12話 かつての仲間を訪ねて
手紙をしたためる作業が向こうの予定より早く終わったので、自由時間が増えた。
だから俺は街に繰り出すことにした。
キリコから依頼された『勇者と魔王』の巷説蒐集のためだ。
勇者教が根付いているこの世界においては、かたちを変えた様々な『勇者譚』が存在する。
それはこの世界で生まれたならば誰もが子供のころ親から聞かされるようなもので、俺の目的は、そういった『むかしばなし』の蒐集なのだった。
王宮がある区画を抜けて、ようやく解放されたような気分になる。
俺の服装はそこではだいぶ目立つのだった。たぶん迷い込んだ物乞いあたりに思われているんだろうなという視線が厳しすぎたのだった。
市場を通り抜けるころにはもう俺の姿をみとがめるような者もいなくなった。
久々の都会を散策したい気持ちもわいてきたが、キリコとの生活のためにさっさと目的を果たしてしまうこととする。
俺の昔の仲間は冒険者ギルドにいるはずだ。
ごみごみした石造りの通りを、ガラの悪い連中と覇気のない連中が多い方向へ流れていくと、半壊した木製ドアが目につく大きな建物にたどりつく。
そこが『冒険者ギルド』と言った時に連想される建物で、前の世界風に言えば『人材派遣会社』ということになる。
冒険者というのは『冒険心のある者』という意味合いの言葉で、これを言葉を飾らずに言えば『家業も継がず才覚も見出されず定職に就けないダメなやつ』となる。
知能や教養、特殊才能がないと思われている冒険者たちは、主に力仕事と単純作業を割り振られる。
場合によっては国軍に徴発されてモンスター退治に駆り出されたりもする。
……そう、実のところ、『モンスター退治』は国軍の仕事なので、冒険者に回ってくることは滅多にないのだった。
冒険者の主な仕事は街の美化活動と、重い荷物の輸送だ。
モンスター退治なんかは『かっこいい仕事』に分類されるため人気で、俺がキリコに言った『モンスター退治なんかもしてたんだよ』は、正しく言えば『国軍のモンスター退治に同行して肉盾やったこともあるんだよ』となり、全然かっこよくない。
懐かしさを噛みしめながらギルドに入る。
そこは壁に貼り出された依頼書(とはいえそこにあるのは文字ではなく、依頼内容、拘束時間、賃金などを表す記号だけれど)の前にたかる人たちの熱気で満ちていた。
視線を壁際に転じれば、その列に加わるほどの熱意のないひとたちが、壁に背をあずけて座り込んでいたりもする。
俺の目的は壁に座り込んでいる人の方で、そこを見回せば、目的の人物が存在した。
遠目に見たその人は、背の低い観葉植物に見えた。
実際、ジッとしていることが多いので、しっかり視線を向けないと観葉植物だと思ったままの人も多かろう。
緑の髪に、樹皮を思わせる褐色の肌。
目を閉じてみじろぎ一つしない姿はしばらく見ていても長い葉の生えた植物のように錯覚してしまうほどで、俺が肩を叩いてようやくその人は目を開けた。
緑色の大きな瞳がこちらを捉える。
低い身長、幼い顔立ち。
しばし感情の浮かばない……強いて言うなら寝起きで状況を把握していないような……ようなというか、たぶん寝てた……ぼんやりした顔でこちらを見ていたが……
ようやく俺を俺だと認識したのか、にへらっ、とだらしのない笑顔を浮かべた。
「貸してた酒、返してくれるのかい?」
あんまりにもあんまりな、五年ぶりの再会であった。
いや、そもそも酒なんか借りてねーよ。
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