第15話 募る焦燥
ステファニーは妊娠が確定してからは、身寄りのない母子が住む修道院付属の母子寮に移り、軽作業や家事をしながら生活していたが、鬱々として気分が晴れなかった。
同じ母子寮に住む母親達は、母子寮の他に孤児院の家事や子供達の保育を担当していた。彼女達はステファニーの個人的事情について噂を聞いていたのか、遠巻きにしていてステファニーとは打ち解けず、日中共に過ごすアポロニア以外、話し相手がいないこともステファニーの孤独を募らせた。
ある日、ステファニーはアポロニアと洗濯物を干していた。もう少しで干し終わるところでアポロニアが院長に呼ばれたので、急いで洗濯物を干して修道院の中庭まで一緒に来た。ステファニーが精神的に不安定なので、日中アポロニアがなるべく一緒にいることになっているからだ。だがステファニーは中庭で待っていると言い張り、アポロニアは渋々ステファニーを中庭に残して院長室に向かった。その後、修道女達が通りすがりに話していることがステファニーに聞こえてしまった。
「いい気なものよね。やっと仕事できるようになったら、もう仕事免除でこんな所で油売ってるんだから」
「それも、実は淫売の因果で妊娠しちゃったからっていう噂もあるわよ」
「うわー、いやねぇ!」
前だったら聞き流していた陰口だが、今は胸にグサグサと刺さった。
(ああ、こんな子いらないのに!汚らわしい男達の誰かの子!)
修道女達が去った後、ステファニーは中庭の池の中に歩みを進めていた。水深はステファニーの脚の付け根より低かったが、池の中で座って上半身まで水の中に浸かった。
「シスターアグネス!何してるの?!」
ステファニーを池の中に見つけた誰かが慌てて助けを呼んできた。ずぶ濡れになって池から引き揚げられた時には、ステファニーは気を失っていた。目が覚めて『赤ちゃんは大丈夫だったから安心して』と何も知らない修道女に言われてステファニーは心底がっかりした。それからステファニーは階段から転げ落ちてみたり、腐りかけの物を食べて食中毒になったりしたが、それでも流産しなかった。
あまりにステファニーが精神的に不安定で、修道院はステファニーの部屋にアポロニアともう1人の修道女を交代で寝起きを一緒にさせてステファニーを監視した。それでもステファニーはまだ色々自傷行為をしようとして修道院はほとほと困ってしまった。アポロニアはもう少し頑張ろうと思っていたが、もう1人の修道女は精神的肉体的に限界が来て、止めるアポロニアを押し切って院長のところへ直談判に行った。
「院長先生、もう限界です!いくら修道院の仕事を免除していただいてももう嫌です!数秒でも目を離したら何が起きるかわからないから、気が休まりません!」
「・・・そうですよね。シスターアポロニアはもう少し頑張ると言っていましたが、頑張り過ぎはよくありませんね」
アポロニアは母子寮の職員にステファニーを託してもう1人の修道女を追って院長先生のところに急いで来た。
「先生、私はもう少し頑張れます!」
「でも、シスターアポロニア、彼女はもう限界です。貴女だけで24時間休みなしではシスターアグネスを見れないでしょう?別のシスターに交代するなら、シスターアグネスの事情も知らないと納得してもらえないでしょう。でもあまり個人の事情を広めたくはありません。それにシスターアグネスだけに人員を割けられませんし、この特別扱いは他のシスターや職員達にも動揺を与えています」
「それではシスターアグネスはどこで出産まで保護されるのですか?箱入りお嬢様だった方が妊婦独りで市井で暮らせるわけがありません!」
「ご実家に保護を要請します」
「でもその実家が彼女をここに送ってきたのですよね?」
「そこは私がなんとか交渉してみせます。これ以上、口出しは無用です。早くシスターアグネスのところへ戻ってください。彼女はまさか今、独りではないですよね?」
「いえ、母子寮の職員に見てもらっています」
「早くシスターアグネスのところへ行ってください」
アポロニアは納得いっていなかったが、院長室から半ば追い出されるようにしてステファニーの元へ向かった。
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