第36話 新たな貴族
今日はフィレノアがいない。
なぜなら先日の侯爵の子息を、その父である侯爵本人含めてこってり絞っているからだ。
あーもうありがたすぎ。
フィレノア国民栄誉賞! 爵位あげるもう。
「ねぇ、いいよね?」
「いいんじゃない?」
今日はククレアが研究室じゃなくて執務室にいる日。
僕とククレアが決めたからもう決定。
「どれが良いと思う?」
「うーん、子爵じゃない?」
「伯爵じゃなくて?」
「いやいや、いきなり伯爵はさすがにやりすぎよ。まずは子爵から」
「それもそうだね」
誰かの爵位が上がる瞬間って貴族のモチベーションがすごく上がる時でもある。
頑張れば爵位が上がるからもっと頑張ろうってなるんだ。
フィレノアの爵位を子爵から始めたら、そのモチベーションを上げる素晴らしい儀式を1つストックしておくことが出来る。
「それにしても、フィレノアに爵位がないことが驚きだわ」
「王宮を陰で
「牛耳るって言い方もどうかと思うけど……。まあそうよね。やっぱり1度でも王宮で働いたことのある人は間接的だとしてもフィレノアに影響を受けてるだろうしね」
「……ていうかフィレノアって今いくつ仕事掛け持ちしてるんだ?」
「さぁ。私たちより忙しいのは確実ね」
フィレノアは、メイドの仕事をしながらほかの仕事をやっていることがある。
僕が仕事をしていたり、だらけたりしている間に別の仕事をしているのだ。
あまりよろしくないのではないかと思うかもしれないが、これは僕が頼んでいることでもあるから全く気にしていない。
元々護衛として僕の元に来たわけだけど、王宮でいろいろ仕事をさせてみて彼女の有能さがわかった。
何をしてもすぐにその道のプロ並み、場合によってはプロを上回るほどの仕事を見せる。
だから、僕から外して何か別の職に就けようという話が上がったことがあった。
それこそ爵位を与えて国の要職に就けるという話もあったほどだ。
でも、僕にとってフィレノアは優秀なメイドで、守ってくれる護衛で、スケジュールとかを管理してくれる秘書で、相談に乗ってくれたりする大事な仕事仲間であり、それでいて大切な友達でもあった。
それに、フィレノア以外を僕の周りにつけると、正直今のように自由にすることが出来ないんじゃないかという懸念があった。
確かにフィレノアは厳しい所もあるけど、最終的には僕の意見を優先してくれるいい人だ。
だから今のままにしてもらった。
でも、やはり彼女の才能を埋もれさせるわけにはいかない。
彼女もいろいろな仕事をしたいと言っていたから、僕の護衛やメイドなどの仕事をやりながらほかの仕事もやってもらっているのだ。
これでフィレノアが忙しくなってしまってるのは申し訳ないけど、彼女暇だと仕事がしたいってうずき出すから。
忙しいけどなんやかんやで楽しそうにしてるよ。
時にこうやって僕のそばから完全に離れて仕事をすることがあるけど、そのときも僕はあまりほかのメイドをつけない。
つけることもあるけど、まあ基本はつけない。
理由はフィレノアと比べてしまうから。
それに、もしフィレノアがいないときに他の人をつけるってなったら、普段は1人で良いところを複数人つけることになる。
メイド、護衛、秘書などなど。
それじゃあ暑苦しくて落ち着けないからね。
それに、そのどれもフィレノアを超える仕事ぶりを見せてはくれない。
まあ、要するにフィレノアは凄いんだ。
数日後。
「前にも言われましたね。爵位はいらないかって。私は冗談だと思っていました」
「あのときもガチだったさ」
「……断るのも失礼ですよね」
「別に良いさ。断ってくれても」
そういうと、悩むような素振りを見せた後、大きなため息をついた。
「……それは断れないと分かって言っていることですか?」
それには何も発さずに、にこやかに笑顔を返した。
やれやれ、といった様子でフィレノアはゆっくりと腰を下ろして地面に片膝をつく。
「謹んでお受けいたします」
フィレノアは子爵になった。
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