第1話

 レギアス・ファルディア。

 マスティア王国の地方に位置する田舎町に住む18歳の青年である。

 【ワグナ町】と呼ばれる町の生活水準は王都に比べるとかなり劣る。

 王都では電力や魔力を動力源にした機械で便利な生活が出来ている。だがこのワグナ町ではそのような機械は殆ど無い。農業や狩猟、工芸品の作成等で生計を成り立たせている。

 しかし住人達には不満は無い。苦労はあるが、それでもその苦労を達成感に変え、活き活きとしている。

 レギアスもワグナ町を守る駐屯騎士見習いとして生活している。毎日自分に課して厳しいトレーニングを行い、畑を耕し、馬の世話をしては町の警邏を行っている。

 レギアスの父、オードル・ファルディアはワグナ町の町長であり、町を守る駐屯騎士の長である。しかし今では長年の戦いの影響で身体を患い、満足に剣を振るえなくなってしまった。レギアスは父の代わりに騎士見習いとして、幼馴染みのジャックとレンと一緒に町を守っている。

 若者はレギアスを含めて5人だけであり、彼ら以外は両親を除いてご老人ばかり。農業などの肉体労働をレギアス達で賄っており、町の皆はレギアス達を大切にしている。

 レギアスは日課のトレーニングを終え、畑を耕してからジャックの手伝いをしていた。

 少し離れた大きな街から仕入れてきた馬や牛の餌を納屋に入れる作業を二人で行っていると、ジャックからレギアスに話が振られる。


「なぁ、レギアス。俺達っていつまでこんな生活するんだ?」

「何の話だ?」

「俺達はもう18だぜ? 18なら夢に向かって世界に飛び立ってる頃だろ?」

「っつてもな……お前、夢なんかあるのかよ?」

「そりゃお前……取り敢えず女が欲しい」

「ハッ、女ァ?」


 レギアスは鼻で笑い、ワグナ町に一台だけしかないトラックの荷台から餌袋を取り出し、ジャックへと投げ付ける。普通なら受け止めきれない重さなのだが、ジャックはそれを軽々しく受け取る。


「随分とまぁ小さな夢なこった」

「バッカ、考えてもみろよ? 俺達は学校とは言い難い小さな所で学生生活を送った。そこに男女の青春はあったか?」

「あるわけねぇだろ。俺とお前とレンの三人だけしかいなかったんだからな」

「その点、ダンの野郎は羨ましいぜ。町一番の美少女のエリファと通ってるんだからな」

「その二人しかいないからな」

「あの二人がくっ付くのは時間の問題だ。いやもうくっ付いてる。つまり、俺達はダンに先を越されたんだ」

「はぁ……何が言いたいんだ?」


 荷物を運ぶ手を止め、ジャックに向き直る。

 ジャックはいたって真剣な眼差しでレギアスを見つめる。


「王都へ行こうぜ、レギアス。俺達の腕前なら、本物の騎士になれる」

「父さん達を置いてか?」

「そこが問題なんだよなぁ」


 ジャックは頭を抱え、天を仰いだ。

 王都へ行きたがってはいるが、ワグナ町を見捨てる気は無いようだ。レギアス達が町を離れてしまえば、両親達の生活はそれだけキツいものになってしまう。今でこそ、レギアス達の働きで多少の無理を利かせて収入を得ているが、それが減ってしまえばたちまち生活が成り立たなくなってしまう。

