第38話 創造神ウェンディー
僕は今日、王都から少し離れたところにある教会に来ている。
この教会は今日から使用が開始される新しい教会だ。
その完成記念式典に今日は参加するのだ。
アインガルド王国で主に信仰されているのはウェンディー教というもので、名前の通り創造神ウェンディーを崇め奉っている。
この世界ではいくつもの宗教が存在していて、それぞれに信仰している神様がいるわけだが、このウェンディー教はガチだ。
これを口に出せば多方面から叩かれるかもしれないが、基本宗教上の神様は架空の物だと認識している。
だが、創造神ウェンディーは存在している。
……存在しているからこそ面倒くさいのだ。
「あぁ~、嫌だ~。今から帰っても良いかなぁ……」
「ダメに決まってますよ。おとなしく出席してください」
「本当にやだ。絶対出てくるもん」
「はぁ……。陛下は神の寵愛を受けていますからね」
そう。僕はその創造主ウェンディーから謎に愛されている。
愛されているせいで、教会に近づくと意識をアイツに持って行かれるのだ。
だから僕は王宮の中にある教会にはできるだけ近づかないようにしている。
「……で、今教会にいるわけだけどね? 今出てきてないって言うのがもういやな気配。絶対めんどくさい」
「そうですか。私はそこら辺はよく分かりませんので、まあ頑張ってください」
「ああ、ありがとうフィレノア」
そう言ってフィレノアは落ち着くハーブティーを出してくれた。
……あの神がフィレノアくらい落ち着いてくれていればいいんだがな。
「さあ、行きますよ陛下」
「……」
「陛下! ほら動いてください!」
ソファーの上であぐらをかき、両手で背もたれを掴む。
絶対に動かない。
「はぁ……。陛下もわがままですね」
そういうと、フィレノアはゆっくりとこっちに近づいてきて、下からすくい上げるような形で僕を抱っこした。
藻掻いても藻掻いても抜け出せない。
ここぞとばかりに身体強化を掛けているようだ。
「ちょ、わ、わかったから! はずかしいからやめて!」
「はいはい。最終的に動くなら最初から動いてください」
「は? 何でそんなにダルそうにしてるの?」
「お主が全然教会に来てくれなかったからじゃ!」
礼拝堂に入り、式が始まった途端に僕の意識は神に引っ張られ、気がつけばいつものよく分からない真っ白な空間に飛ばされていた。
久しぶりに会った創造神ウェンディーは、地面にぐったりと横たわっていた。
「……ついにここまで落ちたか」
「むきーッ! いいから早う魔力をよこせ!」
創造神ウェンディーは、この世界を作ってから、世界に住まう生物に神の寵愛という名のスキルを与え、そのものから魔力を得ている。
魔力を得られるのは今僕がいるこの場所だけで、この場所に寵愛を受ける者を呼び出すときは神域に近づく必要がある。
神域は、世界中に存在する教会の他、今のところ10個にも満たない数しか発見されてない天然の神域がある。
「魔力取られると疲れるんだよね……」
「はぁ!? 魔力がなかったら一生この姿のままじゃ! 良いからよこせ!」
「えー」
魔力は多い方だけど、多分この子供の姿になるまで魔力がなくなっていると考えると相当量取られるはず。
多分1週間くらいは身動き取れないかも……。
「もう。そんなに抵抗するならこっちにも手がある」
「ん?」
「そういえばお主、結婚したらしいなぁ。その営みをこの場所からみておったが、随分とイチャコラしているようじゃないか。ええ? そうだなぁ、その営みを神託として神官にでも伝えよう――」
「あああああああああああ!! 分かった! 僕が悪かったからほんとに勘弁してくれ!」
「分かれば良いのじゃ」
くそ野郎。だから嫌なんだよ。
「ふぅ、魔力が満ちた!」
「あー、だる重だよ」
「で、なんで教会に来てくれなかったのじゃ?」
そう問いかけてくるウェンディーは、今僕の膝の上に座って僕のほっぺをむにむにしながら遊んでいる。
「……こうなるからだッ!」
そう言ってこっちを向いたウェンディーのおでこにデコピンを食らわせた。
不敬? 知らんなぁ。
「きゃッ!」
「きゃッ! じゃないんだよ全く。やっぱり神様っぽくないよ。熱狂的な信者が見たら落胆するよ」
「ま、まあ仕事はしてるから。神としての仕事」
「……それは分かってるけどね」
コイツのうざいところは、こんな幼い見た目をして、こんなに生意気なことを言っているがれっきとした創造神と言うことだ。
この世界はこの目の前に居る少女が作った。
通常、無から有を作り出すことは出来ない。
一見それを成し遂げているように見える魔術も、正確には魔力を物体に変更しているだけで、無から有ではないのだ。
でも、目の前に居るこの少女はそれが可能だ。
以前彼女から聞いた話だと、創造神は通常、下にたくさんの神を生み出してその神様に仕事をさせるらしい。
別の世界なら、創造神の下に武神や農業神など、あらゆる神を作って仕事をさせているとか。
でも彼女はそれをしない。
すべて一人でこの世界を管理しているのだ。
それは並大抵なことではない。
僕が日々ヒーヒー言いながらこなしていた仕事量を遙かに超える量の作業を日々こなし続けているのだろう。
「……そなたの国作りには非常に助かっているのじゃよ」
「ん? どうしたの急に」
「我々神が最も労力を割く仕事は生命の循環なのじゃ。
通常、我が世界の文明レベルだと労働力を確保するためにたくさんの生命が誕生して、医療環境が整っていないためにすぐに死んでいく。
でも、そなたの国はそういった生命の循環が少ないんじゃ。
一度点いた命の灯火が、長きに渡って灯っている。
いい国じゃないか」
「そっか。ありがとね」
「そういうことで、そなたには感謝しているのじゃ。魔力もくれるし。
そなたが王位に就いてから仕事量が少し減って余裕が出てきた。
だからもっと励んでも良いのだぞ? 忙しいのか知らないが、随分と頻度が低いようじゃなぁ。
こっちのことは気にしなくていいから、もっとズコバコやれば良いのじゃ!
そなたの子供は優遇してあげよう」
コイツ……、覗き見るなって言ってるのに覗き見て……。
「余計なお世話だ! もう帰る!」
「えー! もう帰るのか??」
「帰る!」
「分かったのじゃ……。またすぐ来ての」
全く。だから嫌なんだ。
「はッ、お帰りなさいませ。何か言っておられましたか?」
戻ってくると、目をキラキラと輝かせながらこちらを見る宗教のお偉いさん方が居た。
ああ、この期待が辛い。
「……この国はいい国だ。もっと励むと良い。と」
嘘はついてないだろう。
真偽判定官がいるから嘘はつけないんだよ。
「そうで御座いますか! いい国だとおっしゃられたのですね!」
ああ、なんでこっちが申し訳ない気分にならないといけないんだ。
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