第14話
「しょうちゃん、どうしたの? 最近元気ないみたいだけど」
「そ、そうか? 俺は元気だぞ。この通りピンピンしてるぞ」
「うそ。わたしにも言えないこと? 眉村クンも心配しているのよ」
「……若葉……」
「吹雪さんのことでしょ。いったいどうしたのよ? 彼女このところ姿を見ないけど何かあったの?」
俺は早波若葉に問い詰められていた。若葉に隠し事はできないようだ。そうだよ、俺は今元気ないさ。なぜかって? 天霧吹雪のせいだ。アイツは突然俺の前から姿を消してくれた。理由も分からずだ。
「しょうちゃん……カスミさんと何かあったでしょ、彼女の大学の学園祭で……」
「わわ、若葉、誤解だよ誤解。カ、カスミさんとは何もないよ。信じてくれ」
「ふーん、じゃあどうして吹雪さんいなくなっちゃたの?」
「それは俺が聞きたいよ。吹雪のやつ……なんで……」
本当に俺には分からない。あの学園祭の日以来、天霧吹雪は完全に俺の前からいなくなった。金髪碧眼の超美女、いつもニコニコあなたの隣に這い寄る混沌、俺と若葉とカスミさんにしか見えない俺の分身。ドッペルゲンガーでもなんでもいいからもう一度出て来てくれ。
吹雪、そりゃあしばらく出番がなかったのは分かっているよ。だから怒ったのか? たしかに少々邪険に扱ったのも認める。でも埋め合わせはしただろ? 今連載中のWEB小説で大活躍してもらったし。これから面白くなるんだから。
吹雪と俺の夢、懸賞コンテスト入選はまだ達成していない。応募はしているがやはりなかなか難しい。吹雪のやつ呆れて俺を見放したのか? いっしょに夢をかなえましょうと言っていたではないか。
「それでしょうちゃん、どうするの?」
「どうするもこうするも……アイツは俺の分身らしいし……」
「それでいいの? 心当たりはないの?」
若葉はなぜかムキになっている。
「……若葉……俺は……」
「もう、しょうがない。いっしょに吹雪さんを探しましょうよ」
「え? な、なんで……」
「だってしょうちゃん、敵の敵は味方だっていうでしょ、わたし吹雪さんがいないと困るもの」
は? 敵の敵は味方? それってどういう意味? 敵って誰?
「とにかく、いっしょにしょうちゃんの部屋に行くから。今日はもう何もないんでしょ。さ、行きましょ」
ちょ、ちょっと待ってくれ。これから俺の部屋に行くだと? そ、そんな急にいわれても……別に若葉に見られて困る物はなにもない……こともないぞ。えーとアレとアレはちょっとマズイかな。ほかには……うん、アレもヤバイかも。
「しょうちゃん、何考えてるの? わたしが行ったら都合の悪いことでもあるの? ないんでしょ。さ、行くわよ」
わ、若葉、ま、待ってくれ。分かったよ、分かったから。ホントに行くのか? おーい、待ってくれー。
「しょうちゃん、すごい……部屋ね。もう少しなんとかならないの? これじゃあ吹雪さんに見放されるわけだわ」
「むむむ、大きなお世話だよ」
だから言わんこっちゃない。以前若葉はカスミさんとこの部屋に来たことがあったけど、あの時は事前に準備が出来ていたからね。
「それで何か手がかりとかないの?」
「あれば苦労しないよ。あるとしたら……パソコンの中かなあ」
俺がWEB小説を書いているノートパソコンなのだが、この中から天霧吹雪は出て来たことになるのか。だとしたら……。
俺はパソコンを立ち上げて、WEB小説サイトの画面を表示させた。若葉もディスプレイをのぞき込む。
「何か彼女のメッセージはないかしら。天霧吹雪はしょうちゃんのペンネームでしょ」
「ああ、確認したけど何もないよ」
「そうね、ダメかあ」
室内に重苦しい沈黙の時が流れた。
「……ねえ……しょうちゃん、吹雪さんのことホントにどう思っているの? 自分の分身以上の存在なんじゃないの? いなくなってはじめて……気が付いた……」
若葉の鋭い指摘に俺はタジタジとなった。
「若葉、参ったよ、降参降参。アイツは俺の分身らしいけど、まったくの別人格だよ。あの姿は俺の願望だそうだが、その……つまり……平たく言うと……」
「しょうちゃん! もいいいっ!」
とうとう若葉を怒らせてしまった。まるで召喚獣と空獣と悪魔レクスと両儀式とソラとクー子がいっぺんに攻めてきたようなもんだ。
「若葉、気が済んだろ、今日はもう遅いし。駅まで送るよ」
「……しょうちゃん……帰れって言うの? 家には遅くなるってLINEしたから。わたし覚悟してついて来たんだもん……」
「わわわ、若葉……」
こ、今度は若葉か! この前の有明カスミさんといい早波若葉といい、いったいどうなっているのか。こういう展開はやめてくれたまえ。
「若葉……おまえ好きなヤツがいるんだろ? だったら……」
「好きな人? いるわよちゃんと。もう、しょうちゃんのバカ!」
俺はどうしたらいいのか。吹雪なんとかしろ! と、その時だった。
「ただいまー、章太郎さん、さびしかったー?」
玄関の方で声がした。空耳でなければあの声は……天霧吹雪! 俺と若葉は飛び上がるほど驚いた。
「章太郎さん、遅くなりま……あら若葉さん……来てたんですか。章太郎さん! ちょっと目を離すとこれですか! ひどい! ひどいです!」
吹雪は部屋に入ってくるなりまくし立てた。相変わらずの金髪碧眼の超美人である。今日は紺のスーツを着こなしている。キャリアウーマンか高校の女教師といった雰囲気だ。
「吹雪! おまえいったい……どうしてたんだ? 急にいなくなって……」
「そ、そうよ、しょうちゃん心配してたんだから!」
俺と若葉が吹雪に詰め寄ると、吹雪はクスクスと笑い出した。こら吹雪、何がおかしいんだ!
「章太郎さんに若葉さん、心配してくれてたんですね。うれしいですよ。でも章太郎さん、ワタシが忙しかったのは分かってますよね?」
「ん? どういう意味だ?」
「もー、サイテー。ワタシにイロイロさせたでしょ。なんでワタシが世界史のセンセーなんですか。章太郎さんは現国のセンセーだし。それに……」
吹雪は言葉を切った。
「それに、ワタシ、ドッペルゲンガーと対決までさせられたでしょ。まったくややこしい設定にするからですよ。後始末が大変だったんだから」
えええ? それって今連載中のWEB小説のことではないか。たしかに作中に天霧吹雪センセーに登場願ったよ。でもそれは出番の少ない吹雪に少し活躍してほしかったからなんだが。それに、後始末ということは……。
「……吹雪……今まであの話の中で……続きを処理していたと……」
「やっと分かってくれましたね。ワタシ、いつもニコニコあなたの隣に這い寄る混沌 ですよ。どうにか戻って来ました。若葉さんにも心配おかけしました」
吹雪は素直に頭を下げた。若葉は啞然としていたがすっかり毒気を抜かれてしまったようだ。「わたしもう帰る。送らなくていいから」と帰ってしまった。俺と吹雪はまた二人だけになった。ふーやれやれだぜ。
結局、天霧吹雪は俺のところに帰ってきた。まったく人騒がせなやつだ。しかしやはり俺のペンネームは世界一可愛いです。
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