 だからといってこのままの生活を続ける気は、レギアスにだって無かった。何とかして生活の基盤を作り、せめてダンとエリファには苦労をかけたくないと考えている。


「まぁ、騎士云々は置いといて、王都に行って彼女が欲しい」

「それが本音か。なら行きゃあ良いだろ? お前の仕事ならその間代わりにやってやるよ」

「んなことしたら、俺が親父とお袋に殺されちまうよ」

「確かに」

「はぁ……これじゃ、馬か牛と結婚させられそうだ」

「その時は必ず式に呼べよ。盛大に笑ってやる」

「うるせぇ」


 二人は一頻り笑い合い、仕事を片付ける。

 午後になり、別の畑で仕事をしていたレンと合流して昼食を取る。河川敷に座り、各自の弁当を広げて他愛ない会話を広げる。


「んで? ジャックは王都に行きたいのかい?」


 眼鏡を拭きながら、レンはジャックに訊いた。

 握り飯を頬張っていたジャックは茶を呑んでから口を開く。


「そうだよ。こんな田舎に居続けても、俺達に明るい未来はねぇだろ?」

「でもこの町を捨てる気なんて無いんだろ?」

「当たり前だ。故郷なんだ、親父達にも孝行しなきゃいけねぇしな」

「ダンとエリファの面倒も見なくちゃならねぇしな」


 レギアスの視線の先には小さな学校がある。ダンとエリファが通っている場所だ。

 二人には両親が居ない。昔、街へ仕入れに出た帰りにデーマンという化け物に殺された。

 この世界は人類とドラゴンと言う二種族で別たれている。

 デーマンとはドラゴンが生み出した化け物であり、世界中に存在する。人類を餌と見なし、見境無く殺し回る人類の敵。

 それぞれの都市や街にはデーマンの侵入を防ぐ魔法障壁が展開されており、その装置がある限りデーマンから守られる。だが魔法障壁の外に出れば、その限りではない。デーマンから身を守るにはデーマンと戦える力を持つ騎士が必要だ。

 ダンとエリファの父達は騎士であったが、二人の力を持ってしても帰ることはできなかった。

 それ以来、レギアス達はダンとエリファの兄貴分として面倒を見てきた。

 町から出て行くにしても、二人が独り立ち出来るようになってからになる。


「それにしても王都か……彼女は元気にしているのかな?」


 レンがそう呟いた。


「彼女……ああ、お姫様か。どうなんだよ、レギアス?」

「知らん。あの日から連絡なんて取ったことが無い」

「手紙を出そうにも、庶民である俺達が出せる相手じゃねぇもんな」

「……」


 遠くに見える桜の木。そこでレギアスとベールは一つの約束を交わした。

 またいつか会おう。

 たったそれだけの約束を果たせていないと言う現実が、レギアスの心を虚しくしてしまう。

 王都に行けば、会うことが出来なくとも、一目見ることは出来るかもしれない。

 だがそうしたところでいったい何になる。

 彼女は王女で、己は庶民。8年前は友達だったかもしれないが、今となっては遠い過去の話。

 既に向こうは過去の事を忘れ、王女として生きているのかもしれない。王女なのだから、既に国の行く先を見据えた婚約者だっているのかもしれない。

 レギアスはいつしかベールの事を忘れようとしていた。

 しかし、今でもそれは出来ないでいるのだった。


「……ん?」

「……?」

「これは……?」


 その時、三人は何処からか邪悪な魔力を感じ取った。

 それも強大でいて今まで感じたことの無い気配。

 レギアス達はハッとして意識を切り替えた。


「レン、今すぐ父さん達の下へ向かえ。シェルターに避難させるんだ」

「了解」

「ジャック、俺と来い」

「おうよ」


 三人はすぐに行動に出た。

 レギアスとジャックは小さな兵舎から軽装の鎧、剣と弓矢を装備し、馬に乗って気配がする方角へと走らせる。レンは住人達に警告しに向かった。

 気配がする方角へと馬を走らせていると、その気配がデーマンを封印している森から発せられていることに気が付く。

 まさか封印が解けたのか。

 レギアスは頭の中で鳴り響く警笛に唾を飲み込む。


「レギアス、これって……!」

「ああ……! こりゃあ、かなりヤバいかもな」

「あの封印って王様が施したもんなんだろ!? それが解けるって、どういうことだよ!?」

「知るか! 封印の様子を見ない限りは分からん! 急ぐぞ!」


 レギアスとジャックは馬を急がせた。

 封印されている森は、町外れの森だ。昔の遊び場とは違う森で、定期的な巡回以外では入ることの無い森。その奥に小さな祠があり、そこにデーマンは封じられている。

 歴代最強と言わしめた国王が討伐ではなく封印したと言うことは、それほど強いデーマンということなのだろう。もしそのデーマンが封印を破ったのだとしたら、齎される被害は考えたくもない。

