47話 閑話 誰かの夢
「世の中にはなにもかもを覗き見しちまう能力をもったヤツがいて、そいつに出会えばアンタがどれほど注意しようがまるでダメ。どんな能力を持ってるかとか、どんな技能を持ってるかとか、まるで人生そのものを見てきたみたいに言い当てやがるから、不気味で不気味でしょうがない」
みょうに苛立った声音でしゃべる女だった。
夢を見ている。
その女についてはぜんぜん覚えていない。
けれど、夢に出てくるということはきっと昔に会ったことがあるのだろうとは思った。
姿は見えない。見ているのは、ロウソクの明かりによって壁に浮かび上がったシルエットだけだ。
輪郭のぼんやりしたゆらめく影は、着ているものさえ判然としない。
「アンタは運命の子だよ。きっとそのうち世界を手にする。でもね、それは、遠い将来の話さ。ケッ。今のアンタは、あたしらでも簡単にくびり殺せる無力な赤ん坊でしかない。……なんだい、わかったような顔して。おお、怖い怖い。きっとあたしらの話を理解してるんだ。末恐ろしい」
せかせかとしゃべる声は、本気で恐ろしいと感じているような調子で述べながら、それでも自分のそばを動かなかった。
「五十年前だよ。ああ、ああ、もうそんなに前かい! 聖女だの勇者だのがドヤドヤと土足で踏み入ってきて、世界の変革者を寄ってたかって殺しちまった。そりゃあそうだ! 日陰者、鼻つまみもののあたしらが望むようなモンは、あいつらにとっちゃあ倒すべきモンだ。聞いてんのかい? うんとかすんとか言いな」
そんなのは無茶だ。
この夢の登場人物は老婆と赤ん坊だけで、赤ん坊がしゃべれるわけがない。
「おや、笑ったね。笑ったね! やっぱりあたしの言っていることがわかるんだろうよ! おお、よしよし。希望の子。世界を変える子。……今度こそ、今度こそ、聖女の『目』から! あの、なんでも見通す神の目から守り切って、立派なあたしらの英雄に育ててあげるからねえ」
体が持ち上げられる。
あかりの乏しい室内の光景はやはりよく見えない。そもそも、自分の目はヒトをうまく捉えられないのだと、なんとなくわかった。
老婆はせかせかした、苛立ったような口調で、それでも愛おしそうに言う。
「未だ己の運命を知らぬお方。世界をかきまわす匙。あたしら魔女の王……どうか、どうか、立派に育っておくれよ」
これは、記憶なのか、それとも物語が頭の中で記憶のように流れているだけなのか。
わからない。今度、父さんに、こんな物語を語ってくれたことがあるのか、聞いてみたいけれど……
自分は『声を出す』という行為がとても苦手で、たった一言発するだけで、気を失ってしまうほどだ。
なにより、こんな夢、起きたら忘れてしまうことだろう……
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