第5話 婚約解消
エドワードとリチャードは、国王ウィリアムの私室へと急いだ。もう夜も更けつつあるが、国王はまだおそらく起きているだろう。
「父上、こんな時間に申し訳ありません。緊急のお話があります」
ウィリアムはステファニー誘拐事件の一報を受けたからなのか、遅い時間にもかかわらずまだ起きていてシンプルなシャツにトラウザーのくつろいだ服装をしていた。
「待っていたよ」
「ご存知だったのですね。人払いをしますか?」
「ああ。でもリチャードには残ってもらおう――結論から言うよ。エドワード、お前とステファニー嬢の婚約は解消されることになった」
「同意できません!どうしてですか?!」
「お前の同意は必要ない。これは王室とエスタス公爵家の契約だ。彼女は誘拐された。仮に純潔が奪われていなくても、純潔でないと疑われる状況だ」
「まだ誘拐と決まったわけではありません。仮にそうだとしても医師の診察を受けて純潔が証明されれば、婚約はこのままでいいではないですか!」
「ステファニー嬢が王宮からの帰りに自発的に姿を消す理由はなかろう?いくら診察で純潔だったと分かったとしても、彼女がさらわれたと世間に知られると、もう純潔ではないと思われるのだ。そうなったら教会が黙っていない」
「内密にしておけば彼女が姿を消したことは公にならないですよね?」
「内密にするには、捜索に割いている人員が多すぎる。夜勤の近衛騎士の半数に非番の近衛騎士も駆り出されている」
「だったら、影だけで捜索すればよかったのに!」
「影だけでは捜索の人手が足りない。彼女を一刻も早く救出するには、そうするしかなかった。命あっての物種だ。婚約問題よりも彼女の命のほうが優先だろう?」
「もちろんそうです。でも彼女との未来も諦められません!」
「悪いが諦めてもらうことになる。お前は次世代唯一の王位継承権保有者だ。私の高齢の叔父上、従妹とその息子、遠縁の高位貴族は王家の血を引いているが、現時点では王位継承権を持つのは叔父上のみだ。だからお前が継承権を放棄するとなると、国が乱れる」
「・・・わかりました。でもその代わり、当分、新しい婚約は勘弁して下さい」
苦渋の表情でエドワードは婚約解消に同意した。
「いや、そういう訳にはいかない。お前ももう20歳だ。私はお前の歳にはもう結婚していたぞ。お前はビビアン・ヒエームス公爵令嬢と婚約することになる」
「彼女だけは嫌です!彼女はずっとステフィーの悪口をまき散らしていました。父上だってご存知ではありませんか!」
ビビアンとの婚約は、有力貴族とのパワーバランスを考慮した上で現時点では最良とウィリアムは考えていた。だがエドワードは、ビビアンもしくは彼女の父が今回のステファニーの行方不明に関与している恐れがあるから、犯人が捕まるまでは新しい婚約は結ばないと強硬に主張した。喧々諤々の議論後、結局ウィリアムもエドワードの希望を渋々受け入れた。
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