71話 未来のその後3
正しくは、そこには何もなかった。
王族にさえ存在を知らされていなかった隠し部屋は、ただの立方体の空間でしかない。
誰も手入れもしていないというのにくすみの一つもない真っ白い石壁は確かに稀有なものではあるのだが、もはやそんなものを研究するほどの余力は人類にはなかった。
この部屋に訪れたエイミーとスルーズが見つけ出したのは、部屋の中央付近にある、穴だ。
壁や床、天井ではなく、空間に空いた、腕一本をギリギリ入れられそうな、穴……
「『アイテムストレージ』」
声はスルーズのものだが、二人とも声を発することができたなら、二人ともが同時につぶやいていたことだろう。
それは勇者の――勇者ということにして王城で研鑽を積み、そうして任命の式典の日に突如消え去ったあの男の、固有能力であった。
スルーズとエイミーは目を見合わせた。
それから、スルーズが先に一歩歩み出て――
アイテムストレージと思しき空間の裂け目に、腕を入れた。
「っ、ぐう!?」
瞬間、頭に流れ込んできた情報にスルーズは顔をしかめる。
腕を入れた途端に、アイテムストレージ内部に収められた物の情報がいっぺんにわかったのだ。
その気色悪さ、頭を誰かにいじられているような怖気に、スルーズは端正な顔を歪めながら、耐えた。
眉根に寄せたシワを消すために、十秒はかかっただろうか。
美しい緑色の瞳で、自分の肘の先を飲み込んだ穴を見つめる。
深呼吸を三回して、目を閉じる。
頭の中に流れ込んできた情報を精査するためだ。
これを、ここに遺した者がいるとすれば、それは『彼』に違いないとスルーズは見当をつけた。
スルーズはコンピューターゲームという概念をよく知らなかった。だから多少の苦労はありつつも、どうにかアイテムストレージとの付き合い方を覚え……
「……あの、エイミー、これ……」
なんとも微妙な表情で。
「……中に、あなたがいる」
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