第3話 物価の下落
時折頭を抱えながらも順調に書類整理を進めていると、執務室の扉が3回叩かれた。
その音を聞き、すぐさま国王モードに切り替えたレイフォースは「入れ」と告げる。
ゆっくりと開いた扉の向こう側にいたのは、レイフォースなど比べ物にならないほどの威厳とひげを生やし、王都の管理を担当しているジェノム・レスタン伯爵であった。
「何の用だ?」
机の上に両肘をつき、組んだ指の上に顎を乗せるなんとも威厳の出そうな格好で返事をする。
ただ、一言発するたびに口と連動して手が動いてしまうのは慣れていないからだろうか。
その様子を見ていたジェノム伯爵はガハハとこれまた威厳のある声で大きく笑い、「無理なさらなくても大丈夫ですよ、陛下。」と言う。
この男、年の差は20近くあるものの、レイフォースがまだ物心も着かない頃からよく話し相手になっていたほどの仲の為、彼がおっちょこちょいだということはよく知っている。
本人はいたって真面目にやっていたのだろうが、慣れていない様子があまりにも滑稽であったためか、優しくサポートしてあげたのだろう。
レイフォースは「ふむ」というと、おとなしく手を膝の上に乗せた。
「で、何の用だ?」
「はい。最近王都にて“レイフォース陛下即位記念セール”というものが広まっておりまして、そのせいで全体的に景気が落ち込んでしまう可能性があります。
なんせ、少なくても半額、7割や8割引くお店がほとんどの者ですから、物価が大幅に下落しております。」
「な、なんだそのセールは……」
思わず頭を抱える。
即位を祝ってくれるのはうれしい。
ただ、さすがにそこまで割引をしてしまう。話を聞けばどのお店もこのセールを数か月続ける予定らしいが、そこまでやられてしまうとせっかく上向きの景気が下を向いてしまう。
経済がうまく循環しなくなれば、それこそ頑張って減らした孤児がまた増えてしまったり、明日食べる者にも困る者がさらに増えてしまうかもしれない。
「さすがにそれは……、はぁ~」
思わずため息が出るこの件、即位を祝うのは自由だが、仕事は増やさないでほしい。
「ひとまず、セールを終わらせるようにする旨のアナウンスか何かをしないといけないな。」
「そうですね。ただ……」
ただ、『陛下はそのセールを喜んでいる』や『もっと続けてほしいけど仕方なく……』といったニュアンスを込めて声明を出さないと、国民からの信頼が下向きになってしまうかもしれない。
めんどくせぇ!!!
「どういう文章がいいだろうか。」
「ふむ……」
それからレイフォースとジェノム伯爵、それにフィレノアを交えて3人で声明の原文を考えた。
原文を考えた後、1度王宮内の複数部署に通しておかしな点がないか、よくない点がないか、足りない点がないかということをしっかりとチェックしてもらわないといけない。
そのたびに修正修正修正!!こっちは書類が溜まっているというのにッ!!
結局声明の発表は3日後になった。
国民は「私たちのお祝いのメッセージが陛下に届いた!」と大喜びで、一連の件が終わったとき、誰もモヤッとした気持ちは抱いてはいなかった。
レイフォース以外は。
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