 封印されている祠がある森の入り口まで辿り着いたレギアスとジャックは、その森から発せられる異様な魔力に足を止める。


「おいおい……何だってんだよ、これ……!?」

「ジャック、レンを待ってから中に入るぞ……!」

「わ、分かった」


 それから少し経ち、装備を纏ったレンが馬に乗ってやって来た。レンも森から発せられる魔力に額に汗を流し、固唾を呑んだ。

 レギアスは二人にいつでも戦えるように警戒しろと命じ、森の中へ馬を進める。

 森の中は、定期巡回の時と違って嫌に静かだった。普段は鳥や兎などの小動物がいるのだが、その姿は何処にも無い。

 代わりに、別のナニかに見られている感覚が、彼らを襲う。

 遺跡までは一本道で、慎重に辺りを警戒しながら馬を進めていく。


「レギアス、もし封印が破られてたらどうすんだ?」

「デーマンを倒すしかないだろ」

「僕達だけで出来ると思うのかい?」

「やらなきゃ、町の皆がやられる。それだけだ」


 三人は道なりに奥へと進んでいき、やがて小さな祠に辿り着く。

 その祠は一見は何の変哲も無い石の祠ではあるが、祠そのものが魔力を帯びており風化を防いでいる。その祠の中にはデーマンを封じている鏡が保管されているはずである。

 本来ならば――。


「なっ――!?」


 レギアスは目を疑った。

 鏡は綺麗に二つに割れており、封印が壊されたと理解するまで時間は掛からなかった。

 三人は剣を抜き、周囲を探る。封印から放たれたデーマンが潜んでいるかもしれない。

 だが何処を探ろうとも、気配の欠片一つ感じられない。

 まさかもう既に何処かへと行ってしまったのだろうか。

 息が詰まる緊張感の中、最初にそれに気が付いたのはレギアスだった。


「っ――上だァ!」


 レギアス達は馬を蹴りその場から離脱する。

 すると三人が居た場所に得体の知れないモノが降ってきた。

 地面を陥没させながら着地したソレは、四本脚の巨大な狼だった。だがただの狼ではなく、身体から蒼い魔力の触手が無数に生えていた。


『オオオオォオォォォォォォ!!』


 デーマンの咆哮によって木々が軋み、魔力によって生み出された余波で吹き飛んでいく。


「ジャック!! レン!! 今すぐ此処から逃げろォ!!」


 レギアスはそう叫んだ。

 こいつには勝てない。

 本能的に確信した。

 その時点でレギアスの中で優先順位が変わった。

 こいつから生き延びて、町の皆を逃がす。


「皆を町から逃がせ! シェルターなんぞコイツには意味が無い!」


 レギアスは馬から飛び降り、馬を森の外側へと走らせた。

 弓を構えてデーマンに放ち、意識を向けさせる。


「レギアス!?」

「俺が囮になって時間を稼ぐ! 早くしろォ!」

「無茶だ! お前、魔力使えないだろ!?」


 ジャックの言葉にレギアスは顔を顰める。

 魔力とはこの世界に当然のように存在する自然の力。更に言うと生物に生まれ付き備わっている力だ。力の個人差はあれど、人類ならば当然のように持っている力。

 それを、レギアスは持ち合わせていない。生まれてから何度も魔力を発現させようと、あらゆる手段を用いて訓練してきた。しかし何の成果も得られず、今を向かえている。

 だが、レギアスには別の力がある。


「大丈夫だ! 時間だけなら稼げる!」

「っ……! 待ってろよ! 必ず戻るからな! レン! 行くぞ!」

「くっ……了解した!」


 ジャックとレンは踵を返し、町へと全力で馬を走らせた。

 残ったレギアスは睨み付けて唸り声を上げているデーマンに向かって矢を放つ。

 デーマンは咆哮だけで矢を叩き落とし、レギアスへと襲い掛かる。

 握っている弓を捨て、剣を抜き放つ。

 恐ろしい速度で迫り来るデーマンを肉眼で完全に捉え、全身に意識を集中させる。

 デーマンがレギアスの眼前に迫ったその瞬間、レギアスは力を一気に解放した。


「ウォォォォオ!!」


 振り払ったレギアスの剣がデーマンの顔面を捉え、大凡人間の力では出せないような怪力を持って、デーマンを弾き飛ばした。デーマンは大きく後ろに吹き飛び、祠に背中から落ちた。


