第13話

「フー、やれやれ終わった終わった。篠竹どうだった? できたか?」

「おれか? できるわけないだろ。さあこれでバスケがやれるぞ。北風、おまえこそどうだったんだ?」

「ハハハ、ダメダメ。うーん赤点だけは免れるかなあ」

「そうか、そうか、まあお互い次の期末でがんばろうや。アハハハ」

 僕は北風響。やっと一学期の中間テストが終了したところだ。

「じゃあな、おれは部活があるからよ。北風、おまえはいいなあ」

「ん? どういうい意味だ?」

 篠竹は苦笑いを浮かべ手を振って去って行った。


 何だかよくわからんが、とにかく中間テストは終わった。これで大手を振って冬月シグレさんとデートができる。ただ僕らの関係はまだ一般公開してないけど。そろそろどうかなあ。峯雲深雪がどうも勘づいているような気がするんだ。ちょっとヤバイかな。 


「北風~、やっと終わったね! 今回わたしはバッチリよ! これから皆でカラオケボックス行くから、いっしょに行こっ!」

「ふーん、やるじゃん峯雲。でも悪いが今日は付き合えん」

「そ、そう、ヤッパリね……ま、まあがんばることね」

「え? 何のことだ?」


 篠竹も峯雲もいったい何を言ってるんだか。どう思われようが今日は久々にシグレさんと……。テストが終わったら会おうねと約束をしている。悪友どもは放っておいて待ち合わせ場所に急ぐとしよう。えーと、シグレさんはというとクラスの女子に囲まれているけど、まあいつものことだから。何とか振り切って来てくれると思うよ。先に着いたら待っているとしよう。シグレさん今回も学年トップクラスだろうなあ。ホントに僕なんかにはもったいないよ。


 シグレさんとの待ち合わせ場所は、学校から少し離れたところの中学校の隣にあるコンビニだ。制服姿の高校生がウロウロしてしていてもなぜか怪しまれないだよね。中学校のOBと思われるらしい。都合のいい設定である。

 

 さて、もう少しで待ち合わせ場所という所で、僕は思わず立ち止まった。僕の視線の先には一人の男子高校生。中学校の壁に腕組みをして寄りかかっている。そいつは白金学院高校の制服を着た北風響……キ・タ・カ・ゼ・ヒ・ビ・キ。つまり僕だ。背格好といい横顔といいまったく僕そのものだ。待てよ、これで2回目ではないか? 前回はたしか図書館の駐輪場で見かけたと思う。あの時はシグレさんらしき人と一緒だった。だが今は一人だ。


 そいつは僕の方を見るとニヤリとした。な、なんだ気色の悪い、僕はあんな顔はしないぞ! さらにそいつは黙ってあごをしゃくって僕についてこいと合図した。ええい、もー頭に来た、ついて行ってやるよ! 決着をつけようじゃないか。この世に北風響は僕ひとりだ。誰だか知らんが正体を暴いてやるよ。シグレさんちょっと待っててね。


「おまえは誰だっ! なんで僕に化けてるんだっ!」

 僕とそいつ、(北風響もどき)は近くの公園の一角で対峙した。僕はそいつに向かってほえた。

「誰だって? 見ての通り北風ヒビキに決まってるだろ。どこに目をつけてるんだ?」

そいつは余裕しゃくしゃく、平然と言い放った。ええい腹が立つ。

「北風響は僕だっ! 白金学院高校2年E組北風響はこの僕だ!」

「アハハハ! それはボクのセリフだよ。おまえこそ目ざわりなんだよね。そろそろ決着をつけようじゃないか」

「何だと? 言わせておけば……」

 僕とそいつは至近距離でにらみ合った。はたから見ると一卵性双生児の高校生が口ゲンカしていると思うかもしれない。

「ふん、それにボクはね冬月時雨さんと付き合っているんだよ。どうだ参ったか」

「ば、ばかを言うな、冬月さんと付き合っているのはこの僕だっ!」

「ハハハ、おめでたいヤツ。おまえが付き合っているのは冬月シグレだろ。冬月時雨さんはこの僕と……」

「いい加減にしろっ!」

 僕は思わずそいつの胸ぐらをつかんだ。

「ふん、バカめ」

 そいつは僕の腕を振りほどくと、さびしそうに笑った。

「あのなあ勘違いするなよ。冬月時雨さんと冬月シグレは別人なんだよ! ボクとおまえも別人だ。ボクは北風ヒビキ、おまえは北風響。分かったか!」

「お、おまえ、いったい何を……」 

 僕の頭の中は混乱した。北風響と北風ヒビキ、冬月時雨さんと冬月シグレさん……いったいどうなっているのか。こんなフクザツな連立方程式、数学の苦手な僕に解けるワケないでしょ。


「二人ともそこまでにしなさい!」

 突然僕らの背後で女性の声がした。

「「あ、天霧先生!」」

 僕とそいつは同時に声をあげた。そこには金髪碧眼の超美女、白銀学院高校女教師の天霧吹雪先生が立っていた。スタイルも抜群で紺のスーツがよく似合っている。

「先生、なぜここに……」

「くそっ、天霧吹雪か……」

 僕とそいつの考えてることは少し違うようだ。

「そうよ、天霧吹雪よ。北風響クンと北風ヒビキね。間に合って良かった。北風クンビックリしたでしょ、ごめんなさいね。北風ヒビキいい加減にしなさい!」

 天霧先生はそいつを一喝した。

「天霧吹雪! ジャマするなっ!」

 そいつも先生に食ってかかる。

「おとなしく消えなさい! 二度と姿を現したらダメよ!」

「ええい、覚えてろ!」

 僕はそいつと天霧先生のやりとりを呆然と聞いていた。この展開に頭がまったくついていけない。この二人いったい……。

 そして、そいつ北風ヒビキとやらはこつ然と僕らの前から姿を消した。そうまるで煙のように消えてしまったんだ。僕と天霧先生を残して……。


 その後、僕と天霧吹雪先生は喫茶店に移動した。向き合って座ると、まるでデキの悪い生徒が先生にお説教されているようだ。まあ事実それに近いのだが。

 天霧先生は、今回の件についてじっくりと話しを聞いてくれた。ただ先生はすべてお見通しだったようだ。僕と冬月さんとの関係につても、承知の上で機会をうかがっていたらしい。そして先生は僕に真剣に向き合ってくれた。コトの真相をゆっくりと僕にも分かるように説明した。


 北風ヒビキは僕、北風響のドッペルゲンガー。僕が付き合っていた冬月シグレさんは冬月時雨さんのドッペルゲンガー。北風ヒビキと冬月時雨さんも付き合っていたそうだ。つまり僕も時雨さんも相手がドッペルゲンガー、つまり分身と知らずに付き合っていたことになる。まったくややこしいことをしてくれたものだ。ドッペルゲンガー同士でつきあえばいいものを。冬月時雨さんには天霧先生から説明したそうだ。そうか、それで登場するのが遅かったのか。

 しかし、なぜ天霧吹雪先生はすべてを知っていたの? この素朴な疑問に先生は答えてくれなかった。「当たり前でしょ、ワタシは教師よ」とけむに巻かれてしまった。まあしょうがないか。 


 まったく世の中不思議なこともあるものだ。世にも奇妙な物語を僕は体験した。それにしても天霧吹雪先生、世界一可愛いです。



 



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