森の隠者と妖精の愛し子2

『可愛い、リー……、どうしたの?』

『愛しいリー……、またいじめられたの?』


森の奥深くにある花畑にリーシアは来ていた。

優しく声をかけてくれたのは、見惚れるほどに美しい、背中に透明で薄い羽のあるーー妖精たちだ。


妖精たちは気まぐれに姿を見せ、妖精たちが姿を見せたいと思わなければ決して見ることはできない。

そう言われており、確かにそれは事実なのだとか。


だけどーー。


リーシアにはその姿が見え、言葉が聞こえ、その身に触れることも、言葉を交わすこともできた。

幼い頃からリーシアにとってはそれが普通だった。

それが他の人にとって普通ではなかったことを知った時の衝撃はなかなか凄かった。


だがリーシアが育ったのは妖精と縁深いと言われている村だ。

妖精がリーシアの前にだけ姿を見せているということもあるのだろうとあまり気にされはしなかった。

ましてや妖精と縁深いと言われているうちの三家の一つがリーシアの家だ。

やはり妖精と縁が深いのだろうとされるだけだった。


どうして自分には妖精の姿や声が認識できて、他の人には妖精の気まぐれが必要なのだろうとリーシアは不思議だった。

そんな彼女にリーシアの瞳は特別だと教えてくれた人がいた。

リーシアの髪は村では珍しくもない淡い金色の髪だが、瞳は金色の虹彩の若草色の瞳なのだ。金色の虹彩を持つ者は村には誰もいない。


金色の虹彩を持つ者は妖精の姿が見えるという。


だが妖精と縁深い三家から嫁取りをする村長の家に生まれたザイールは、リーシアのその特殊な瞳が気に入らないようだ。

いちいち彼に言われたことを覚えていないほど彼には心ない言葉を投げかけられた。

随分と心は傷つけられ、もうザイールに対して心が動くことはない。


彼を愛することも、彼に愛されることも未来永劫あり得ない。


よく妖精たちの前で泣いて愚痴っていたから、今でもみんな真っ先に苛められていないかと心配してくれる。


「ありがとう。大丈夫よ。ちょっと絡まれただけだから」


言って微笑む。妖精たちの前では自然に微笑わらえる。

ザイールとの仲の悪さは周囲にも知れ渡っており、村でのリーシアは腫れ物扱い状態だ。中にはもう少し歩み寄る努力をしたらどうかと言ってくる者もいる。

そんな中でリーシアはもううまくは微笑わらえない。


「そもそも文句を言われる筋合いはないわ。森の中ここで織ったほうが質がいいものができるのだもの」

『ふふふ、それはそうでしょうね』

『私たちがいるもの』


周りの妖精たちが微笑わらって同意してくれる。

だからザイールが何と言おうと従う所以ゆえんはない。

生活のため、品質は大事だ。

これはさすがに村人たちはリーシアの側に回るだろう。

だから、これからもずっと森に通うのだ。

そして妖精たちと一緒に楽しくおしゃべりしたりーー

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