第13話 2人の出会い
弓のように張り詰めた空気が辺りを支配する。
「始めッ!」
その声と同時に向かい合う二人の距離は一気に狭まっていった。
―――陛下、僕に護衛は必要ありません!」
それはレイフォースが10歳になったかというところ、王位継承権を破棄していたものの、その圧倒的な活躍から、王位継承権はあるもの周りは考え、王太子として深く国政にかかわっていた。
レイフォースはとにかく強く、同年代の者と戦えば負けることはなく、騎士団でも勝てる者はいない。正真正銘の強者。
ただ、いくら強くても彼は王族。王族であるという以上、当人の実力、希望など関係なしに護衛というものは必要になる。
「レイフォース、我儘はほどほどにしておけ。お前もわかっているのだろう」
わかっている。護衛は絶対に必要。
襲われて何かあってからでは遅いし、対外的にもいないというのはあまりよろしく思われない。
ただ、自身の周りに人を付けるというのがレイフォースはあまり好きではなかったのだ。
何とか言って1人まで減らさせたメイド、秘書はいない。ただ、そんなたった1人のメイドでさえもなくしたいと思っていた。
そんな中で、護衛をつけろという指示。
「でしたら陛下、護衛としても、メイドとしても仕事のできる者をお願いします」
最低でも傍に置くのは1人だけ。
護衛を付けるのならば、今身の回りの世話をしてくれているメイドは別に移動してもらう。
メイドと護衛を兼任。そんな優秀な者いるはずないと思い発した言葉。父上の口角が上がるのを見てすぐに後悔の念が体へと走る。
「わかった。フィレノア、入りなさい」
してやられた。すでにそのフィレノアという候補がここにいるというのだから、最初からそのつもりで手配していたのだろう。
「失礼いたします」
そう、落ち着いた声で告げてから、ゆっくりと扉を開いたその先には、ぴょこんと狐耳を生やした少女が立っていた。
「彼女はフィレノアだ。レイフォースが半年前に行った孤児の待遇改善によって騎士団に入団している。腕は保証しよう」
父上がそういうと、恐れ入りますといったふうに深く頭を下げる。
ほんとにこの少女に僕の護衛が務まるのだろうか。服装は明らかに騎士団の物だ。ただ、メイドとしても使えるかわからない。
それに、彼女の実力がどれほどかわからない。確かに魔力の鱗片は感じる。
「父上、手合わせでもし僕が負けたら認めます。よろしいでしょうか」
何とでも負かして、僕には護衛が必要ないことを証明したい。王族だからと言って、人をこき使うというのはほんとは好きではないのだ。
小さい頃は何の疑問も抱かなかった。ただ、お忍びで城下へ出歩いてからその考えは変わった。
人には、1人1人それぞれの生活があり、一生懸命に今を生きている。
上下関係が好きじゃない。
父上は少し考えるようなそぶりを見せたが、すぐに顔を上げて頷いた。
「殿下、もう終わりでしょうか」
「くッ……」
試合は圧倒的だった。
僕の攻撃を軽々と避け、不意を衝くために仕掛けた設置型の魔術も難なく避ける。そして、一振りで僕の首筋に剣先を突き立てるのだ。
最初はまぐれだと思った。
でも、何回もやっても傷をつけることすら叶わない。笑顔すら浮かべずに、作業のように剣先をこちらへ向けてくる。
彼女は強い。
悔しかった。ただ、その悔しさの中に明らかに芽生える高揚感。これほどまでの強い敵と今まで戦ったことがあるだろうか。いや、ないだろう。
まるで数秒先の未来が見えているかのように攻撃をよけ、ないはずの隙をついて攻撃を仕掛けてくる。
その攻撃は見事に攻撃の間合いを縫って繰り出され、最短で首を狩りに来る。
「……僕の負けだ」
そういうと、耳がぴょこんと動く。
あれは獣族が喜びを感じると無意識のうちに発生する動作。いままで、何の感情も見えなかった彼女の感情が揺れ動いたのが見てとれた。
「これからよろしく。フィレノア」
そう右手を差し出すと、「こちらこそ」と、先ほどまでの不愛想がどこかへと吹き飛んでしまったのではと思うほどの笑顔を向け、手を握り返してきた。
彼女は強い。
そして、何でもできる非常に器用な人物だった。
護衛としての仕事はもちろん、メイドとしても、秘書としても難なく仕事をこなしては、必要だと思ったときにはすぐそばにいて、すでに用意を済ませている。
気が向いたときに行う本気の戦いの戦績は23対0。
もちろん僕が0である。
「フィレノア、お前にこれを授ける」
そういって、僕は1本の剣をフィレノアに差し出した。
剣と言っていいのだろうか。どちらかと言えばナイフと言ったほうがいいような一見粗末に見える小さな武器。
「これは“魔剣フェルティア”という魔剣だ。魔力で形を変えられる。魔力を増強する。そして、攻撃した相手の魔力を吸い取る。大切に使ってほしい」
それを聞いたフィレノアは、驚いたような表情を見せながらも、片膝を地面に着き、頭を下げては両手を差し出す。
その手にそっとフェルティアを乗せると、突然彼女が泣き出した。
「え、えぇ?ちょ、ちょっとフィレノア?どうしたの!?」
「うぐッ、っ、わ、私は、殿下に……」
泣き出した彼女をなだめるように椅子に座らせ、ゆっくりと話を聞いた。
どうやら彼女は僕に命を救われたらしい。
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