「フゥーーーー……!」


 デーマンが立ち上がる前に、レギアスはその場から助走なしでデーマンに向かって飛び掛かる。魔力で身体を強化せず、純粋な脚力のみで行ったものだ。剣をデーマンに突き立て、喉に突き刺す。

 デーマンは魔力の触手を使い、剣が突き刺さる前にその場から跳び退く。剣は祠の残骸を砕き、剣身も砕けてしまう。


「チィ!?」

『グオオオオオ!』


 デーマンはレギアスへと爪を振るう。

 その爪を、レギアスは両腕で受け止めた。

 衝撃が走る鈍い音を立て、レギアスの足下の地面が陥没する。

 だがレギアスは押し潰される事もなく、デーマンの爪を完全に受け止めている。

 その事実に、デーマンはまるで人間のように驚きの唸り声を上げる。


「どうした……? お前を封じた国王でも、これはされなかったか?」


 受け止めていた爪を掴み、力任せに指ごとへし折った。

 デーマンは痛みを感じているのか、叫び声を上げる。


「ぉぉぉおらぁぁあ!」


 レギアスは力任せにデーマンを殴り付け、地面に叩き付けた。そして続け様に蹴りを放ち、デーマンを更に蹴り飛ばした。

 これが、魔力を持たない代わりに手にしたレギアスの力。常人を遙かに超えた怪力と身体能力がレギアスの力。人類が魔力を使って身体強化魔法を施して得られる力を、レギアスは日常的に使えるのだ。岩だけでなく、鋼鉄でさえもレギアスは純粋な腕力だけで破壊することが出来る。レギアスが魔力無しでデーマンと渡り合えていられるのは、この為である。

 だがしかし、レギアスは今にも逃げ出したいと思っていた。

 いくら化け物染みた怪力を有していたとしても、今対峙しているデーマン相手には勝てないと本能が訴えている。

 その証拠に、鉄をも砕く拳や蹴りを喰らっても、デーマンは無傷で立ち上がっていた。折れた指や爪も再生していた。寧ろ余計に怒りを与えて力が膨れ上がっている。魔力の触手が増殖し、肉体も膨れ上がっている。


