第17話

 僕は北風響。東京産業大学経営学部の二年生である。三年前、高校二年生の時の不思議な体験。ドッペルゲンガー出現事件のことは今でも忘れられない。よりによって僕と冬月時雨さんに同時にそいつらが姿を現して……結局天霧吹雪先生に僕らは救われたことになっている。

 あの日以来、そいつらは出現していない……と思う。どこかで北風ヒビキとして悪さをしていないとは限らないけど。こんど会ったらただじゃおかないぞ。


 三年前、あの日から三日間ほど冬月時雨さんは学校を欠席した。そりゃそうだよね。そうとうショックだったと思うよ。北風ヒビキを僕と信じ込んでいたんだから。僕も冬月シグレを冬月時雨さんさんだとばっかり思ってたし。冬月さんに合わす顔がない。それにしても冬月さん大丈夫かなあ。心配である。


「北風~、冬月さんのこと心配してるでしょ?」

 峯雲深雪の登場である。相変わらずのノーテンキぶりだが、僕が冬月さんのことを考えているのは察しているようだ。

「ああ心配だよ、悪いか?」

 僕は深雪が相手だとついついブッキラボーになる。

「そうよね、彼女入学以来無遅刻無欠席だったらしいから。いったいどうしちゃったのかしらねえ」

 僕には理由が分かっているけど、深雪には言えない。


「いいわ、わたし今日の放課後、彼女の家まで行ってみる。今回のテスト対策でお世話になったし。それに……それに北風のそんな顔見たくないもの」

 思いがけない深雪の言葉である。

「峯雲ホントか? 行ってくれるの?」

「ええ行くわよ、行けばいいんでしょ。北風、感謝しなさい。わたし敵に塩を送った武田信玄みたいね」

 あのねえ、敵に塩を送ったのは上杉謙信なんだけど。それに敵って誰のことだ? まあ細かいことは置いといて、ここは峯雲深雪に任せるしかないようだ。頼むぜ深雪!


 そして翌日。ようやく冬月時雨さんは登校してくれた。深雪よくやった! ほめてつかわす。こんどマックでもおごってやるよ。ただやはり冬月さん元気がなかった。僕と目もあわせてくれないし。これも北風ヒビキのせいだな。

 昼休み時間、僕は思い切って冬月さんを屋上に誘った。冬月さん黙ってうなずいてくれた。深雪やクラスメイトの視線を感じつつ僕らは屋上に向かった。


「冬月さん、ゴメン、本当にごめんなさい。僕の、その、ドッペルゲンガーのせいで……北風ヒビキのヤツとんでもないことをやってくれたよね。僕も……冬月シグレと……まったく面目ない!」

 誰もいない屋上。僕は平身低頭、誠心誠意、冬月さんに頭を下げた。正直何でこの僕がという気持ちがないこともなかったけれど。


「……北風君……わたしがバカでした。ひとりで舞いあがって、北風ヒビキの本質を見抜けなくて……それにわたしの方こそごめんなさい。わたしのドッペルゲンガーが北風君を惑わしてたのよね」


『『お互いさまという事で!』』


 僕と冬月時雨さんははじめて笑いあった。


 雨降って地固まるとはこのことか。冬月さんも立ち直ってくれたようだ。今後のことは二人でゆっくりと考えて行こうとなった。中間テストも終わったことだし。また妙なストーリー展開にしないでくれたまえ。ホンマに頼みまっせ。


 屋上から教室に戻ると峯雲深雪と目が合った。思わずVサインを見せると、彼女は満足そうに微笑んだ。意外に可愛いですね。まあ今回は深雪にも心配をかけたなあ。とりあえずどうもありがとう。礼を言うよ。


 僕と冬月時雨さんとのその後については、いずれゆっくりと話をさせてくれ。あれから三年たったんだね。僕らは白金学院高校を卒業してそれぞれ進学した。僕は東京産業大学に滑り込み、冬月時雨さんは系列の白金学院大学に推薦入学した。彼女ほどの学力だったら難関大学にも挑戦出来ただろうに。でも彼女に欲がなかったし。

 また峯雲深雪はなんと名門若百合女子大学に進んだ。彼女はそんなお嬢様だったのか⁉ 全然知りませんでした、ごめんなさい。ハハハ……。


 それと金髪碧眼の超美女天霧吹雪先生なんだけど、あの騒動のあとしばらくして突然学校を辞めてしまった。一身上の都合によりということらしいけど、星章太郎先生と何かあったのかなあ。僕と冬月時雨さんはドッペルゲンガー出現事件で大変お世話になったんだよね。天霧先生はいったい何者だったんだろう。ナゾです。


 そう言えば先日、若百合女子大生の峯雲深雪に呼び出されて某カラオケボックスに行ったんだけど、途中で星章太郎先生にソックリな人に会ったよ。白金学院大学の学生で名前も星章太郎だって。白金学院大学と言えば冬月時雨さんの進学先だ。同姓同名とは不思議だなあ。カノジョらしき亜麻色の髪のかわいいコを連れていた。チョットうらやましかった。

 あの二人けっこういい雰囲気だったけどその後どうなったのかなあ。なに? 峯雲深雪とはどういう関係になっているのかだと? いやいい友達ですよ。ホントだって。


 とにかくあまり無茶苦茶なストーリー展開にしないでくれたまえ。それと金髪碧眼の超美女、いつもニコニコあなたの隣に這い寄る混沌、世界一可愛い天霧吹雪にまた会いたいです。

 

 






 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る