妖精とリトの言葉が重なる。


「ええっ!?」

『ほら、助けたいなら急いだほうがいいぞ。俺はどっちでもいいんだからな』

「い、行くわ。だから、リトは守ってね」

『お前の次にな』


押し問答している暇はない。いざとなればグローリアがリトを守ればいいのだ。


「行きましょう」


グローリアは駆け出し、躊躇ためらいもなく燃え盛る建物の中に飛び込んだ。

火の妖精を信じているから躊躇いもなく飛び込むことができた。火は決してグローリアを傷つけない。

間髪入れずリトが続く。


「子供たちはどこ?」

『上だな。案内してやる』


火の妖精が先頭に立ち、グローリアが続いて最後がリトだ。

熱さは感じない。火の妖精が守ってくれているからだ。


煙で視界が悪い中、「あそこだ」と火の妖精が告げるほうを見るとぼんやりとだが人影が見えた。

子供たちは一ヶ所に集まっていた。


小さな火の妖精が子供たちの周りをふわふわ飛んでいる。

一瞬ひやっとしたが、どうやら子供たちを守ってくれているようだ。


妖精は気紛れなのでこういうふうに、建物を燃やす火に嬉々ききとして力を注ぐ一方で子供を守るという一見矛盾した行動を取ったりする。

だからこそ、子供たちは助かったのだ。

そうでなければ、重傷を負っているか、下手をすれば命がなかった。

その気紛れもいつまでかはわからない。

それに、建物が崩れてしまえば命の保証はない。


グローリアとリトは子供たちに駆け寄った。

子供たちは恐怖と絶望をぜにしたような表情で燃え盛る炎を見ていた。


「もう大丈夫よ。助けにきたわ」


声をかけると子供たちが抱きついてくる。


「大丈夫だからね。私たちから離れないでついてきて」


グローリアとリトは小さい子供を一人ずつ抱き上げて残った子供たちに声をかける。

子供たちが頷いたのを確認して来た道を引き返す。


また火の妖精が前に立って案内してくれる。

小さな火の妖精たちもグローリアたちの周りを飛び回って火や煙から守ってくれていた。

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