第28話

「広いな」


 浴室は想像以上に広かった。


 扉を開けた瞬間に感じる暖かく湿った空気は温泉に来たという事実により現実味を持たせてくれる。


 ここの温泉は少しぬるっとした水質をしていて、温度は比較的熱めだと思う。


 色は透明だが、少し茶色っぽくなっているのが特徴だ。


 なめると少ししょっぱい。




 実はここにはサウナも併設されている。


 サウナはあまり普及していないけれど、王都の公衆浴場や有名な温泉地とかだと存在している。


 温泉の蒸気を使ったサウナは暑いけれどすごく気持ちがいい。


 内湯、露天風呂に釜風呂を一通り堪能した後、持ち込んだタオルで体中の水分を拭き取ってからいよいよサウナだ。


 サウナに入る前に水分を拭き取らないと、その水分のせいで外側から暖まってしまってあまりよろしくない。


 時間を掛けて内側までゆっくりと入りたいからね。


 非常に多くの汗をかくので、しっかりと水分を補給してから冷気が入ってこないよう、2重になっている扉を開けていよいよ中に入る。


「あつ……」


 サウナは階段状に座るところがあるのだが、上に行けば上に行くほど温度が高くなる。


 もちろん僕は上の方にいつも座っている。


 内側からじわっと汗が出てくるこの感覚が非常に心地いい。


 夏の暑い時期よりも明らかに熱いはずなのに、夏の暑い時期よりも不快感がない。


 なんなら心地いいのはなぜなのだろうか。




 しばらくサウナに入って汗を流したら水風呂の時間だ。


 水を頭からかぶって出てきた汗をしっかりと洗い流す。


 サウナの熱で熱せられた汗を流さないと、せっかく冷たい水風呂の温度が上がってしまうからだ。


「つめてー」


 足をつけるとやはり水風呂と言うだけあって冷たい。


 だが、ここで躊躇わずに一気に肩までつかることが重要だ。


 初めのうちは冷たい水風呂だけれど、しばらくつかっていると暖かく感じてきてこれがまた気持ちいい。


 ただ、ほんのり暖かく感じてきた頃に水風呂は出なければならない。


 軽くつかるだけ。


 そして、水風呂を出た後は一度外に出て椅子に座るのだ。


 露天風呂のそばにある竹製の椅子。


 ここから見える山々の景色はとにかく美しい。


 季節はちょうど夏と冬の中頃で、いい感じに紅葉した木々が鮮やかだ。


 鳥のさえずりと木々のせせらぎ、露天風呂から聞こえてくる水の音は心の中にたまったおもりを解放してくれる。


 サウナに入った時間と同じほど休んだ後、もう1度サウナに入る。


 サウナに入って水風呂、そして外気浴を3回行うのが一番心地いいのだ。


 すべての行程を終えるとなんともいえないふわふわとした感覚が体を包む。


 明らかに体が軽いのだ。


 そして、水風呂外気浴とで少し冷えた体を露天風呂に入って景色を眺めながら暖める。


 最高だ。






「随分長かったわね」


「ああ、ごめん。堪能しちゃった」


「全然いいわ。そんなことより、ご飯の準備が出来てるらしいわ。2人はもう行ってるから私たちも早く行きましょ」


「そうだな」


 脱衣所から出ると、そこにはククレアが椅子に座って休憩している姿があった。


 王宮にいるときは僕も含めてみんな無意識に気を張っているだろうから、こうやってゆったりと出来るところにこられて良かった。




「おいしそう……」


 大広間に着くと、机の上には山の幸をふんだんに使った料理が並べられていた。


 近くに流れる川はすごくきれいなことで有名で、そこで取れる魚は臭みもなく脂がのっていて非常においしい。


 その魚をシンプルに塩焼き。


 目の前の山で採れたキノコを使った炊き込みご飯に、山菜のおひたし。


 ほかにも様々なものが並んでおり、鮮やかな彩りもあって一気におなかがすく。


 いただきますと手を合わせてゆっくりと口に運ぶ。


 全体的に塩気が強めの味付けは、汗をかいた体に染み渡る。


 ほっぺたが痛くなるほどの美味。


 王宮ではまず産地から距離が離れていることで鮮度のよろしくない食材。


 毒味をする関係で少し冷めた料理。


 ただ、今回は毒味はなし。


 ていうか普段も毒味はいらないのだ。


 僕とククレアは魔法で毒を探知出来る。


 ただ、王宮では毒味を断ろうと話しても却下されてしまう。


 万が一魔法でも探知できない毒が入っていたら大変だかららしい。


 確かに僕だけだったらその可能性もあったかもしれないが、ククレアが居ることによってその可能性は限りなくゼロに近い。


 彼女の魔法の腕をなめない方がいい。


 もちろん今日の食事も毒は無し。


 見た目、味、食感すべてが満点だ。

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