24話 護衛騎士たち
「では、騎士をつけましょう」
そういうことにされてしまった。
勇者による国王への謁見から、勇者が民衆にお披露目されるまでには間があるようなのだ。
このあいだにいろいろなことが進行する。
勇者というのは基本的に重要人物であり、警護対象だ。
『魔王退治に行くようなヤツだから、きっと最強だろう』みたいな甘い考えで単独行動を許されたりはしない。
少なくとも、王都を出るならば、警護がつくぐらいの重要度ではあるようだった。
「移動は馬車でおこないます。あなたには五名の騎士がついて警護をすることになります。最低二名は常にそばに置いておくこと。よろしいですね?」
俺付き文官のサンドフォード氏は、あらかじめ暗記していたマニュアルを読み上げるみたいに『勇者外出におけるルール』を語った。
いろいろなルールを聞かされた。
詳細まで一回で把握できるほどの能力は俺にないので、サンドフォード氏が特に繰り返した部分からざっくりと意図だけまとめると、『逃げるなよ』というのが、どうにも『勇者に護衛がつく理由』の最たるものらしい。
勇者に選ばれたはいいものの、その重圧から逃亡する者も過去にはいたのだそうだ。
そうじゃなくとも、たいてい一般から選ばれるようだし、補助金が出ることなども思えば、勇者というのは六十年ごとに抽選がある宝くじみたいなものなのかもしれない。
半金でも受け取ることができたなら、重圧なんかほっぽりだして逃げたくなるようなやつもいるのだろう。
さらに言えば、宝くじを当てたやつが丸腰で歩いてたら、欲を出す人もいるだろう。
騎士をつけるのはそういった
とはいえ、勇者のお披露目はまだなので、俺を見て『勇者だ』と思う者はそんなに多くはない。
だからこの段階ではやっぱり『逃亡防止のための監視』が主な目的なのはゆるぎなさそうだった。
そういうわけで、『帰りたいんですけど』と俺が述べてから、騎士選定、書類上の手続きなどもあり……
実際に俺が村に帰るのは意思表明の翌日となってしまった。
二台の馬車が用意され、一台には三人の騎士たちと『勇者を輩出した村への祝い品』が乗せられる。
そしてもう一台には俺と、俺の荷物、そして警備を担当する騎士二名が乗せられた。
俺が男性ということもあり、護衛の騎士たちも、当然、男性だ。
最初に俺の護衛をした二人は、おしゃべりな若い騎士と、寡黙で大柄な老年の騎士だった。
老年の騎士は名乗ったきり無言になったが、若い騎士はまくしたてるようにしゃべる。
それは大半が『王都のモードの流行』だとか『男性用ファッションブランド』だとか『女性を誘うのにいい食事処』などだった。
そういった雑多な話題に混ぜ込むように、彼がにおわせたのは、スルーズ王女殿下との関係性だった。
直接的な表現はなかったものの、彼はスルーズ王女殿下と親しい間柄らしい。
なんでも王女殿下の
会話はこびにはちょっとばかりの違和感があって、もしも『自分は権力者の知己だ』というのをアピールしたいなら、もっともっとあからさまにスルーズ王女殿下との関係性をにおわせたろうな、とは思った。
だから王女殿下の潜り込ませた護衛なのかもしれないな、という推測はできなくもない。
事情を知っているかどうかは微妙だが、よくよく見極めて、可能なら頼りにさせてもらいたいところだ。
おしゃべりな騎士の活躍(?)もあって、村までの道中は思ったよりすぐに終わったように感じられた。
馬車が止まると、
「それじゃあ、僕らはここまでなんで! 村の中には次の護衛担当がついていくと思います!」
おしゃべりな騎士は笑顔でハキハキとそう言い、寡黙な騎士は一礼だけして、馬車から降りて行った。
ふと気になったのは寡黙な騎士が行った『一礼』だ。
それは古代中国の包拳礼を思わせるような動作だった。
この世界においては『剣を預かるような』と比喩される姿勢であり、その礼がどういった場面で使われているかといえば、礼拝だ。
すなわち宗教系の一礼であり、騎士という立場で同行しているにもかかわらず神前でするような、あるいは神官がするような礼をされたことに、なにか事情を感じざるを得ない。
五人の護衛にもどうやらいろんな思想の人がいるようで、改めて自分の立場の複雑さを思う。
まあ今から表立って何かをしてくることもないだろうし、俺の故郷がこの村であることや俺に娘がいることなど、隠し通せるものでもない。
とはいえ敵か味方かわからない人に住所を知られるというのはなかなか不気味なもので、俺はといえば妙にテンションが上がってしまった。
いろんな勢力が俺のまわりに配置され始めている。
いろんな思惑が俺のまわりに集まり始めている。
自分が主役の物語が始まりそう、いや、水面下ではすでに始まっているのだ。
もちろん状況の転がり方次第では気楽なことなど言ってられなくなるのだけれど、まだまだ実感がないせいか、今はただただ『すごいなあ』という他人事みたいな心境だった。
先触れがあったおかげで村の人たちは出迎えてくれた。
王宮からの祝い品が村に運ばれていく中、娘が俺に駆け寄ってくる。
それを抱き上げて、体温を感じて、ようやく俺は村に帰ってきたという実感を得ることができたのだった。
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