火の妖精の愛し子と旅人の青年2

その出会いは唐突だった。


「綺麗なですね」


そんなこと、言われたことはなかった。


「……ナンパならお断りよ」


とっさに出たのはそんな言葉だった。


「あっ、いえ、そんなつもりはっ! すいません。あまりにも綺麗な瞳だったので思わず」


青年は慌てている。どうやらナンパではないようだ。そして、ーー本心のようだった。

そうと気づき、ますます動揺する。


初めての経験だ。

しかも、こんなところでだ。


場所は街と街を繋ぐ街道。辺りには草原が広がり、グローリアは薬草を収穫していた。

どう反応していいかわからない。


「申し訳ありませんでした」


ぱっと頭を下げ、青年は逃げるように去っていった。

グローリアは呆気に取られる。


「何だったのかしら?」

『なかなか見る目のある男だったな』


隣で火の妖精が機嫌がよさそうに言う。

彼はずっと、それこそ生まれた時からずっと一緒にいる。

彼曰く、勝ち抜いてその権利を得たのだそうだ。

だから、彼はこんな経験が初めてなのはよく知っている。


「そう、かしら?」

『お前の目を褒めるなんてなかなか見所がある』


火の妖精は上機嫌だ。

火の妖精にとってグローリアのような金色の虹彩に赤い瞳というのは特別なのだ。それを褒められ、上機嫌になるなと言うほうが無理だ。


火の妖精あなたたちはこのが好きだものね」


火の妖精がおやおやという顔になる。


『そりゃあその火の妖精俺たちにとっては特別だ。だがな、だから一緒にいるわけじゃない。お前が好きだから一緒にいるんだ。そんなお前が褒められたんだ、嬉しくないはずがない。いつもけなされるが褒められたんだ、尚更なおさら嬉しいに決まっている』


グローリアは目をまたたいた。


『なんだ、俺が一緒にいるのはそのを持っているからだと思っていたのか?』


実はちょっと思っていた。

グローリアのは特別だと彼が言ったから。

それならそれでいいとは思っていたのだけど。

だけど、グローリア自身を好いてくれているから一緒にいてくれるのだとしたら、嬉しい。

自然と笑みがこぼれた。


「ありがとう」


火の妖精の唇の端も持ち上がる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る