70話 未来のその後2

 冒険の始まりは意外にも希望に満ちていた。


 スルーズと六人のとも・・たちは旅を始めた。

 王都急襲の謎、モンスターたちの大量発生の謎、そして連携の謎を解くための旅路だ。


 まずは王都へ戻ろうということになった。


 モンスターたちが狙うほどのものがきっとそこにあるのだろうという予想があった。

 それに、手がかりがほとんどなかった。『とりあえず王都を調べてみるしかない』というぐらいには、なんにも、なかったのだ。


 また、王都にはまだモンスターがうろついている可能性もある。


 そんな危険で成果も見込めない旅路の準備を、どこかウキウキした様子でおこなっているのは、状況が彼女たちを後押ししている理由は、きっと、『あれ』だろう。


『自分たちにはもう何もできない』


 もうこのコミュニティには、少女ばかり七人しか残っていないのだった。


 保護していた人たちは、あるいはコミュニティを割って出て行った。

 残った者は、まだ幼い王族に希望を託して、自ら犠牲になった。


 頼りになる侍従長も、もういない。

 彼女はモンスターの一撃からスルーズを庇って死んでしまった。


 歳をとった者は若い者へと望みを託した。

 弱い者は強い者へと望みを託した。

 男たちは、少女たちを守ることを誇りながら死んでいった。


『これだけの命に支えられた自分たちが、何もできず、ただ寿命まで身を潜め、モンスターに怯えながら生きていくだけでいいのか?』


 残されたスルーズたち七人の少女を突き動かしているのはそんな衝動だった。

 もしも死者が口をきけたなら『それでいい』と言うような生き方だったけれど、何よりも、彼女たちが納得できなかった。


 何かを成したかった。

 あるいは、成すことさえできなくても、成そうとしたかった。救われたこの命に、これから先の、ただ過ごすにはあまりにも長い人生に、意味が欲しかったのだ。


 だからスルーズたち七人は旅に出た。

 そこにはエイミーやロージーといった、『消えた勇者』と比較的縁の深い者もいた。


 王都への帰路。


 それは行き以上に困難な道だった。


 七人しかいなかった少女たちは、さらに数を減らしていく。

 あるいは感謝し、あるいは想いを託し、そしてあるいは、『大人しく、ただ生きるだけの余生を過ごせばよかった』と後悔しながら死んでいった。


 ロージーは感謝をしたうちの一人だった。


 スルーズが辺境伯領で過ごしていた時から一緒だったのだ。

 恐れながら、実の妹のように思っておりました――誰よりも気弱で、誰よりも『立場』をわきまえ、自分の想いを吐露することが苦手だった彼女が最後の最後で口にしたのは、そんな言葉だった。


 七人いたころには『いざとなれば、比較的安全だった領地に戻って、ただ生きるだけの余生を過ごせばいい』と思っていた旅路は、残すところ三人となり、もう退けないものとなった。


 どうにか王都にたどり着いたところで、王都は広い。

 この中から『モンスターが急に来た原因』と、『勇者が急に消えた原因』を探し当てるのは並大抵のことではなかった。

 そもそも、実在するかどうかさえ不明だったし、実在したとして、それがどんな形状のなんなのか、あるいは、形のあるものなのかさえ、わからないのだ。


 廃墟にアジトを構えてしばらく過ごすことになった。


 すると不思議なもので、王都にとどまり、生き残っていた者たちと遭遇する。

 それは主に『勇者教』の信徒たちであった。


 ほとんどはスルーズと同じぐらいの年代の若者たちであったけれど、わずかながら、もう満足に歩けないようなお年寄りや、モンスター急襲当時に生まれたばかりだったであろう子供たちも生存していた。


 スルーズたちがさほどの軋轢なくこれら集団と合流できたのは、スルーズ自身が勇者教に対する子供っぽい対抗意識をなくしていたことと、エイミーが勇者や聖女と縁深いことを知っている者がいたおかげだった。


 また、勇者教はいまだに勇者降臨を信じていた。

 そのため、スルーズたちが勇者が消え去った原因究明を始めるのには、何の衝突もなかった。


 そこからスルーズたちは、モンスター急襲の原因と勇者消失の原因を求めて、王都を探索することとなる。


 その探索は一年、二年と続いていった。


 モンスターに怯えて暮らすのも慣れ、スルーズが子供から大人びた女性になろうとするほどの時間が経ったある日、彼女たちは王城で謎の通路を発見する。


 これはスルーズにも知らされていなかったものだった。

 どうにも魔力のない平民でも開けられる仕掛け扉で、発見者はともに王城捜索に来ていたエイミーであった。


 そして、通路の奥で、スルーズたちは、すべての原因かもしれない、あるものを発見した。


 ……あるいは、すべての結末だったのかもしれないものを、見つけたのだ。

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