第29話 金鉱脈
「あー、たのしかった!」
長めの温泉旅行を終え、今日からまた仕事の毎日が始まる。
以前と比べて慌ただしくない平和な毎日。
少し暇なくらいだ。
そう、
急いで姿勢を正し、声を掛けるとうれしそうな表情のお姉さんが入ってきた。
「陛下、新たに金の鉱脈が発見されました!」
「おお! どこだ!?」
最近金の産出量が減ってきていて、多額の予算を割いて鉱脈の捜索を行っていたが、どうやらついに発見されたらしい。
「ここから東に400キロほど離れた所にある山脈です。しかも相当埋蔵量が多い予想ですよ!」
400キロって言ったらそこそこ距離が離れているがまあなんとかなるだろう。
量が多いというのが何よりありがたい。
東に400キロと言うことは他国との国境付近でもなさそうだし。
僕が就任する前に見つかった鉱脈は他国との国境付近にあったせいで少しめんどくさいことになったと聞いている。
結局共同開発と言うことで話が終わったらしいが、相手は正直あまり発展していない国で、大半がこちら持ちの開発だ。
「そこの領主は誰だ?」
「オブレインゲルド侯爵です」
「オブレインゲルド……、ま、まあいいだろう。侯爵はもう領地に戻ったか?」
「いえ。そろそろ発つ予定でしたが早馬を聞いて取り消されました。お呼びしましょうか?」
「すぐに」
うーん、なかなかにやっかいな所から出てきてしまった。
よりにもよってオブレインゲルド侯爵家の領地とは……。
オブレインゲルド侯爵家と行ったら我が妻、ククレアの実家だ。
出来れば国からも予算を出したかったのだが、ここでお金を出しすぎると優遇だとか言ってくる貴族が出るかもしれない……。
まあそこら辺はなんとか考えるしかないかなぁ。
「お久しぶりです。国王陛下」
そう言いながら椅子に座るククレアのお父さん。
「いやー、陛下にはあの娘をもらっていただいて感謝しています。本当にありがとうございます」
「以前から交流があったからね。あれほどまでの魔法の天才を育て上げた侯爵家には感謝です」
「あ~……、まあこちらとしてもどうして娘にあそこまでの才能があるのかわかりませんけどね」
「それで侯爵、今回の金鉱脈の件だが、王国側としてはあまり協力をしにくくなってしまうのだ」
「ええ。それはわかっております。いくら陛下が慕われているとはいえど、なにかといちゃもんをつけてくる貴族はいますからね」
「はぁ、そうなんだよ……」
「まぁ、おそらくなんとかなるでしょう。うちはありがたいことに非常に肥えた領地です。金鉱山への出稼ぎ労働者からの税、金の取り引きによる利益などを考えれば十分に黒字です。技術も大丈夫です」
オブレインゲルド侯爵領には金鉱脈がもう1つあり、そちらの方はすでに開発が進んでいる。
その知識を活用すれば王家の資金提供や技術提供がなくてもなんとかやっていけるはずだ。
「……ですが、厳しいことには変わりありませんね」
「そうだよなぁ……、何か案を考えなければ」
別の貴族から資金提供を頼むか?
でもそうすると権利関係がややこしくなるんだよなぁ。
別に今回国が深入りするわけじゃないから侯爵家に丸投げっていうのもいいんだけど、ククレアをもらった以上何かとこっちも弱いんだよ……。
「……私からの仕送りという体ではだめなのかしら?」
「お、ククレア」
顎の辺りに添えていた手を外して扉の方に目をやると、ぴょこっと顔を出したククレアの姿があった。
……ノックをしないのは貴族としてどうかと思うが、まあ夫と父ということで省いたのだろう。
「久しぶりだな、ククレア」
「あ……、お、お父様ご機嫌よう……」
「まったく、お前は相変わらずだな。ほんとに王妃として出来てるのか?」
「もう、お父様は心配しないで。大丈夫だから!」
この親子は仲がいいのか悪いのかわからない。
まあなんやかんやで楽しそうではあるが。
「仕送りの体っていうのもなかなか厳しいんだよ。大きなお金の動きっていうのはどんな形式であれ貴族の目につく。それなら堂々と資金提供をしていた方がいいんだ」
「あまりこそこそやっていると見つかったときに責められるってことね」
「そういうこと」
「あの、口を挟んでもよろしいでしょうか」
「ん? なんだ?」
悩む我々を見てフィレノアが何やら案を提案してくれるようだ。
「新たに開発を支援する局を設立するのはどうでしょうか」
「……なるほど」
多数ある金鉱脈をはじめとする金属の発掘場、ほかにも木や石炭、開発と言うより資源だろうか。
それらは別々に予算を出して支援しているが、それらを1つの局にまとめてしまおうということだろう。
「なかなかいいかもしれないな」
1つの局にまとめてしまえば金銭的なやりとりが楽になるというのもあるが、貴族どうしでの情報のやりとりというのも容易になるかもしれない。
採掘状況の管理なんかは経済管理局がやっていたと思うが、それもその局に移せばより効率化が図れるかもしれない。
それにあの忙しいと有名な経済管理局の仕事が分散できる。
「よし、その案で調整を進めよう」
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