第4話 ミツバチ

 今の季節は春。急いで仕事を終わらせたレイフォースは王宮内の廊下を歩いていた。


 向かう先は王城内の庭である。


 ここ、アインガルド王国の城の庭は色とりどりの花があふれ、動物も多数生息するような自然あふれるところなのである。


 広大な領土を持っているこの国だからこそできることなのかもしれないが、とにかく城がでかい。


 王宮の周りをグルッと囲うこの大きな城壁、その内部を基本的に王城という。


 王宮から城壁までは近いところでも1キロほど離れており、遠いところでは5キロ離れているところもある。


 そんな王城の中には基本的に森が広がっている。


 王城内部に入ってから王宮に着くまでにもそこそこ歩くため、出入りするのが非常に不便なのだが、道を整備しているので何とかなっている。


 王城の中には裁判などを行う施設や、国立学校などの施設が多数存在している。


 国立学校にはレイフォースも以前通っていたが、国王になったことによりやめざるを得なくなった。


 レイフォース自身学校生活を満喫していたため、やめなければならないと聞いたときの落胆ぶりと言ったら、とてつもないものであった。


 機嫌が悪くなると、自身の体の中の膨大な魔力を空気中に放出し始めるレイフォース。


 王宮内ですれ違う時ははあまりの迫力に気を失う者もいたとか。


 幸い、専属メイドのフィレノアがなだめたために1週間ほどで終わった。







「おおッ!見てよフィー!これはすごい!!」


「はい!すごくきれいです!」


 両手では数えきれないほどいる庭師が協力して作り上げたこの美しい庭は、まるでこの世の楽園である。


 優しい花の香りが広がり、これまた王城内にある養蜂場から飛んでくるミツバチがせっせと蜜を集めている。


 庭の外側にある森からは小さな動物たちが顔をのぞかせ、遠くの方からは騎士団の訓練の声が聞こえてくる。


 そんな庭の中心付近にある椅子に座り、ゆっくりと景色を眺めるレイフォースの元に、一匹のミツバチがやって来た。


 そのミツバチはレイフォースの指の上に着地すると、そのおおきくくりくりな目でレイフォースをじっと見つめた。


「み、みつ、みみ、ミツバチが!!」


 少しでもミツバチを刺激しないように硬直して慌てるレイフォース。


「さ、刺される!タスケテ~!!」


「大丈夫ですよ陛下、ミツバチは刺しませんから。」


「……あれ?そうだっけ?」


 そういえばミツバチは刺さないのであった。


 てっきり蜂は等しく刺してくるものかと思っていたレイフォースは、安心して肩の力を抜いた。


 そして、庭をもう一度ぐるりと見渡すと、全身の力を抜いて椅子に身を預ける。


「はぁ、民達にもこの景色を見せたい。せっかく庭師が作ってくれたこの庭を我々だけで独り占めするのはもったいないではないか?」


「国民に……、それはいい考えですね!庭は非常に広いですから、たくさんの人を入れられますよ!」


「では、近日中に人の募集でも始めるように話を進めてくれないか?」


「はい。了解しました。」


 ため息が出るほど美しい庭の中を涼しい風が駆け巡る。


 指の上に乗って動かないミツバチもきっと景色を楽しんでいるのだろう。


 そうミツバチを眺めると、突然お尻のあたりから尖った針を出してきた。


「なッ!」


 慌ててあげた声、それに驚いたフィレノアはレイフォースの指の上に乗っているミツバチを見ると、突然慌てだした。


「へ、陛下!それはミツバチなどではありません!スズメバチですよ!!」


「ふぇえ!?!?ちょ、ちょちょ、ど、どうすれば!!」


チクっ!


「ぎゃぁぁああッ!!」


「陛下!解毒魔法!解毒魔法!!」


 素人にゃ 蜂の区別は つけられぬ (レイフォース)


「陛下ぁぁああッ!!」


――――――チーン







「はぁ、普通ミツバチとスズメバチの違い分かりませんか?」


「いやいやいや、だって僕は外に出ないんだから!もう、せっかく外に出た日にこうだ。恵まれてない……」


「まあいいじゃないですか。解毒魔法で解除できたんですし。」


「そうだけど……」


 何か不服そうな様子ではあったものの、すぐに発動した解毒魔法が効いたため、そこまでの被害はなかった。


 蜂も悪気はないだろう。


 じつはレイフォースがミツバチを見たのは今日が初めてであったのだが、フィレノアはそのことを知らず、しっかりと虫の区別がついているものだと思ったのであった。


 そのため、レイフォースが「ミツバチだ。」と言ったものを確認しなかった。


 結果、そのミツバチはスズメバチであったのだった。


「陛下、これでもう1つ賢くなりましたね!」


「ん?嫌味か?」

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