「くそっ!」


 時間はどれぐらい稼げばいい。

 レギアスは焦っていた。ジャック達を町に戻したのは、彼らを助ける為の方便なのだ。

 自分を犠牲にして二人を助ける為だけの、それだけの時間稼ぎ。

 本当なら町の皆を逃がすだけの時間も稼ぎたかったが、それは叶いそうにもない。

 デーマンは触手を伸ばし、レギアスに攻撃を仕掛ける。

 伸びてくる触手を避け、デーマンから距離を取っていく。

 だがそれは悪手だったようで、本体のデーマンが突撃してくる。

 その速度はまるで弾丸のようで、デーマンの突進を正面から受けてしまう。

 咄嗟に右腕を盾にして致命傷を避けるが、右腕はデーマンの魔力によって汚染され、ズタズタに引き裂かれてしまう。触手が右腕を絡め取り、引き千切ろうとする。

 レギアスはそうはさせないと、触手ごと右腕をデーマンから引き離した。

 触手を払い落とした右腕はシューシューと音を立てて煙り上げている。

 もう右腕は使い物にならないだろう。

 激痛で意識が飛んでしまいそうになりながらも、デーマンと睨み合う。

 このままでは大した時間稼ぎも出来ずに殺されてしまう。

 ちょうど背中にあった木に身体を預け、倒れないように身体を固定する。

 デーマンがレギアスにトドメを刺そうと飛び掛かった。

 その直後、デーマンに魔力が込められた矢が飛来した。

 矢はデーマンの身体に突き刺さり、デーマンは脚を止めた。


「レギアス!」

「ジャック……!?」


 ジャックが馬上で弓を構えていた。


「お前っ、なんで!?」

「兄弟分を一人になんてさせられっかよ! 町へはレンに行かせた! アイツも来たがってたけどな!」


 ジャックは馬から飛び降りてレギアスの前に立つ。レギアスの右腕を見て顔を顰め、デーマンを睨み付ける。


「馬鹿やろ! お前じゃ無理だ!」

「うるせぇ! 怪我人は引っ込んでろ!」


 ジャックは弓を構えて連続で矢を放つ。的確に目や頭等の急所を狙うが、デーマンの触手が矢を受け止め、逆にジャックを捉えようと触手を伸ばす。


「くそっ!?」

「逃げろ! ジャック!」

「うるせぇ! 兄弟を見捨てられるか!」

「ジャック……!?」


 矢で伸びてくる触手を撃ち落としていき、デーマンに向かって何度も射る。

 デーマンはジャックを嘲笑うように牙を見せながらゆっくりと近付いてくる。

 死が、着々と二人に近付く。

 レギアスは歯を食い縛る。目の前で共に育った大切な友が、デーマンに殺されてしまう。

 ジャックとレンは生まれてから共に育った兄弟に等しい。特にジャックはレギアスの半身と言っても差し支えない。

 ジャックとレンだけではない。此処で殺されてしまえば、次は町にいる家族だ。

 彼らを守る為には、今此処で奴を倒さなければならない。

 だがレギアスにはその力が無い。

 怪物染みた身体能力があっても、魔力が無いこの身ではデーマンを倒すことが出来ない。


 欲しい、力が欲しい――。


 レギアスは渇望する。

 大切なモノを守る為の力が。

 大切なモノを脅かす奴らを破壊する力が。


 右腕がアツイ。心臓の鼓動が煩い。


「クソッ! レギアス! 逃げろ!」


 ジャックがレギアスを庇おうと両腕を広げ、レギアスの盾になる。

 デーマンが爪を振り上げ、嗤った。


 カチリッ――。


 頭の中で何かがハマった音が鳴った。

 レギアスは軽くなった身体を動かし、ジャックを押し退けて前に出る。

 燃えるように熱い右腕を、振り下ろされたデーマンの爪に目掛けて振り抜く。


「――ォォォォォォォァァアアアアッ!!」


 咆哮と共に放たれたレギアスの右腕は、デーマンの爪どころか腕ごと吹き飛ばしてしまう。

 深紫の魔力波動が放出され、それはそのまま天を貫く。

 衝撃波で森が激しく揺れ動き、轟音が鳴り響く。


「……れ、レギアス――!?」

「ウゥゥ……!」


 レギアスの右肩から右腕を覆うように深紫の魔力が噴き出している。

 ジャックはそれから感じる強大さ、そして禍々しさに身体を震わせた。

 身体の芯から、否、魂がレギアスから感じる魔力を恐れている。

 身体が竦み、寒さも感じる。


「ゥゥゥォォォォオオッ!!」


 レギアスは獣のような咆哮を上げ、右腕から吹き荒れる魔力をデーマンに向けて振り払う。

 それは斬撃のような閃光を放ち、デーマンの身体に纏わり付く触手を斬り裂き、砕き飛ばした。

 ジャックはレギアスの背中を見て、ナニかを幻視した。

 ソレは巨大なナニかだ。

 正確にソレが何なのかは分からない。

 だがレギアスの姿が、そのナニかに見えた。


『グ――オオオオオオオッ!』


 デーマンもレギアスにナニかを感じ取ったのか、怯えたように威嚇する。

 レギアスの力に恐れ、デーマンは背を向けて逃げ出す。

 だが、それをレギアスは許さなかった。

 右腕に凄まじい魔力を集束させ、逃げ出すデーマンに向けて撃ち放った。

 大地を揺るがす魔力の集束砲はデーマンを呑み込み、完全に消滅させた。

 レギアスの攻撃に呑み込まれた森も、射線上に沿って一直線に消滅していた。


「はっ――レギアス!?」

「ぁ――ぅぁ――」


 レギアスの魔力が収まり、そのまま力尽きるようにして倒れ込んだ。

 ジャックはレギアスを抱き起こし、気を失っただけだと確認して胸を撫で下ろす。

 怪我をしていた右腕も、綺麗に元通りになっている。


「いったい、何だったんだ……? どうしてレギアスから魔力が……。いや、それよりレギアスを町に連れて行かねぇと! おい! しっかりしろよ!」


 ジャックはレギアスを背負い、町へと戻るのだった。




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