森の隠者と妖精の愛し子9

「彼女のことなら心配いらない。彼女は妖精の愛し子だ。妖精たちに愛され、大事にされる」


ザイールは呆然とする。


「リーシアが、妖精の、愛し子……」

「不思議に思ったことはないのか? 彼女が好んで森で仕事をしていたことを。彼女の作るものが森で仕事をした時のほうが質が良かったことを」

「あれは、俺への反発じゃなかったのか……」


ずっと、ザイールへの反発で森で仕事をしていたのだと思っていた。

だからずっと不愉快だった。

森で作るものが質が良くて止められないことで余計苛立った。


だが違った。

いや、きっとそれも一つの理由ではあったのだろう。

村での居場所がないと感じていたのなら、村で他のみんなと仕事をするより、仲の良い妖精たちとおしゃべりでもしながら仕事をするほうがずっといいと考えたのだろう。

妖精たちがリーシアに構うのなら、あれだけ質がよかったのも頷ける。

リーシアが機嫌よく仕事をしたのなら、さらに良いものができるだろう。


何もかもがもう遅い。

今さら知ったところでリーシアは戻らない。

自分の愚かさと失ったものの大きさに立っていられない。

がくりと膝をついたザイールに容赦なくパーシファル・パーンは告げた。


「約定はたがえられることはない。お前の花嫁は彼女である必要はない。幸いにも彼女には妹がいる。お前の花嫁は妹で事足りるだろう」


確かにリーシアには妹がいる。

昔からの取り決めではリーシアの家の者であればいいのだ。

それでもリーシアがいいと願うのは、ただザイールの我が儘なのだろう。


それでもーー

それでも心はリーシアを求めてしまう。

もう二度と、その手を掴むことはできないとわかっていても。




パーシファル・パーンは身を翻した。

もうザイールには用はないとばかりに。

実際もう用はないのだろう。

妖精と人間の橋渡しをする彼も、連れ去られた本人が戻るのを望まなければ、何もしない。

ただそのことを伝えるためだけに、彼はここを訪れたのだろう。

リーシアを取り戻すすべはない。


ザイールは愛する者を未来永劫失ったのだ。




***

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