火の妖精の愛し子と旅人の青年4

だがーー。




町を出てすぐに後ろから足音が聞こえてきた。

その音が慌ただしかったので振り返ってみると先程別れた青年が駆けてきていた。

どうしたのだろう? と首をかしげて立ち止まる。


自分に用事があるのだろうかーーというのは自意識過剰か。

何か急ぐ用事でもあるのだろう。

それならば道を譲ったほうがいいだろう。

グローリアが彼が前を通りすぎるのを待っていると、彼はグローリアの前で立ち止まった。

グローリアはきょとんとして彼を見る。


「追いつけてよかった」


ほっと安堵している様子にますます意味がわからない。


「まだ何か用ですか?」


首を傾げて訊く。

青年に告げられた言葉は予期していないものだった。


「お一人では危ないですよ」


グローリアが気遣われてグローリアを邪険にされて不機嫌だった火の妖精の機嫌が急上昇する。

だがグローリアはそれよりも気になることがあった。


「一人?」


きょとんとしてグローリアは思わず火の妖精を見上げる。

火の妖精が呆れたようにグローリアを見る。


『俺は見えてないからな』


言われてあっと思った。

常に見えておしゃべりできていたから普通は人には見えない存在だとすっかり失念していた。


そろりと青年に視線を戻すと怪訝な顔をしている。

変な人間だと思われたのだろう。

せっかく心配してくれたのに……。


『はははっ』


声を上げて火の妖精が笑い、くしゃりとグローリアの頭を撫でた。

そしてーー

すっと火の妖精が姿を現す。

青年は驚いた様子だったが、すぐに安心したように微笑んだ。


「女性の一人旅は危ないと思ってましたけど、妖精とご一緒でしたら安心ですね」


そんなことを言われたのも初めてだ。

彼は今まで出会った人たちとは違う人種のようだ。


グローリアといつも一緒にいる火の妖精は滅多に人前に姿を見せない。

姿を見せたとしても不機嫌に威嚇いかくしていた。

こんなふうに笑って人前に姿を現すなど滅多にあることではない。

それだけこの青年のことが気に入ったのだろう。


それはいいことだと思えた。

できれば火の妖精に人間を嫌いにならないでほしかった。

好きでなくても構わないから嫌いにならないでほしい。

瞳のことでグローリアが邪険にされることも多いから、あまり人間にいい感情は持っていないのだと思う。

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