火の妖精の愛し子と旅人の青年9

店を出てふと空を見上げたリトが言った。


「どこかで火事でしょうか?」


リトの言葉に空を見上げた。

黒い煙が立ち上っている。

火の妖精はちらりとそちらを見たがすぐに興味が失せたようだった。


『もうこの町に用はないな? さっさと出るぞ』


その態度が逆に疑念をしょうじさせる。


「行ってみましょう」


それに火の妖精は嫌そうに顔をしかめた。


「グローリアさん、本当に行くんですか?」

「ええ。火の妖精が行かせたくないというのなら、何かあるはずだもの」

『別に何もないぞ。燃えているのがさっきの食堂だってだけだ』

「そうなんですね。では、町を出ましょうか」

「えっ?」

『何を驚いている? 俺たちには関係ないことだろう?』

「ええ、関係ありません」

「でも……」


気になる。

行ってグローリアにできることは何もないが、妙な胸騒ぎがする。


『行かないほうがいい。犯人にされるぞ?』

「ええ、そうです。先程の様子では自分たちの過失だろうといちゃもんをつけられそうです。行かないほうがいいです」


二人がかりで説得されるが、首を横に振る。

行かないと後悔しそうな気がする。


「行ったほうがいい気がするわ」

『やめとけ』

「やめといたほうがいいです」


間髪入れずに二人が反対する。

ここで言い合っていても平行線を辿るだけだ。

グローリアはぱっと身を翻して駆け出した。


『あっ、待て!』


火の妖精の声が追ってくるが止まるつもりはない。

先程の食堂の近くまで戻ると、人が遠巻きにして見ていた。

食堂は二階まで火の手が見えている。

遠巻きにしている人の内側に先程店で見た従業員たちがいるのが見えた。

それにとりあえずほっとする。

火の妖精は何かが気になるのかじっと燃える建物を見ている。


「どうしたの?」


火の妖精はグローリアを見ることなく告げる。


『ちびどもが舞台を与えられて楽しんでいるな』

「えっ!? これ火の妖精のせいなの!?」

『違う放火だ。もとは人間が放った炎だな。だが、それでちびどもが遊んでいる』

「えっ!? それであんなに火が燃えているの!?」

『もともと燃えやすいものに火をつけたようだな。それよりグローリア、中に人間の子供がいるぞ?』

「えっ!?」


燃え盛る建物を凝視してしまう。

燃え盛る建物を見ているこの町の人間は誰も子供たちを助けようとはしていない。ただ呆然と、あるいは心配そうに燃え盛る建物を見ているだけだ。子供が中にいることを知っているのか、それとも知らないのかはわからない。


「あの中に!? 大変! 助けないと!」

『本当に助けるのか?』

「えっ、どういうこと? 犯罪者なの?」

それくらいしかグローリアには火の妖精が止める理由が思いつかない。


『中の子供は先程お前を愚弄ぐろうしたり嫌悪の目で見てきた者たちの子供だぞ? それでも助けるのか? 下手したら変な言いがかりをつけられるぞ?』

「関係ないわ」


きっぱり言うと、火の妖精はどこか痛みをこらえるような表情になった。

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