56話 閑話3
その日終わった世界について。
光とともに勇者と聖女が消え去って、当然のように場は混沌に包まれた。
急激に空には黒雲がかかった。遠くで鳴る雷の音が聞こえた。
それから、足音があった。
大地を揺らす足音だった。
とてつもなく重いものがゆったりと迫ってくるような地響きに、騒ぎ立てていた群衆は次第に静かになり、みんなが足音の方へと振り返る。
静かになると、実際にモンスターと戦ったことのある騎士たちの中には、あることに気付いた者もいた。
「足音が、規則正しすぎる」
それは進撃というよりは行進だった。
一つではない重々しい足音がやってきている。足並みをそろえてやってきている。
この時代にもモンスターは出た。そして、モンスターというのは圧倒的な存在だった。
にもかかわらず人が勝てていた理由は、人は『多勢』で、『足並みをそろえていたから』だった。
もしも一対一でモンスターとやり合ったら、生きていられる人間はいないだろう。
軍団が戦略、戦術をもって立ち向かうから、人はモンスターより強かった。
なら、人より強いモンスターが、もしも、軍団で、戦術を用いたら?
その答えはすぐにわかった。
物見台にいた者が見たのは、
翼を持ったモンスターどもが、地上にいる連中と足並みをそろえて進む光景だった。
飛び道具を扱うことのできるモンスターどもが一斉に射撃をしたことで、城下町は一瞬で火の海になった。
逃げ惑う人たちを足の速い連中が踏みしだいて、撃ち漏らしを足の遅い連中がたんねんに潰していく。
なんて美しく戦術的な行軍なのだろう。
石造りの街は壊れ果て、そこらじゅうに赤い染みが散っていた。
人々は言う。
「勇者が消えたからだ」
でも。
でも、それは、おかしい。
モンスターどもが勇者消失のタイミングをはかったように戦術的な行軍をしてきただとか、この、勇者お披露目の日に合わせたように勇者が消えただとか……
そういったあまりにも人類にとって都合の悪い展開以前に、それらの大前提となる部分に、おかしいところがあった。
事情を知るスルーズは、小さくつぶやく。
どうして。
「彼は、勇者じゃないのに」
あれはニセモノの勇者だ。
ただ、恋に焦がれるだけの男だ。
だというのに、どうして……
こんなに、彼は、運命の中心にいるのか。
彼の消失を機に、世界が変わったみたいなことが、起こったのか。
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