第27話 温泉
「ジェノム侯爵、仕事の方はどうだ?」
「……陛下はなかなか大変なお仕事をなされていたのですね」
「そうだ! 大変だったんだから」
僕目線なかなか順調に進んでいるとは思うが、随分と疲れた表情をしているジェノム侯爵を見ると実際は苦戦しているように見える。
そりゃそうだろう。
仕事量半端じゃないからね。
よく僕も耐えてきたと思っているよ。
ただ、大体は以前の職業である王都の管理と変わらないので、やはりうまくやっているようだ。
王都の管理が国の管理に変わっただけ。
ただ、会議に参加して法の整備だとか、災害時の対応だとかをやらなければならないので、仕事量が圧倒的に多くなる。
……お父様は王になってからそう時間が経たないうちに多量の髪を失ったらしい。
なむなむ……。
「まあ、これで陛下に自由な時間が生まれると思えば頑張れますよ」
「そうか。これからも頑張ってくれ」
間近で僕が自分の時間を犠牲にして職務に当たっていたのを見ていたのだろう。
そのために僕に自由の時間がほぼ無かったことを知っているのだろう。
まだ若いけど、もっと若いことから職務で自由な時間があまり取れていなかったから、少し余裕が出来たということはありがたい。
働きづめだとミスも増える。
僕たちがやっているような仕事は、たった1つの小さなミスでも民の生活に大きく響いてしまう可能性がある。
それほどまでに重要で大変な仕事なのだ。
「それで、引き継ぎはもうこれで終わりだが、何か聞きたいことはあるか?」
「いえ、大丈夫です。後は私にお任せください」
そう言うと、失礼しますと頭を下げて僕の執務室から退出していった。
そして僕は彼が退出したのを確認した後、椅子をガバッと後ろに下げて立ち上がる。
「っしゃおらッ! 休みだッ!!」
ようやく長期の休みを得られたのだ! よっしゃあ!
なに? 扉の前でフィレノアが頭を抱えてるって?
しらんそんなもん! 僕はこの久しぶりの休みで舞い上がっているのだ。
そんな細かいことを気にしていられるような精神状況ではない。
ついに明日から旅行である。
行き先は温泉だ。
今までの疲れを一気に遙か彼方へと弾き飛ばしてしまおう。
馬車の扉を開けると、臭いような、心地いいような独特な硫黄の匂いが鼻を刺激する。
「来てしまった」
僕たち一行は温泉に到着した。
王都から北西に馬車で半日所の所にあるあまり知られていない温泉地。
山の奥の方にあり、なかなか行きにくいというのが理由なのだが、僕たちがよく知られた温泉地に行くと騒ぎになってしまうから、こういった静かな場所が一番いい。
「いいわねこの雰囲気」
そこかしこから湧き出る温泉であたりは霧っぽくなっている。
耳を澄ませば温泉が湧き出るポコポコといった音が聞こえてくる。
これがまた心地いいのだ。
メインの道にはお店が並んでいて、温泉まんじゅうをはじめとしたたくさんの食べ物や、お土産などが売っていた。
その中でも気になったのが、温泉の成分が出てきて固まった結晶だ。
どうやらこれを普段から入っているお風呂に入れることで、わざわざここまで足を運ばなくても温泉を楽しめるらしい。
帰りにたくさん買っていこう。
「これからどうされますか? お食事にしますか? それとも最初に温泉に入りますか?」
「もちろん温泉よね?」
「そうだね」
「ではさっさと旅館に向かってしまいましょう」
今回泊まる旅館近くには国営の貸し切り風呂があり、僕たちはそこの温泉に入ることになる。
いくら落ち着いた温泉地と言っても人が居ないわけではない。
温泉につかっている最中はもちろん裸な訳だから、そのタイミングで襲われてしまえば大変なことになってしまう。
だから貸し切り温泉なのだ。
僕たちが利用する貸し切り風呂は国営とは言ったものの、実は私財を投じて僕が自ら整備してきたものなのだ。
つまり僕営?
まあめんどくさいから国営でいい。
こうやって休みが出来たときに少しでも多く力を抜けるように整備してきた。
貸し切り温泉とは言っても、普段は通常の浴場として開放されているため、様々な種類の浴槽、サウナに水風呂までしっかりとついている。
「なかなかいいところね」
「そりゃそうさ」
「ふえぇ……、私本当に入っても良いのですか?」
「いいに決まってるでしょ! ほら、行くわよティニー」
どうやらククレアは欲を抑えきれないようで、ティニーの手を引きながら一足先に行ってしまった。
ちなみに、もちろんだが男女は別。
僕は1人でゆっくり入るが、女性陣は3人で入る。
ただ相当広いので3人でものびのび出来るはずだ。
「では陛下、私も失礼します」
「うん。楽しんできてね」
そう言って若干口角を上げながら、少し遅れてフィレノアも脱衣所へと入っていった。
「さて、僕も入ろうかな」
数年前に整備を始めてから実は1度もこられていないのだ。
今日までとても楽しみにしてきた。
堪能しまくるぞ。
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