森の隠者と妖精の愛し子1


「また森に行くのか?」


不機嫌な声に呼び止められてリーシアは無表情にそちらに視線を向ける。

村長の息子であるザイールが冷ややかな表情で立っていた。


「ええ。どこでやっても構わないでしょう」


リーシアの腕に提げた籠の中にはきちんと仕事道具が入っている。

ザイールは忌々しげに舌打ちをする。


「結婚したらそんなことは許さないからな」


心がすっと冷える。

彼とは生まれた時からの許嫁だ。

お互いに不本意なことに。


ここは森のごく浅いところにある村だ。

そして、森の奥深くには妖精の国があると言われている。

そんな妖精と縁深くあると言われている家が三家あり、そのうちの一つがリーシアの家だ。

その三家から順番に村長の家に嫁ぐことが昔から決まっている。

そして、運悪く、としかお互いに言いようがないが、今回はリーシアの家の番であり、二歳差で釣り合いもよかろうとリーシアがザイールのもとに嫁ぐことが生まれて間もなく決まったのだ。

しかし、ザイールは相手がリーシアであることが嫌で嫌で堪らない様子を隠すことはしなかった。


彼との記憶の中でよかったものなんて一つもない。たった一つもないのだ。


そんな彼のもとに嫁がなければならないなんて憂鬱で仕方ない。


「あなたに許可をもらう必要なんてないわ」


冷たく言い捨てる。

そしてこれ以上の会話はごめんなので歩き出す。


「おい!」


呼び止めるように声が上がったが無視する。

どうせ森の中までは追ってこない。



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