火の妖精の愛し子と旅人の青年3

『さっきの男との再会が楽しみだな』

「えっ、もう会わないでしょう」

『さあ? それはどうかな?』

「え? 何かやったの?」

『別に何もしてない。ただ、向かう方向が同じだったからな。どこかで会うんじゃないか?』


グローリアは青年が去っていったほうを見た。

確かに向かう先は同じ方角だ。

ここは一本道だし、引き返すつもりはない。

とはいえ、向こうが先を歩いているし、グローリアは薬草を採取しながら歩いている。彼が向かう先で定住でもしていない限り会うことはないだろう。


「それはないでしょう」


火の妖精は肩をすくめた。


『まあ、進めばわかる』


その言葉を本気にはしていなかった。




のだがーー




くだんの青年との再会は思ったよりも早くやってきた。


あれからわずか三日後だ。

街道の先にあった次の街でのことだ。


「あっ」

「あら」


気づいたのはほぼ同時だった。

先日、グローリアの瞳を褒めてくれた青年とまさかの再会だ。

火の妖精の言った通りになった。


「先日は申し訳ありませんでした」


青年が深々と頭を下げる。


「あっ、いえ。こちらもびっくりして変なことを言ってしまいました。ごめんなさい」


丁寧な謝罪に動揺し、慌てて謝る。


「あ、いえ。正しい反応だと思いますよ」


笑って言ってくれてほっとする。少し落ち着いた。


「気にしてないので気にしないでください」

「そう言っていただけると有り難いです。自分でも初対面であれはどうかと思いましたので」


恥ずかしそうに青年が言う。


「あ、いつもはあんなことはしませんよ。でも、あまりにも綺麗で気づいたら声に出してしまい……っとすいません」


つまりは、本心からということで……。


頬が熱を持つのがわかった。

思わず手で頬を押さえる。

視界の端で火の妖精が愉快そうに笑んでいるのが見えた。

グローリアの様子を見た青年の頬にも朱が上る。


「ええと、ありがとうございます」

「いえ。あの、本心ですので」


よ、余計に頬に熱が集まる。

思わずうつむく。


「また余計なことを言ってしまいましたね。すいません」

「いえ、嬉しかったので……ありがとうございます」

「それなら、よかったです……」


照れてお互いにうつむく。

うう、初めての経験にどうすればいいのかわからない。

火の妖精がにやにや笑いながら見ていて居たたまれない。

こういう場合は逃げるに限る。


「それではこれで」


ぺこりと頭を下げて町の外れへと向かう道へ。

火の妖精が言うには、この道は次の町に続いている街道に繋がる道なのだとか。


そのまま街道を辿る。


元々町を出るつもりだったのだ。

先程道々摘んできた薬草を売りに行って、瞳のことで嫌な目に遭ってきたのだ。そんな町は早めに出るに限る。

これで一時的に繋がった青年との縁も切れるはずーーだった。

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